メカノケミストリとは | ジュンツウネット21

メカノケミストリについて解説します。また,具体的な現象を示します。

メカノケミストリとは

潤滑に関する用語で,メカノケミストリという言葉がありますが,なかなか理解できないでいます。これについて分かりやすくご説明下さい。また,トライボケミストリという言葉も聞きますが,メカノケミストリとはどう違うのでしょうか。
解説します。

ご質問のメカノケミストリという言葉は確かに分かりにくい言葉です。これは本来は生化学の分野で,化学的エネルギーの運動エネルギーへの転換といったことを意味するのに用いられた言葉です。

現在,トライボロジストは一体どのような意味でこの言葉を用いているのでしょう。潤滑学会で発行している潤滑用語集によりますと,次のように説明しています。

「固体物質に加えた機械的エネルギー,例えば衝撃・摩砕・圧延・引張り・加圧などによって固体表面が物理化学的性質の変化をきたし,その周囲に存在する気相・液相または固相に化学的変化をもたらすか,または,これらの各相と固体表面との界面で直接両者間の化学圧応を誘起したり,あるいは促進するなど化学的に影響を及ぼす現象をいう。」

この現象をもう少し良く理解して頂くために,固体の表面について少し説明しておきたいと思います。

本来,固体の原子は規則正しく整然と並んでいます。これは原子間の相互作用力がちょうどバランスがとれた状態にあることによります。この状態をもう少し細かく見ると,固体の表面に存在する原子と,内部に存在する原子とでは若干様子が異なります。

固体の内部に存在する原子は,その周囲全面を隣接する原子で囲まれているため,原子の持つエネルギーは隣接する原子との相互作用により飽和した状態にあります。

これに反して,表面に存在する原子は露出している側には,当然ながら隣接する原子を持ちませんので,エネルギーが飽和状態になく,表面エネルギーとして常に残存することになります。このエネルギーは表面活性というものです。表面エネルギーは,結晶格子の欠陥や歪また比表面積を増すことにより増加します。

ここまでお話ししてきた固体の表面という言葉は,実は我々が日常接している表面とは多少異なります。我々が日常扱う表面は,純粋な固体表面(清浄面)が露出していることはほとんどありません。

実際の固体面は,清浄面の上にコンタミネーションといわれる様々な被膜(酸化被膜など)が付着しています。

このような色々なコンタミネーションが付着している固体の表面は,清浄面にくらべると当然ながら活性に富んでいません。つまり,清浄面でない一般の表面は,清浄面にくらべると化学的にも安定な状態にあると考えても良いでしょう。

色々なコンタミネーションに覆われた固体面に,前述のような衝撃・摩砕・圧延・引張り・加圧といったような機械的操作を加えると,コンタミネーションが剥離して,固体の清浄面が露出します。このようにしてできた面を新生面といいます。

この新生面は前に述べましたように,それ自体非常に活性に富んでいますが,このようなプロセスにおいて,固体の表面あるいは固体内部における結晶格子の欠陥や歪などを増加させます。その結果,固体の表面は化学的に活性を増し,化学的変質を生じます。

これがいわゆるメカノケミストリといわれる現象です。

では具体的に実際にはどのような現象があるか見てみましょう。

(1)金属の腐食疲労(Corrosion Fatigue)

腐食性の雰囲気中にある金属に機械的応力を加えることにより,腐食の発生を加速させる現象で,その一例を図1に示します。図はHC1中で炭素鋼に繰り返し応力をかけた時の腐食電流の変化を示しています。応力σ0が0(無負荷)の時は腐食はごく緩慢ですが,応力が加わると腐食は急速に進んでいることが分かります。

これは,金属の表面に応力が繰り返し作用することにより,表面は微視的な塑性変形を起こし,すべりを生じます。このすべりの部分は化学的に活性な状態が生み出されています。このため機械的応力が作用しないときよりも,腐食が急速に進むことになるわけです。

応力繰り返しによる腐食電流の変化
図1 応力繰り返しによる腐食電流の変化(遠藤吉郎:表面工学,養賢堂)

(2)応力腐食割れ (Stress Corrosion Craking)

この現象は主に合金などで発生する現象で,外部から加えられた応力や,熔接,冷間加工などにもとづく残留応力や熱応力などにより,本来亀裂を生じないような低い応力でも腐食性雰囲気と応力の相乗効果により亀裂を発生し,最終的に破壊に至る現象です。

応力腐食割れの機構として考えられるのは,腐食疲労の場合と同じような機構です。つまり,表面に応力が作用することによりすべりが発生し,その部分が化学的に活性化し表面の近傍に存在する腐食性物質と反応して,ただちに微細な腐食孔を生成します。その後,それらの腐食孔が集合・接続して割れに成長するわけです。

(3)高分子材料の劣化

メカノケミストリは表面だけでなく,固体の内部に化学変化を起こさせる現象もあります。

ゴムなどの高分子材料に機械的な作用を働かせると,分子構造そのものにまで変化を及ぼすことがあります。例えば,天然ゴムに伸縮を加えると図2のような反応が起こります。このような化学反応をMechanochemical reactionといいます。

天然ゴムの変化
図2 天然ゴムの変化

ところで,メカノケミストリとトライボケミストリの違いについてお尋ねがありましたが,トライボケミストリというのは,メカノケミストリの機械的作用を摩擦に限定した用語と考えてよいでしょう。したがって“Frictional Chemistry”ということもあります。

トライボケミストリは金属の塑性加工,切削,研削,などの過程に必ず関与しています。これらの過程において,金属表面に発生する高温,高圧によって表面を化学的に活性にします。

また,摩擦することにより,金属表面に新生面が露出すると,エキソエレクトロンという電子が放射されます(これを Kramer効果といいます)。この電子が表面付近に存在している有機化合物と反応してイオン化し,金属表面と反応することが知られています。さらに,放射された電子が潤滑剤の表面への吸着を促進することなども知られています。

これらは皆トライボケミストリといえます。

最後に,メカノケミストリあるいはメカノケミカルの対語にケモメカニカルという言葉があります。化学的作用によって固体の機械的性質に変化を起こす作用のことです。この現象の代表的なものは“Rebinder効果”です。これは表面活性剤などが金属表面へ吸着することにより,金属の変形を促進し,降伏応力,加工硬化速度,クリープ速度などが減少する現象です。

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

アーステック



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