キヤノンマーケティングジャパンで製造販売する走査型白色干渉計「Zygo NewView7300」の計測技術,アプリケーション事例について紹介する。
※この記事は2018年12月までZygo製品を代理販売していたキャノンマーケティングジャパン(株)執筆の記事となります。
Zygo製品は,2019年1月より,アメテック(株) ザイゴ事業部の取り扱いとなっています。
はじめに
近年,業界を問わず研究開発,製造プロセスにおいてあらゆる部材の表面処理,仕上げにてナノメートルオーダーの加工がなされている。例えば自動車部品の摺動面のように摩擦を低減させることを目的としたDLCコートの表面や高品質な軸受の表面などがそれに相当する。
微細表面性状の計測にはSPM(走査型プローブ顕微鏡),触針式粗さ計,光プローブなどが用いられるが,非接触,短時間,高精度などの特長より光干渉方式(走査型白色干渉計Scanning White Light Interferometry)による測定が用いられるようになってきている。最近では,粗さ,うねり,形状に加え欠陥部を評価するといったニーズも増えつつあり,表面性状を面で捉える必要性が強まっている。
本稿では,走査型白色干渉計「Zygo NewView7300」(写真1)の計測技術,アプリケーション事例について紹介する。
写真1 Zygo NewView7300
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1. システムの特長と仕様
1.1 「Zygo NewView7300」の特長
「Zygo NewView7300」の主な特長を触針式粗さ計と比較しつつ,表1にまとめる。表1以外に測定再現性の高さ,測定エリアの対応域の広さ(□30μm~□150mm)が挙げられる。また,出力される粗さパラメータはラインデータ,エリアデータそれぞれ出力が可能である(例:Ra/ラインデータの平均粗さ→Sa/エリアデータの平均粗さ)。
表1 Zygo NewView7300と触針式粗さ計との比較
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1.2 仕様
「Zygo NewView7300」の仕様を表2に示す。
表2 Zygo NewView7300の仕様
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2. 測定原理
走査型白色干渉計とは可干渉性の少ない白色光を光源とし,ミラウ,マイケルソンなどの等光路干渉計を利用した顕微鏡型の三次元形状測定機である。顕微鏡視野(測定面)にてCCD(Charge Coupled Device)の各番地における等光路位置(光強度の最大位置)を干渉計対物レンズの垂直走査によって求め,高さデータを取得する。等光路位置の検出手法は装置により異なるが,垂直方向の分解能は一般に1~3nmとなる。「Zygo NewView7300」の光学系レイアウトおよび等光路干渉計光路図を図1に示す*1。
図1 Zygo NewView7300光学レイアウトと等光路干渉計光路図
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「Zygo NewView7300」は白色光の可干渉性の悪さを利用し,その最も強い光強度のポイント(ピーク位置)を検出することで高い分解能を有する。また,各CCD画素が同時にデータ取得を行うため,スキャン時間は短い。ピエゾ素子により対物レンズが垂直方向に走査する時間がスキャン時間となる。干渉ピークの検出精度が垂直方向の分解能となり,その手法はメーカーにより異なる。PSI法(Phase-shift Interference:位相シフト法)を併用する方法,メーカー独自の計算アルゴリズムを用いる方法などがある。Zygo社が用いている独自の干渉ピーク検出手法FDA(Frequency Domain Analysis:周波数領域解析)は,CCDが受光した光強度データから位相および空間周波数を算出する数学的手法(Zygo社特許)である*2。この技術を使用することで本来1~3nmの垂直方向分解能を0.1nm以下へと向上させている。
3. 測定事例
3.1 軸受
ハードディスクに使用される超精密玉軸受の玉の精度は真球度,表面粗さともにISO-JIS規格の最高水準相当のものが使用される。表面粗さに関しては平均粗さで数nmレベルのものが要求される*3。
図2は玉軸受の鋼球表面を測定したデータである。データ中のSlope画像(微分画像)からは鋼球表面に加工時についたと見られる微小なスジやくぼみが確認できる。表面の凹凸を面でとらえることでベアリングレシオなどの摩耗のシミュレートが可能となる。また,加工プロセスにおいては内輪,外輪の研削面や超仕上げの粗さ評価,表面性状評価にも白色干渉法による測定は有効である。これらはセラミックス,プラスチック製の軸受にも同様の評価を行うことができる。
図2 鋼球の測定例(測定視野:139.61μm×104.71μm)
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3.2 自動車部品の摺動面
自動車部品に代表される軸物部品表面仕上げ技術は進化しており,マイクロフィニッシュ,DLCコートなどの処理が施されている。これら仕上げ面におけるフリクション特性には方向性を持つために評価の際には三次元での表面計測が求められる*4。図3はマイクロフィニッシュされたクランクシャフトの摺動面の測定データである。また,DLCコートの面性状の測定ではドロップレットの形状や分布の解析も行うことが可能である。
図3 クランクシャフトの測定例(測定視野:694.81μm×521.11μm)
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おわりに
白色干渉方式の表面プロファイラーが脚光を浴びている最大の理由は,その測定における生産性の高さにあるといえる。十分な分解能を有した高速測定で,現場で求められるデータを誰にでも得ることができ,加工へのフィードバックの支えとなる。
ジョスト報告により,世界中がトライボロジーに関する経済効果に注目するとともにトライボロジーは産業,経済の発展に大きく貢献し,現在もその重要な役割を担っている。表面計測の観点から本稿が日本のものづくりの発展,産業現場の問題解決の役に立てれば幸いである。
〈参考文献〉
*1 佐藤 敦:最新の非接触表面プロファイラー「NewView6000」,HEAT専門委員会第2回オープンシンポジウム,p.1-4
*2 松下 宏:走査型白色干渉法を用いた表面解析技術,表面技術,Vol.51,No.2,p.60-64
*3 角田 和雄:摩擦の世界,岩波新書,p.144-145
*4 太田 稔:自動車部品の表面機能と表面計測への期待,ZYGO Metrology Seminar 2008,p.7-11
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