食品機械用潤滑剤メーカーの近年の取り組み | NSF H1 | 食品機械用潤滑剤ガイド | ジュンツウネット21

国内で販売されている食品機械用潤滑油は,NSF H1,USDA H1,FDA認証潤滑剤,食品用潤滑油・グリース,食適油等の様々な規格名・名称・呼称が混在している状況です。このような状況で食品工場の設備担当者は若干混乱をしています。現在,規格として潤滑油でオーソライズされているものは,NSF H1のみです。

株式会社レッド&イエロー 阿保 篤志  2002/5

はじめに

食品機械用潤滑剤メーカーの視点から,近年の食品業界の動向と潤滑剤メーカーの役割についてお話しさせていただきます。なお,文章中で潤滑剤という言葉は「潤滑油」「グリース」両方を表す意味で使用しております。「潤滑剤」という言葉のニュアンスから特別な添加剤等をイメージするかもしれませんので,先にお断り致します。

1. 食品業界の動向

食品業界は,食中毒事故,BSE問題等で,食品に対する安全性への世間の関心が集まっております。製品の品質,安全への取り組みが,食品企業の企業力を表しているといっても過言ではありません。食品業界では,製品の安全性について,HACCP等の手法も取り入れて,あらゆる観点から見直しが行われています。

食品工場内で使用される潤滑剤は他の産業に比べて使用量は多くありませんが,様々な機械に使用されています。食品工場内で使われる潤滑剤についても,HA(ハザードアナリシス)をしなければなりません。(表1

表1
食品工場でも様々な潤滑剤が使用されています。
●ベアリング 軸受油/グリース
●ギヤ ギヤ油
●油圧装置 油圧作動油
●コンプレッサー コンプレッサー油
●チェーン駆動装置 チェーン用潤滑剤
●ベルトコンベア グリース
●熱伝導設備 熱媒体油
潤滑剤が使用されている機械

HACCP での潤滑剤への考え方の優先順位は,

(1)潤滑剤を使用しない
(2)潤滑剤が漏れない・触れない対策
(3)偶発的接触が許容される潤滑剤の使用

という順序です。(表2

表2 潤滑剤のHACCP対策
Step1
潤滑剤を使用しない

Step2
潤滑剤が漏れない/触れない対策

Step3
偶発的接触が許容される潤滑剤の使用

しかし,(1),(2)の対策を全ての個所に行うことはコスト的には現実的ではなく,また,潤滑剤を使用している限り,潤滑剤が100%入らないようにすることは,現実的には不可能です。したがって,(3)の偶発的接触が許容される潤滑剤の使用が必要になってくるのです。HACCP対応,異物混入対策の取り組みとして,大手食品・飲料会社をはじめに食品機械用潤滑剤を採用する企業が増えてきております。

2. 食品機械用潤滑剤の規格と性能

2.1 規格,製品の名称について(図1

「食添油を使いたいが,どういうのを使えばよいか。」のようなお問い合わせをよく頂きます。国内で販売されている商品には,「NSFH1」,「USDA H1」,「FDA認証潤滑剤」,「食品用潤滑油・グリース」,「食添油」,「食適油」等の様々な規格名・名称・呼称が混在している状況です。このような状況で食品工場の設備担当者は若干混乱をしています。

「食品機械用潤滑剤」の種類

図1 「食品機械用潤滑剤」の種類

現在,規格として潤滑油でオーソライズされているものは,「NSF H1」のみです。「USDA H1」は,現在はUSDAはH1の認証を行っていませんので,「過去に,USDA H1認証を受けた商品」という表現をするのが正しいでしょう。これから発売される新製品には当然USDA H1は認証されません。また,「FDA 認証○○」や「食品機械用○○」等といった名称には,公的な基準はなく,製造メーカーの独自の判断でつけられている名称です。「食品機械用○○」と明記されていても,どんな規格を取得しているかまったく説明していない製品も中にはあります。

お客様から「厚生労働省が認可した食品機械用潤滑剤を使いたいが」という質問を頂くことがあります。厚生労働省では,食品添加物成分規格で,流動パラフィンをパン製造時の分割油(デバイダー油および離型剤)として使用を定めているだけです。つまり,潤滑剤ではなく,食品添加物として認可されているのです。ですから,厚生労働省が認可している食品機械用潤滑剤の規格というのは,存在しません。

海外では,例えばヨーロッパの食品加工機器の規格であるEC Machine Directive89/392/EECの中に,FDA適合(=H1規格)の潤滑剤の使用に関する記述があります。日本では,目下のところ,食品機械に使用する潤滑剤に対しての指針や規格はない状況です。海外では,「NSF H1規格」が食品機械用潤滑剤のスタンダードであり,日本でも,大手食品・飲料会社で採用されていることから,今後は当局からも何らかの指針が出されると考えられます。(表3

表3 食品機械用潤滑剤に関する法令
欧州
○EC Directive93 / 43 / EEC ―通称HACCP指令。95/12月からEU圏で食品・飲料品を製造する製造業者全てにHACCPによる製造工程管理の導入が義務付けられた。
○EC Machine Directive89 / 392 / EEC  ―欧州衛生的装置設計組合(EHEDG:European Hygienic Equipment Design Group)が勧告している食品加工機器の設計,据え付け,洗浄等のガイドライン。
―潤滑剤に関するガイドライン
「FDA の規則(21CFR §178.3570)に適合したグリースおよび潤滑油であること=NSF(USDA)H1」
日本
○厚生労働省 ―食品衛生法第7条[食品又は添加物の基準及び規格]
―食品衛生法第9条[有害有毒な器具又は容器包装の販売の禁止]
―食品機械で使用される潤滑剤の安全性に関する規制・規格は現時点で存在しない。

