グリースのチキソトロピー性と流動性とは | ジュンツウネット21

グリースは静止状態では石けん繊維のため半固体のゲル状態ですが,外部から力が加わると石けんの繊維構造が破壊され,ゾル状態となって流動します。機械的なせん断を与えることによって,ゾル状態とゲル状態とか可逆的に変化する現象をチキソトロピーといいます。

グリースのチキソトロピー性と流動性とは

精密機器のミニチュアベアリングから鉄鋼圧延設備の大型軸受にいたるまで,ころがり軸受の80%以上に,潤滑剤としてグリースが使用されているといわれています。このグリースの特質であるチキソトロピー性と半固体潤滑剤の流動性についてこ説明ください。
解説します。

グリースは,外部から力が加わることによって,流動する性質をもっています。これを学問的な立場からは,レオロジー(rheology)な性質とか塑性固体(plasticsolid)としての性質をもっているといわれています。

このような性質をもつグリースが外部から力や熱を受けますと,油のようなニュートン流体とちがって,独特の流動性を示します。これは,グリースの中に固体である石けん繊維が分散されていることに起因します。

すなわち,グリースは静止状態では石けん繊維のため半固体のゲル状態ですが,外部からある量以上の力が加わると石けんの繊維構造が破壊され,ゾル状態となって流動するためです。

図1は,グリースのこの様子を模式的に示したものです。このように,温度を変化させることなく単に機械的なせん断を与えることによって,ゾル状態とゲル状態とか可逆的に変化する現象をチキソトロピーといいます。

グリースのチキソトロピー
図1 グリースのチキソトロピー

ころがり軸受内のグリースの挙動状態を考えますと,潤滑箇所では流動状となり,潤滑剤としての効果を発揮し,また一方,潤滑箇所からはずれた所のグリースは半固体状のままであり,潤滑箇所の流動状のグリースが外部にもれないように密封効果を発揮しているわけです。

以上のように,液体の潤滑油とちがって,グリースが塑性固体としての性質をもっていることが,軸受の潤滑剤として使用される大きなゆえんです。

潤滑油のような液体は,どのように小さな外部からの力が働いても流動しますが,グリースの場合,外部から力が働くと,石けん繊維間の結合力が外部からの力より大きいときは,グリースは流動せず,逆に結合力より大きい力が働くときには,石けん繊維の網目構造に分離,配向が起こり流動しはじめます。

このように流動を起こすのに必要な最小外力(せん断応力)を降伏値といいます。この関係を図2に示します。

グリースの降伏応力
図2 グリースの降伏応力

これは,石けん繊維間の結合力の強さによってことなりますが,Al石けん基のような比較的小さい繊維のグリースでは,結合箇所が多く強固なため流動しにくく,CaやLi石けん基など比較的繊維の大きいものはAl石けん基に比べて流動しやすくなります。

降伏値以上の外部からの力によって流動するグリースの粘度は,流体と同じようにニュートン粘性式によって,

ニュートン粘性式

で示されます。

液体である潤滑油は,せん断応力に比例してせん断速度を増すので,粘度は温度が一定であればつねに一定です。しかし,グリースはせん断速度がせん断応力に比例せず,図3に示すように静止しているときグリースの粘度は無限大ですが,速度が大きくなるにつれて粘度は小さくなり,次第に基油の粘度に近づきます。

このように,条件によって変化しますので,グリースの場合,見かけ粘度として表されます。

静止しているときのグリースの粘度

集中給油装置によるグリースの給脂性の良否を吸引性(slumpability)および圧送性(pumpability)という用語で表します。

吸引性は,グリースタンクからポンプによってグリースが吸い込まれる場合の良否をいいます。

吸引性が悪いと,吸い込み側に真空部分ができたり,空気だけを吸い込んだりして必要量のグリースがポンプに入らないことになり,このような状態が続くと,潤滑箇所にグリースが十分に給油されなくなって油切れを起こします。

吸引性の良否はちょう度の大小やグリース中の石けん繊維の大小によります。一般に,長繊維のグリースは短繊維状に比べて吸引性がすぐれていますし,また不混和ちょう度の大きいほど,降伏値の小さいほど,吸引性はよくなります。

グリースの吸引性は,これらグリースの特性を改良することによってある程度向上させることはできますが,実際には真空度の高いポンプを使用したり,グリースだめからポンプまで圧損失を小さくしたり,たとえば,配管を極力短かくする,配管の径を大きくする等の方法によって改善できます。

圧送性は,グリースが配管内を圧送させる場合の流動性良否をいいます。流動性が悪いと送油するのに高い圧力が必要になります。圧送性は数百メートルにもおよぶ集中給油や自動車の集中給油などではとくに重要な性質です。

圧送性はグリースの見かけ粘度の大小によります。グリースを圧送するときの圧力はグリースの見かけ粘度に比例しますから,見かけ粘度の小さいグリースほど送油圧力が小さくてすみます。

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最終更新日:2021年11月5日