潤滑油を現場でチェックする簡易試験法について,その種類と特徴を解説してください。
解説します。
潤滑油の性状は,測定方法(条件)により異なり,また熟練度により値のバラツキに大小を生じるので潤滑油供給者または専門業者により専業的に行われていましたが,年々測定方法の標準化も進み,受容側の知識技術も進歩し,測定にある程度の便利さを考えておけば,ほぼ間違いなくある程度の判定がくだせるようになってきました。サンプルの移送,試験実施,報告など一連の作業に要する時間の合理化を含め,現場での測定のための簡易(劣化)測定機が考案されるに至りました。したがって複雑な問題解析のためは別として,日常の潤滑油管理のためには十分耐えるものが出まわってます。
1. 簡易試験対象項目
粘度,色,全酸価,全塩基価,水分,汚染度,不溶解分,沈殿価,汚損度(汚濁度),清浄分散性,塩分,強酸があります。
2. 測定対象油種
測定対象油種と簡易試験項目とを一覧表で表1に示します。
表1
|
3. 各試験項目の測定原理
3.1 粘度
(1)一定量のサンプルをノズル径の定まったカップに入れ,流出に要する時間(秒数)を読み,ノズル径別換算表と温度補正から粘度を算出します。
(2)標準液とサンプルとを一定容器に入れ転倒して,封入した気泡の上昇に要する時間(秒数)から粘度を算出します。
(3)標準液2種類とサンプルとを一定量容器に入れ,同時に斜板上を流下させ,流下距離の比較を粘度換算図で行い粘度を算出します。
(4)一定容器中に入れたサンプルに鋼球を入れ,あらかじめ用意されてた2種類の粘度の標準液との液中落下速度比較により粘度を求めます。
3.2 色
ガラス容器中にサンプルを入れ,色標準板と対比させて色を定めます。標準板としてはガラス板,ASTMカラー表示が用いられます。
3.3 全酸価
(1)一定量のサンプル溶剤と指示薬を加え,さらにアルカリ標準液(滴下液)を加えていき,変色により,全酸価を求めます。
(2)一定量のサンプルを取り,KOH0.1mg分の入った小容器を1個づつ入れていき呈色反応により全酸価を定めます。
(3)一定量のサンプルと試薬とを振りまぜ分離した透明液相の色で全酸価を判定します。
3.4 全塩基価
(1)発色剤を含む溶剤を用いて,試料油をろ紙面に展開し,発色帯の幅を測りアルカリ価を求めます。
(2)サンプル1滴を溶剤にとかし,指示薬入滴定液を加えていき変色点でアルカリ価を求めます。
3.5 水分
(1)水分と反応する試薬を一定量容器に入れたサンプルに加え,生成したガスの容量から水分量を算出します。発生したガスの圧力を水分量に換算するものもあります。
(2)水分により変色する試験紙にサンプルを通し,変色度合から水分量を求めます。
(3)サンプルを顕微鏡スライドに滴下して50倍顕微鏡により遊離水分を観察します。
(4)160℃に加熱したホットプレート上にサンプルを滴下して,水分の蒸発,発泡状態を標準水分含有油と比較します。
3.6 汚染度
(1)大部分の測定機が一定量のサンプルをろ過し,ろ紙上に捕捉したゴミを標準汚染板との比較により汚染度を決めます。
(2)ろ紙上に捕捉したゴミと,ろ過しないろ紙の両方に近赤外線を照射し,反射率の差で換算します。
3.7 不溶解分
(1)サンプルをろ過し,ろ紙表面の濃度により不溶解分を決めます。
(2)ろ紙上に捕捉した不溶解分の重量を測定します。
3.8 沈殿価
(1)5ミクロンのろ紙に一定量のサンプルを通過させた後,溶剤で脱脂をして乾燥し,捕捉物の重量を沈殿価とします。
3.9 汚損度
(1)ろ紙上に滴下した試料の拡散状態と斑点の度合を観察して,あらかじめ用意された標準色との比較により汚損度を定めます。
3.10 清浄分散性
(1)均一な網目構造を持ったろ紙上にサンプルを滴下してサンプルの分散状態を判定板との比較で清浄分散性を求めます。
3.11 塩分
(1)重クロム酸銀を含浸させたシリカゲルの入ったガラス管をサンプルに浸して,ガラス管の変色域の長さから塩分を求めます。
3.12 強酸
(1)ろ紙に指示薬とサンプルを滴下して指示薬の色によって強酸価を判定します。
4. 測定範囲および精度
各社のデータをまとめ一覧表(表2)に記載します。測定範囲は各社ともそれほど大差はありませんが,精度については簡易試験の性格上,操作のしやすさ,考え方に幅があり,したがって精度の程度もまちまちです。
表2 測定範囲,精度
|