潤滑剤メーカーは,これらの食品機械用潤滑剤の規格,名称の違いをユーザー側に十分に説明する必要があります。「食べても安全」「人畜無害の潤滑剤」という表現は,正しい説明ではありません。例えば,食品添加物でも,使用量や使用方法に制限があるのと同じで,混入許容濃度や使用する個所に関する説明も十分にする必要があります。また,規格のない商品の場合については,「毒性についてどのような評価がされているか」,「どのような使用方法が適当か」を十分に説明する必要があります。

NSF H1品認証規準である,FDAの規定によれば,H1認証潤滑剤の食品への混入許容濃度は「10ppmを超えないこと」とされています。一方,当然ながら,H1以外の工業用潤滑剤は,たとえわずかでも食品への混入は許されていません。

2.2 一般潤滑剤(nonH1)とH1 潤滑剤の性能について(図12

規格をとっていない食品規格用潤滑剤は別として,H1潤滑剤の場合FDA(米国食品医薬安全局)のリストにあるベースオイルと添加剤から構成されています。ベースオイルはPAO(ポリαオレフィン)等の合成油や流動パラフィン(ホワイトオイル)等です。これにFDAに適合した酸化防止剤や極圧剤に相当するものを使用することができます。ここで注意しなければならないのは,当然FDAのリストの添加剤には使用できるものに制限があります。一般潤滑剤のように性能を向上させるために,従来の極圧剤や酸化防止剤を入れることはできません。したがって,一般潤滑剤と同等の性能を出すことはそれほど簡単ではありません。添加剤に制限がある中で,いかに性能を引き出すことがメーカー各社のノウハウになってきます。一般的にはH1潤滑剤が一般潤滑剤(nonH1)と性能を比較した場合,合成油ベースの遜色がない性能となっております。

H1潤滑剤の導入を検討されている食品工場では,現在ご使用の潤滑剤,使用する個所を考慮し,候補のH1潤滑剤の性状をよく検討し選定することが必要になってきます。

一般潤滑剤とH1潤滑剤

図2 一般潤滑剤とH1潤滑剤

2.3 ユーザーの求める要求性状

食品機械のみならず,食品工場で使用されるさらに基礎的な機械である,ベアリング,ギヤ,ポンプ等の機械メーカーもH1潤滑剤の使用について,機械メーカーの指定,推奨品として,検討する所が出てきております。すでに海外の食品関連の機械メーカーではルブリストに一般潤滑剤とH1潤滑剤が併記されている所が少なくありません。

機械が潤滑剤に求める要求性状について考えてみると,基本的には,一般の潤滑剤と同じです。さらにいえば,食品工場の場合,品質に対して非常にデリケートな神経を使う製品の性格上「機械のトラブル=製品の品質」であることを考慮すると,一般潤滑剤より高い潤滑性能,長寿命の潤滑剤が求められます。

例えば,従来,食品工場で一般的に使用されてきた,流動パラフィンのように,一般潤滑油より極圧性,耐摩耗性,熱酸化安定性等の性能が劣るのであれば,ギヤオイルや作動油としては使用できません。機械メーカーもそれらの使用を認めないでしょう。食品機械用潤滑剤に求められるのは,安全性H1規格をクリアするベースオイル,添加剤で一般の潤滑剤の性能と同等以上の高い要求性能になります。これらの要求性能を満たした潤滑剤であって初めて,お客様が安心して食品工場の装置機械に使用することができるのです。

食品工場で「食添油は性能的に劣る。すぐ黒くなるから使えない」という話を聞くことがあります。ある意味で当たっています。食品工場で昔から使用されてきた流動パラフィンや植物油のイメージで言われているのです。

すでに数多くの実績のある海外での食品工場や機械メーカーの状況を踏まえ,H1規格潤滑剤でなおかつ,潤滑剤の性能としても確かなものを食品工場が使用できるような商品を提供していく必要があります。

3. 製造・品質管理

食品工場で使用される潤滑剤も「食品に万が一接触するような個所で使用される潤滑剤」というH1潤滑剤の定義から考えれば,H1潤滑剤自体が,一定のレベルで食品や薬品に順ずる扱いを受けなければなりません。例えば,食品に使用される包装容器は,一般の工業用包装容器より高いレベルの品質管理で製造されているのと同じです。各潤滑剤製造メーカーがどのような製造設備で製造し,品質管理を行っているかが重要です。例えば,一般潤滑剤とのコンタミ等について考慮された工場,設備で製造,充填されているかは重要なポイントです。

現在は,NSF H1規格の中では,製造面に関する指針は特になく,各製造メーカーの独自の基準で行われていますが, 例えば,HACCPやGMPの手法を取り入れた製造設備の推進も必要になってくると考えられます。それまでは,使用する食品機械用潤滑剤が「どこの工場でどのような品質管理のもと製造されているか」をユーザーである食品会社や食品機械メーカーは注意する必要があります。

おわりに

海外の食品会社が標準的にH1潤滑剤を使用していることから比べると,日本の食品メーカーにおける潤滑剤の対策はまだこれからです。食品安全を担当する行政組織の設立が検討されており,関係当局も海外の動向を踏まえ,何らかの指針が示されるものと思われます。

食品業界では,製品の品質に関することが最重要事項であることは言うまでもありません。食品工場で使用される食品機械用潤滑剤とは,人の口に入る可能性のある「潤滑剤」です。我々潤滑剤メーカーも,高い倫理感が必要な製品を扱っているという自負が求められているのです。

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