赤外吸収スペクトルによる分析 | ジュンツウネット21

使用潤滑油の分析(劣化判定)の赤外吸収スペクトルが利用されているようです。その場合,吸収波長の位置から基油の劣化はないと判定したり,タービン油などでDBPC(酸化防止剤)の吸収波長に変化があった場合に,更油をすすめるなど油メーカーの指導があると聞いています。この赤外吸収スペクトルによる分析とはどういうことなのか,ご説明下さい。

解説します。

物質は色々な元素が,個有の割合,結びつき方で組み合わさってできており,この組み合わせの違いを区別し検出するために,多くの方法が試みられています。

しかし,物質ごとにそのものにしか情報を示してくれるわけではなく,いくつかの基本的な結びつきの情報が合わさって出てきます。したがって,ある単一の分析法が一つの定まった結論を必ず出してくれると考えるのは間違いで,その情報の読み方,利用技術が十分でなければ適確な答は出せないことをお断りしておきます。

さて,ご質問の赤外分光分析(赤外吸収スペクトル法)とは,物質により光エネルギーの吸収の仕方が異なることを利用した分析法の一つです。

1. 赤外分光分析法の原理

赤外を表すinfra-redの頭文字をとりIR(スペクトル)法とも略称されます。赤外線領域,主として0.8~25μmの波長をどのように吸収するかにより分析を行うものが赤外分光分析法です。

化合物は,この波長領域においてそれぞれ特有の吸収の仕方を示すので,その吸収の表れる位置,相対的な吸収の強さ,形などを,既知のものと比較することで何であるかを決めることができます。

例えば,特長ある一団の原子の結びついた一つのグループは,それを含む化合物の種類が異なってもほぼ定まった波長範囲内に吸収を示す(特性吸収という)ことが知られています。したがってこれらの特性吸収から,どのような「特長ある原子の結びついたもの」から成るかを定性的に知ることができるので,化合物の構造決定の一手段として利用されます。

また,2~3成分の混合物なら,それぞれの成分を同定することも可能であり,不純物の検出なども行えます。さらに,吸収の強さが一般にはある一定法則により変化するので,これにより定量も可能な場合があります。

2. 分析装置とスペクトルチャート

図1に代表的な分析装置を示します。この装置により図2のような連続した曲線が得られます。これをスペクトルチャートといいます。この横軸には波長(μm)または波数(cm-1)〔波数=10,000/波長 で単位長さ(1cm)当たりの振動数として表す〕が,縦軸にはそれぞれの領域の光の透過率(%)がとられます。

分光器の外観例(Perk in-Elmer 21型)
図1 分光器の外観例(Perk in-Elmer 21型)
SAE-10基油の酸化前,酸化後のスペクトル
図2 SAE-10基油の酸化前,酸化後のスペクトル

吸収された赤外線の波長は,官能基(特長あるグループ)の定性的検出目安であると同時に,その吸収の強さは定量的尺度にもなります。事実すべての官能基は吸収を示すので,赤外分光分析法は非常に有用な分析法といえます。しかし,非常に数多くの化学結合の吸収がスペクトルチャート上に現れるので,互いに妨害しあう欠点もあります。吸収の位置,強度などは多くの研究者により,吸収帯表としてまとめられています。また,一つの化合物の吸収は1ヵ所にだけ現れるとは限らないので,判定には多大な経験が必要となります。

スペクトルの具体例として図2図3に潤滑油基油およびその劣化油,主な添加剤のスペクトルをあげます。

潤滑油製品には多種類の添加剤がある濃度に薄められて使われており,その化合物も特殊なものが多く構造も複雑で,IR法のみでの解析は難しいが,いくつかの特性吸収帯によりそのタイプを判別することは可能です。

添加剤のスペクトル
図3 添加剤のスペクトル

未知物質をIR法で同定するには,(1)吸収帯の位置および強度から特性吸収帯表などを参考にしていくつかの原子団をえらび出し,それにより化学構造を推定し,予想した物質のスペクトルと比較するか,(2)さらにある範囲内の化合物の種類が決まった後,似ていると思われるスペクトルを数多く集め,その中から未知物質と同じスペクトルを探し出します。

このいずれの場合にもできるだけ多くのスペクトルを集めておくことが必要です。

3. 潤滑油劣化判定への応用

いわゆる潤滑油の劣化は,表1のように大きく分けられ,スペクトルチャートに変化が現れます。

表1 潤滑油の劣化とチャートの変化
添加剤の消耗 使用している添加剤特有ピークの減少,消滅と変化生成物のピークの出現
油自身の劣化(いたみ) 新しい熱・酸化劣化物などのピークの発現
コンタミネーションによるもの 新しいピークの発現および既存特有ピークの減少,消滅

油の傷めつけられ方,すなわち使用条件によりこれらの原因がからみ合ってくるので,多くはスッキリ区分することができません。したがって,まず添加剤の特長ある吸収ピークの変化,未知ピークの発現,基油などの熱・酸化変化などによる特定ピークの発現などに注目し,それらの吸収ピークの変化により劣化の程度を推定します。酸化防止剤(フェノール型とかZn DTP)が加えられていれば,その特有の吸収ピークの変化(減少)により消耗程度すなわち広い意味での劣化の進行が予測できますが,図3から分かるように,有効成分の濃度および分離・濃縮の仕方がまずポイントになります。また,新油のスペクトルが分からない場合には,比較対照がないので,油自身の劣化により生じる吸収ピーク,例えばC=O吸収(1,710cm-1)で判断するにとどまります。

いずれにしても,高級潤滑油の劣化を赤外分光分析のみで判断するのは無理で,総合的な分析に基づき判断する必要があると思います。

<参考文献>
*1 石油機器分析の実験,南江堂

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

アーステック



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