気体潤滑とは,液体(油)の代わりに気体(おもに空気)を潤滑剤として使用し潤滑膜を形成することをいいます。気体潤滑の特徴,使用例などについて解説します。
気体潤滑とは
液体の代わりに気体を潤滑膜とする気体潤滑が実用化されているそうです。その方法と具体的使用例,特徴などについてご教示下さい。
解説します。
1. 気体潤滑とは
ご存知のとおり,潤滑とは,相対運動をする接触面(摩擦面)になんらかの潤滑剤を供給して潤滑膜を形成させ,二面間の摩擦抵抗や摩耗・その他の表面損傷を軽減させることです。
潤滑状態は,一般に,流体,混合,境界潤滑の三領域に区分されます。流体潤滑は,二面間に比較的厚潤滑膜が存在し,完全に隔てられた理想的状態の領域です。境界潤滑は,二面の凸部同士が局部的に接触している状態で,厚い潤滑膜の形成はない領域です。また,混合潤滑は,両者が混在する潤滑領域であります。
潤滑膜を形成する潤滑剤は,いわゆる「油」が一般的であり,潤滑剤の大部分は油であるといっても過言ではありません。この潤滑剤としての油は,潤滑油と呼ばれ,液体潤滑剤を総称する言葉として使われています。世の中に存在する,各種機械装置類の相対運動する接触面には,必ずといってよいほど潤滑油または潤滑油を主体としたグリースが使用され,摩擦摩耗の低減と損傷の防止に役立っています。
ところが近年,潤滑油の使用が適当でない場合が種々出現しはじめました。これらは,極低摩耗,超高速運動,極低発熱,周囲を汚染しないなどが要求される用途です。これらの要求に答える潤滑剤の一つが気体潤滑剤であり,液体(油)の代わりに気体(おもに空気)を潤滑剤として使用し潤滑膜を形成するわけです。これを気体潤滑といいます。
気体潤滑は,他の潤滑(特に液体・・・油潤滑)に比較して種々の特徴をもっています。
(1)気体の粘性係数は,普通の潤滑油の1/1000オーダーであるので非常に摩擦が小さく,高速運動に向く。
(2)負荷容量,剛性が比較的小さい。
(3)減衰も小さいので振動のしやすさ等,使い勝手がやや悪い。
(4)すきまを小さくとらねばならないので,加工精度が要求されコストが高くつく。
(5)気体は圧縮性があるので,相対運動の凹凸が気体膜によってならされ,精度のよい運動が可能。
(6)気体は,油に比較して広い温度範囲で特性が安定しているので使用範囲が広い。
(7)気体潤滑の場合,十分な潤滑膜を形成した流体潤滑である上,油のように気体そのものの劣化もないので寿命が長い。
潤滑膜にはこの他,固体潤滑膜もあります。
2. 気体潤滑の例
2.1 気体軸受
気体潤滑の代表例として気体軸受を取りあげます。
気体軸受は,流体潤滑を基本とするすべり軸受の一種です。そして,数μmから数十μmの小さい軸受すきまに気体膜を形成して荷重を支え,軸と軸受を非接触で支持する軸受です。
気体軸受は,その気体膜の形成方法により,静圧形と動圧形の二種類があります。静圧形は,外部からコンプレッサで圧縮した気体を,絞りを通過させて軸受すきまへ導き,その圧力で負荷能力と剛性を得ます。よく使われている絞りの形式には図1のようなものがあります。また動圧形は,軸と軸受の相対滑りによって発生するくさび作用あるいはポンプ作用によって周囲の気体を引き込み,圧力を上昇させ負荷能力と剛性を得る軸受です。この形式の軸受にも多くの種類がありますが,代表的なものを図2に示します。
2.2 気体軸受の応用例
最近の半導体,コンピュータ,レーザー,映像,情報などに関する技術と機器の進歩はめざましいものがあります。これらの機器そのものおよびその製造技術の基盤には,寸法,形状,運動,制御に関する精度の超精密化があります。この精度の超精密化を達成するためには,機械の運動を支える軸受の高精度化が不可欠です。気体軸受は,このような背景から近年とみに実用化が進んでいます。以下に気体として空気を使用した空気軸受の実用例を紹介します。
写真1は,ディスク(光,磁気)の検査装置に数多く使用されているダイレクトドライブ(モータビルトイン)タイプの静圧空気軸受スピンドルモータです。また写真2は,レーザスキャナのポリゴンミラを支える動圧空気軸受スピンドルです。レーザスキャナは,高画質の普通紙記録を特徴とするレーザプリンタ,レーザファクシミリあるいはインテリジェント機能を有するデジタル複写機などの情報機器のプリンタ部に使用されています。
この他,Heガスを使用した気体軸受の例としてHe液化冷凍機用膨張タービンがあります。
また,軸受以外の気体潤滑例としては,磁気記憶装置の磁気ヘッド潤滑があります。
写真1 静圧空気軸受スピンドル |
写真2 動圧空気軸受スピンドル |
3. 気体潤滑の今後
他の潤滑では仕様を満足しない用途が今後も次第に増加すると思われます。したがって,前述の特徴を十分に考慮した使い方をすることが肝要であるとともに,欠点をいかに克服するかが大きな鍵といえます。