ゴムシール材と潤滑油の適合性について解説します。シールによく使われるゴム材料の特性と主な用途,難燃性作動油に対する適用材料,各薬品に対する適用材料を示します。
ゴムシール材と潤滑油の適合性について
ゴム材料には天然のゴムをはじめとして,各種の合成ゴムがあり,パッキン,シール,フレキシブルホースなどに多く利用されています。潤滑油の種類によっては使用できないとか,使用を避けた方が良いというゴム材料がありますが,この理由と使用可否を判定する方法を教えて下さい。
解説します。
ゴムの諸特性は原料ゴムによるところが大きく,充てん材,可塑剤,老化防止剤,そのほかの配合剤の添加により,ゴム状弾性体としての粘弾性性質,老化性などを大きく改質しています。シール用としてゴム材料を選択する場合,まず問題になるのは,
1)使用温度範囲(図1)
2)シール液体に対する耐性(図2)です。
図1 ゴム材料の耐熱性
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図2 ゴム材料の耐油性
(画像クリックで拡大。ブラウザの戻るで戻ってください)
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図に示した範囲はあくまで一般的なもので,厳密な適用範囲は付随するほかの条件で当然変わります。
耐熱限界を例にとれば,摩擦熱を考慮しなければなりませんし,シール液体や要求寿命によっても温度範囲が変わります。耐油性のうち鉱油ベースの一般潤滑油に対しては,アニリン点を用いると便利です。すなわち,密封しようとする油とゴムの相溶性が良くなるにつれて,ゴムは膨潤から溶解の方向へ行きますが,この尺度がアニリン点です。これが低いものほど膨潤は大きくなります。
なお,高油温にさらされる機器の作動油として,難燃性作動油が用いられますが,鉱油ベースの潤滑油とは異なった影響を及ぼすので,注意を要します。
表1にシールによく使われるゴム材料についての特性と主な用途を,表2に難燃性作動油に対する適用材料を,表3に化学薬品に対する,適切なゴム材料を選定して示します。
表1 シール用ゴム材料
名称
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シールに用いられる特徴
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主なる用途
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ニトリルゴム(NBR) |
耐油性,耐摩耗性,耐熱性,低価格 |
オイルシール,パッキン,Oリング,ダイヤフラム等あらゆるシール |
ポリアクリレートゴム(PAR) |
耐油性,耐熱性,耐ギヤ油性 |
高温,高速オイルシール,ギヤ油対象オイルシール |
シリコーンゴム(SR) |
耐熱性,耐寒性,密封性,低圧縮歪性 |
オイルシール,Oリング,ダイヤフラム,高周速部オイルシールが主要 |
フッ素ゴム(FR) |
耐熱性,耐薬品性 |
高温雰囲気のオイルシール,パッキン及び薬品対象パッキン |
ウレタンゴム(UR) |
高強度,耐摩耗性,耐候性,高硬度,耐寒性 |
耐圧パッキン,ワイパー,ダイヤフラム,ブーツ |
クロロプレン(CR) |
耐候性,耐屈曲性,耐薬品性,低価格 |
ダイヤフラム,ブーツ,ベローズ,パッキン,ダストカバー |
エチレンプロピレンゴム(EPDM) |
耐候性,耐熱・耐寒性,耐水性,耐リン酸エステル系作動油 |
リン酸エステル系作動油用オイルシール,パッキン,ダイヤフラム,ブーツ |
ブチルゴム(IIR) |
耐薬品性,耐候性,耐熱性,低圧縮歪性,低通気性 |
薬品対象パッキン |
クロロスルホン化ポリエチレン(HR) |
耐薬品性,耐候性,耐熱性 |
薬品対象オイルシール,パッキン |
スチレンパッキン(SRF) |
耐ブレーキ油性,加工性良,低コスト,鉱物油膨潤性 |
ブレーキパッキン |
天然ゴム(NR) |
高強度,耐屈曲性 |
ダイヤフラム,ブレーキパッキン |
エピクロルヒドリン(CHRCHC) |
耐油性,耐熱性,耐寒性, |
ダイヤフラム,ブーツ,オイルシール |
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表2 難燃性作動油に対する適用材料
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難燃性作動油
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鉱物油
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水-グリコール系
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リン酸エステル系
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塩素化炭化水素
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ジエステル油
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シリコンエステル油
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低アニリン点油
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高アニリン点油
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NBR |
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SBR* |
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UR |
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CR |
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EPDM |
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IIR |
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PAR |
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SR |
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FR |
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PTFE |
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:優 :良 :可 :不可 *スチレンゴム |
表3 各薬品に対する適用材料
薬品の分類
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薬品の代表例
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適用ゴム材料
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無機酸類 |
塩酸,硫酸,硝酸,リン酸,クロム酸 |
IIR,CR,HR,FR,PTFE |
有機酸類 |
酢酸,シュウ酸,ギ酸,オレイン酸,フタル酸 |
IIR,SR,SRR,PTFE |
アルカリ類 |
カセイソーダ,カセイカリ,アンモニア水,水酸化カルシウム |
IIR,HR,SBR,PTFE |
塩類 |
塩化ナトリウム,硫酸マグネシウム,硝酸鉛,塩素酸カリ |
NBR,HR,SBR,PTFE |
アルコール類
グリコール類 |
エチルアルコール,ブチルアルコール,グリセリン |
NBR,IIR,PTFE |
ケトン類 |
アセトン,メチルエチルケトン |
IIR,SR,PTFE |
エステル類 |
酢酸ブチル,ジブチル,ブタレート |
SR,PTFE |
エーテル類 |
エチルエーテル,ジブチルエーテル |
IIR,PTFE |
アミン類 |
ジブチルアシン,トリエタノールアシン |
IIR,PTFE |
脂肪族類 |
プロパン,ブタジエン,シクロヘキサン,ケロシン |
NBR,PAR,FR,PTFE |
芳香族類 |
ベンゼン,トルエン,キシレン,アニリン |
FR,PTFE |
有機ハロゲン化類(塩素) |
四塩化炭素,トリクレン,二硫化エチレン |
PTFE |
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