油圧装置の油漏れ防止対策は,機械装置の計画段階から,現場への投入後の使用,保全管理に至るまで,首尾一貫した理解と実施が必要です。各段階での注意,検討,実施事項を解説します。
油圧装置の油漏れを防ぐには
油圧装置の油漏れを防止するのには,どのような手法があるのでしょう。その要点を解説して下さい。
解説します。
油漏れは「油の望ましくない外部への流出」と定義されます。したがって類似の事項でも,対策の似ている場合でも,油圧機器の内部漏れとは異なります。油漏れは油圧装置が使われ始めたときからの問題です。油漏れ防止対策は機械装置の計画段階から,現場への投入後の使用,保全管理に至るまで,首尾一貫した理解と実施が必要です。以下に各ステップを追って,その段階での注意,検討,実施事項を述べます。
1. 計画段階
(1)油圧を使用する目的を正しく把握する。
たとえば,収納空間または搭載重量に制限がある,速度または出力が大幅に変動する,大きな運動量の円滑な制御が必要である,高い応答性が必要であるなど。このような目的に沿って仕様を決めます。
(2)油圧装置に求められる条件を把握する。
負荷の大きさとその変動範囲,最高速度と最低速度,負荷の変動のパターンとサイクルタイム,およびサイクルタイム変動のパターンなど。
(3)油圧システムに関係する環境条件を把握する。
2. 設計段階で検討し,実施すること
実際に機械が稼動したときのために,次のようなことを設計の段階で注意して検討し,実施しておかねばなりません。
(1)油圧装置は一つにまとめた大型な装置とするより分散した小規模な装置とする。
小規模な装置はポンプよりアクチュエータまでの距離が短かいので配管の長さが短く継手の数も少ない。
(2)機械と油圧装置との位置関係を整理する。
機械装置と油圧装置とは相互に干渉してはなりません。
(3)油圧装置は,目視でき,近付きやすい位置に取り付ける。
(4)回路効率を高くする。
配管の長さを短かく回路構成を簡単にして使用機器を少なくします。
(5)サージ圧,圧力脈動の発生を予防する。
(6)油温が60℃以上になるときは冷却機を取り付ける。
(1)機器
1)標準化された市場性のある機器を使用する。
2)積層弁・複合弁を使用する。
それによって配管が節約でき,接続作業が簡単確実になります。また,仕様変更への対応が簡単になります。
3)サージ圧の発生しにくい切換弁を使用する。
直接ソレノイドで駆動する形式の電磁弁の場合は交流ソレノイドより直流ソレノイドの方が切換時間が長く,したがってサージ圧は低くなります。
4)芯出しのしやすい方式を採用する。
5)アクチュエータの応答をよくする。
制御機器(バルブ)はアクチュエータの近くに取り付け,管路長さを節約し,継手を減少させ,アクチュエータの応答をよくします。
6)機器は多連マニホールドに取り付ける。
近くにある機器をまとめることによって,管路を短かくし,継手の数を減少させ,保全がしやすくなります。
7)機器は外部環境に対して保護しておく。
粉塵,水しぶき,ミスト,放射熱,振動,落下物,人からの影響を受けないよう,必要に応じて適当な保護カバーをつけるなど対策を講じることです。
8)圧力制限形,流量制限形の機器を使用することが望ましい
(2)付属機器
1)タンク,バルブなどに使用してあるフィルタ,フィルタエレメントは取り外しが容易なこと。
2)アキュムレータ圧力の取り扱いに注意する。
3)タンクの油面計は見やすいものを見やすい位置に取り付ける。また,破損しにくいこと。
4)油タンクの容量は回路中の作動油が全部タンクに戻っても収容できる大きさとする。
5)給油口は給油しやすく,給油しながら油面計をチェックできる位置につける。
6)エアブリーザは,十分に吸排気能力があり,かつゴミの侵入を防止できるものとする。
7)フィルタは目詰まり警報装置つきがよい。また,フィルタの取り外し,または目詰まりによって汚染物質が回路内に入ることのない構造とする。
(3)配管
1)管が長くても,何回曲がっても,他の配管または機器に無関係に取り外すことができるならば1本のまま使用する。
2)管は振動,衝撃がなく移動の恐れのない固定部より支持しておく。
3)管路は長手方向に適当な間隔で支持する(JIS B8 361―7,2,9,3)。
4)配管相互の振動伝達を防止するため,管の固定部には防振材を使用する。
5)管は継手の着脱・増し締めの可能な間隔で配置する。
6)配管は機械の外側に行い内部を通さない。
7)継手の締め付けは,継手メーカーの規定する作業手順に従う。
8)配管作業は専門の作業者を育成し,それに一任する。
9)必要な箇所には空気抜弁を設置する。
(4)アクチュエータ
1)シリンダはできる限り標準シリンダを使用する。また,分解および部品の交換,組み立てができるのがよい。
2)機械に取り付けるシリンダは,シリンダだけ取り外すことが可能な構造とする。
3)シリンダポートへのパイピング部品の取り付けは,適正な締め付けトルクで締める。
4)シリンダのメータアウト回路では,ロッド側が増圧されて,定格圧力以上になることがあるため,それを考慮して定格圧力を定める。
5)油圧モータなどのドレン管路に背圧がかからないように管径と長さを考慮する。
(5)油タンク
1)油面計は,容易に目視できる位置につける。
2)給油口は油面計に近く給油しやすい位置につけ,給油のとき汚染物質の侵入しない構造とする。
3)タンクの掃除窓は十分大きくし,作業がしやすくする。
4)こぼれ油回収用の桶又はオイルパンをつける。
3. 製造段階
(1)Oリングなどガスケット・パッキンを取り付ける部分,挿入時それが通過する部分は,規定の表面粗さに仕上げ,バリ,打痕などの傷をつけないように管理する。
(2)組み立て工場のダスト管理を行い,組み立て中に機器内部または配管中にダストが侵入しないようにする。
(3)組み立て前の部品の洗浄は,内部にダストの残ることのないようにすると共に洗浄液の汚染管理を十分に行う。
(4)試運転のために使用する作動油の汚染管理を確実に行い,とくに難燃性作動液など特殊な作動油を使用したいときは,その前後の処理に注意する。
4. 使用段階(保全管理)
(1)初期運転の注意事項
1)作動液は指定油を規定の油面まで給油する。
2)リリーフ弁を開放し,寸動でポンプの回転方向を確認する。
3)ポンプを起動し,リリーフ弁の圧力を徐々に規定の圧力まで上昇させ,回路内に作動油を充満させる。タンク内の不足油を供給する。
4)各回路,シリンダのエアー抜きを行う。
以上によって,初動時に機器に無理がかかるのを防ぎ円滑に起動させる。
(2)定期点検の確実な実施
1)作動油の交換を定期的に行う。
2)ポンプの異常音,タンク油面の異常変化に注意する。油もれの有無を確認する。
3)フレキシブルホースは定期的に交換する。
4)作動油の質,清浄度を定期的にチェックする。
5)油温を定期的にチェックする。
6)動作の不良,異常音,異常振動の有無を確かめる。