水-グリコール作動液における一般管理試験項目とその目標管理値と作動油交換条件について解説します。また,鉱油系作動油を使用していたシステムで水-グリコール系作動液に交換する時の注意事項を示します。
水-グリコール系作動液のチェックポイント
ダイカストマシンに水-グリコールを使用しています。最近PHを測ったところ8.2と低くなっていることがわかりました。そこで,油メーカーに問い合わせたら,添加剤を投入するか,更油して下さいとの回答でした。アルカリ価を調整するのであればKOHの添加で十分ではないでしょうか。
解説します。
水-グリコール系の作動液は,難燃性保持のため水分を約40%含有しています。そして,種々の添加剤を加えて油圧作動油として十分な能力を発揮できるようにつくられています。このため,一般鉱物系作動油と比較して強力な防錆性が必要となります。そして,防錆性を維持するために,防錆剤が添加されており,この防錆剤がアルカリ性を呈しているため,アルカリ価,PHを測定し,ある程度の数値を保持していくことによって防錆性を維持します。
ご質問について,PHが8.2とありますのでこれは,油の長期使用による劣化と防錆性の低下が考えられ,機器類の腐食等が問題になってきます。また,この時KOHを添加すればということですが,作動油自身のPHは上がっても,防錆能力の維持という点では,なんら解決にはならないと思われるので,油メーカーの防錆調整剤を添加するようにして下さい。そして,防錆調整剤を添加しても,PH,またはアルカリ価の上昇がない場合は,作動油を新油と交換して下さい。
水-グリコール作動液の防錆剤は,おおむね,気化性防錆剤と液相防錆剤であり,前者は,油圧タンクの空洞部の防錆効果があり,後者は,作動油自身の防錆を担っています。そして,気化性防錆剤は,作動油を使用することによって順次蒸発して消耗されていき,ある程度の数値(PH値で9.5)以下になりますと,防錆能力の低下が考えられ,油メーカーの定期管理試験を行い,その結果において,適宜,気化性防錆調整剤を補給して,防錆能力の維持を計っていきます。
次に,水-グリコール作動液における一般管理試験項目とその目標管理値と作動油交換条件は,下記の要領になっています。(ISO HFC46相当の水-グリコール作動液について)
(1)粘度(40℃におけるセンチストークス)
新油:約46cSt
目標管理値:約35~65cSt
交換基準:約35cSt以下の場合
粘度が低くなることは,水分補給過多,または冷却器の破損が考えられます。
粘度が高くなることは,使用温度上昇による水分の蒸発が考えられ,水分の適正補給をします。
(2)水分(作動油中のパーセント)
新油:約40%
目標管理値:約35~45%
交換基準:約45%以上
水分は粒度と相関関係にあり,(1)と同等。
(3)PH値
新油:約10.2
目標管理値:9~11
交換基準:約9以下
9以下になり,防錆調整剤を補給しても数値が上がらないときは,作動油の劣化のため交換します。
(4)アルカリ価(0.1N-HCl mL/100mL)
新油:約155
目標管理値:約110~170
交換基準:約110以下
アルカリ価が,約130以下になると,防錆調整剤を補給して,防錆能力を新油時と同じようにする。110以下になって防錆調整剤を補給しても回復しないときは交換します。
(5)鉱物油,グリース類分
交換基準:約1%以上
鉱物油,グリースの混入は,直接作動油の劣化につながりますので,極力混入をさけるようにする。
(6)夾雑物
夾雑物が多くなりますと,油圧機器類に重大な影響をおよぼしますので,多くなっている場合(サクションフィルターの目づまり等が発生する)は,定期的フラッシングを行うようにする。
以上,一般管理と保守についての点検チェックなどは,大体1500~2000時間運転ごとにサンプリングを行いますが,使用条件および状況により,油メーカー担当者と相談のうえ決めることが望ましいです。
また,最近は鉱油系作動油を使用していたシステムで水-グリコール系作動液に交換することが,よく行われるようです。水-グリコール系作動液の油圧システムへの影響の相違から,この時の注意事項を示しておきます。
(1)油圧ポンプ
油圧ポンプメーカによっては,水-グリコール系油圧作動液専用ポンプおよび部品の使用を要望するケースがあります。また,回転数の低減など運転条件の変更を要望するケースもありますので,油圧ポンプメーカの見解を確認し,場合によっては油圧ポンプ自体あるいは油圧ポンプ部品の取替えや運転条件の変更を行ってください。
(2)油圧バルブ
通常の油圧システムに使用されている減圧弁,リリーフ弁,切換え弁については何ら問題なく使用できますが,サーボバルブや比例式電磁制御弁などについては,機器メーカによって使用可否の判断が異なるため,サーボバルブ等を有するシステムの場合には油圧機器メーカの見解を十分に確認して下さい。
(3)金属材料
非鉄金属特に亜鉛,アルミニウムなどに対して反応性を有するので,これらの金属が油圧システム内に使用されていないか油圧機器メーカに確認し,使用されている場合には問題のないものに取替えて下さい。
(4)ゴム材料
油圧システム内での使用ゴム材料を確認し,ウレタンゴムが使用されている場合は加水分解を受け早期劣化を生じますのでNBR等水-グリコール系油圧作動液と適合性のあるゴム材料に取替えて下さい。
(5)樹脂
ゴム材料同様,油圧システム内で使用されている樹脂の種類について油圧機器メーカに確認のうえ,もしポリカードネート樹脂やフェノール樹脂が使用されていれば取替える必要があります。
最近,特に油圧タンクの液面計としてポリカーボネート樹脂が使用されるケースが多くなっていますが,水-グリコール系油圧作動液により加水分解を受け,応力のかかった部分等にヒビ割れを生じ,油漏れを起こしますので,ガラス製かアクリル樹脂製の液面計に取替えて下さい。
(6)塗装
水-グリコール系油圧作動液は基本的に全ての塗料を溶解または剥離しますので,油圧タンク内面や配管内面などに塗装がなされていないか確認のうえ,塗装されている場合には塗装を除去して下さい。
(7)フィルター
水-グリコール系油圧作動液は鉱油系油圧作動油に比べ比重が大きいためフィルター通過時の圧力欠損が大きくなると共に約40%の水分を含有するため,蒸気圧が高くキャビテーションを発生しやすい状況にあります。
このため,特にサクションフィルターはポンプの吸込抵抗をできるだけ小さくする必要があり,フィルターの孔径は100~150メッシュ程度のものを使用すると同時にポンプの吸込負圧が大きくならないようにフィルター自体の容量を十分余裕のあるものを使用して下さい。
また,フィルター材質はステンレス材が最適ですが,フィルターメーカーに確認のうえ水-グリコール系油圧作動液に適するフィルターを使用して下さい。