油圧作動油の磁気式フィルタについて解説します。磁気式フィルタは,微小な目を持ったフィルタ中に永久磁石を組み込んで鉄系統,または鉄分と一緒になっているゴミを吸引捕集するようにしたものです。油タンク中に永久磁石を設置して,ゴミを捕捉させるものもあります。
磁気式フィルタとは
油圧作動油を浄化するのに,磁気式フィルタを用いることがあると聞きました。これの特長を教えてください。
解説します。
フィルタというのは,元はフェルトによって飲料水をろ過したことからきた言葉だそうです。
現代でも油圧作動油に限らず,各種の潤滑油を浄化するのに使われる材料には繊維成形材,編糸巻ろ材,ペーパプリーツ材,ガラスファイバ,焼結金属,金網プリーツなどが多く見られ,いずれもこのような材料が形成する極微小な隙間によって,流体中のゴミをろ過するものです。
油圧システムにおいてはフィルタを図1のような記号で示します。すなわち,油圧作動油中のゴミが流れの途中で網目にかけられて捕捉されることを表現しているのです。実際のフィルタでは,無数に存在する極微小の隙間が目詰まりする期間をできるだけ長くするために,フィルタの一定容積内でろ材の厚さや面積を大きく取るように工夫されています。それでも,いずれは極微小の隙間の目が詰まってしまいます。
図1 フィルタの記号 |
各種の潤滑油中に遊泳しているゴミは大きさがまちまちで,しかも材質は金属粉,砂,塗料片,サビ,ゴム摩耗粉,スラッジなど様々です。これらの中で鉄系統のゴミ,あるいは鉄分と混じり合ったり,くっつき合ったりしているゴミの割合は大きいのです。
そこで,微小な目を持ったフィルタ中に永久磁石を組み込んで鉄系統,または鉄分と一緒になっているゴミを吸引捕集するようにしたものがあります。永久磁石でゴミを吸着する部分は比較的隙間を大きくできますから,圧力損失は少なく,ゴミの捕集容量も大きいのです。図2に磁気式フィルタの例を示します。
図2 磁気・積層板式フィルタ |
油圧装置では一般に油タンクを備えています。油タンクの役割は,油圧回路内の各機器が作動した時に戻ってくる作動油を十分に収納することですが,このほかに放熱,消泡,ゴミ沈降,液面調整などの機能も果たしています。
この油タンク中に永久磁石を設置して,ゴミを捕捉させるものがしばしば使われます。これも一種の磁気式フィルタではないでしょうか。もっとも直方体に作られた永久磁石が油中に沈められているのですから,微小隙間によってゴミを捕えるという語源からいえばフィルタとは言えないかも知れませんが,その言葉の方が性能をよく言い表しているのでしょう。
図3はこの永久磁石方式(一般的にはセパレータあるいはキャッチャと呼ばれています)の浄化を目的とした製品の例で,図4が油タンクに設置したところを,断面を用いて示したものです*1。
図3 マイクロセパレーター*1 |
図4の方式をこのメーカではクリーニングタンクシステムと呼んでいます。油タンク内の汚染管理機能は,タンクの容量・構造・磁場の位置,広さによってことなります。したがって具体的な浄油効果についてはメーカに御相談下さい。
図4 クリーニングタンクシステム*1 |
強力な磁界をもった永久磁石を油タンク内に沈めて置く方法には,次のような特徴があるとされています*2。
(1)油中の微小鉄粉を強力に吸引する。またその際に,その付近にある他の非磁性異物をも同時に巻き込んで捕捉する。
(2)磁石の性能は永久的で,機械的な損傷のない限り寿命は永久的。
(3)一度吸着したゴミは確実に保持する。
(4)使用温度は150℃まで耐えられる。
(5)3種類の取り付け方法があるので,当該油タンクにもっとも適した方法で取り付けることができる(図5参照)。
図5 永久磁石式フィルタの取り付け方法 |
(6)交換の必要がなく,保守点検はほとんど不要(油タンクの清掃,オーバーホール時に吸着した鉄粉類をウエスでふき取るだけでよい)。
<参考文献>
*1 マイクロセパレータ・カタログ,サンエス工業(株)
*2 岡田重益,岡田勉:マグネットコンタミキャッチの特徴と使い方,油圧技術,17.1(1978)26~28