東陽テクニカが取り扱うナノインデンテーション法と表面弾性波法という2つの異なる評価法を紹介する。
はじめに
製造技術の発展によりものつくりには,ナノスケールの精度が求められ,また試料サイズ自体もナノスケールへと向かっている。ことに表面における薄膜技術の発展はめざましく,ナノテクノロジーの中核を占めているといえよう。この製造技術の発展を支えるためには,従来法では到底達成できなかった,極表面近傍の機械特性評価法を確立していく必要がある。この要請に応えるべく,東陽テクニカでは,ナノインデンテーション法と表面弾性波法という2つの異なる評価法を紹介している。
1.ナノインデンテーション法の概略
図1にAgilent Technologies社製Nano Indenterシステムの概略を示す。押し込み試験法の精度は,荷重と変位をどれだけ精密に制御できるかにかかっている。
図1 Nano Indenterシステム概略図
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Nano Indenterシステムでは,線形性の優れた電磁コイルと容量センサーを用いることによりこれを実現している。この機構により,計装化押し込み試験規格,ISO14577-1,2,3に準拠した通用力のある測定結果を出すことができる。また,連続剛性測定法*1を用いることで,深さ方向に連続的に硬度,ヤング率を測定できる画期的な手法を用意している。さらに,サンプルステージを一軸方向に動作させることで,ナノスクラッチ試験を行うこともできる。このとき,横方向に働く力を検出すれば,摩擦係数を求めることも可能である。
2.ナノインデンテーション法を応用したナノスクラッチ試験
前述の通り,ナノインデンテーション法にサンプルステージの一軸動作を加えることでナノスクラッチ試験への応用が可能である。ナノスクラッチ試験では,スクラッチ方向の前後にサンプルの圧縮領域と伸張領域が発生し(図2参照),伸長力により破砕現象が発生することが多い。この破砕現象を捉えることで,押し込み試験のみでは得づらい膜の剥離現象の評価につなげていくこともできる。Nano Indenterシステムでは,ナノインデンテーションで用いる高精度な押し込みヘッドを用いながら,試料ステージはμm~mmオーダーのスクラッチ長を持たせることができ,理想的なナノスクラッチ試験を実現できる。
図2 スクラッチ試験のメカニズム
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3.ナノスクラッチ試験の実験例
3.1 low-k材料の押し込み試験とスクラッチ試験
10種の異なるlow-k膜の押し込み試験*2とスクラッチ試験を行った。これらのサンプルのうち,良品の部類に属されたサンプル4つの結果を図3に示す。
図3 low-k膜の押し込み,スクラッチ試験結果
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押し込み試験結果とスクラッチ結果は必ずしも比例関係にはならないことから,それぞれの試験が異なる現象を捉えていることがわかる。
3.2 金属多層膜のスクラッチ試験
金属膜の多層膜のスクラッチ試験を行った。結果を図4に示す。各層で削れやすさ,摩擦が異なることが確認された。
図4 金属多層膜のスクラッチ試験結果。
上図はスクラッチ距離vs.圧子侵入深さ, 下図はスクラッチ距離vs.摩擦係数 |
4.表面弾性波法概略
表面弾性波の伝播速度がサンプルのヤング率,ポアソン比,密度に依存することは以前から知られているが,この原理を用いたヤング率などの評価装置は少ない。ドイツFraunhofer研究所では,この原理を利用したLAwaveシステムを開発した。図5に原理図を示す。
図5 LAwaveの測定原理図
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表面弾性波の伝播速度は,試料のヤング率,ポアソン比,密度に依存する。表面弾性波はその周波数により侵入深さが異なるため,試料に膜が形成されている場合,周波数ごとに伝播速度が異なってくる。これを利用してLAwaveは表面弾性波の分散曲線を計測し,専用ソフトウェアによって分散曲線からヤング率,ポアソン比,密度,膜厚の4つのパラメータのうち,既知のパラメータを入力することで未知のパラメータを計算させることができる。専用ソフトウェアは,単層のみならず基板+2層の膜のサンプルであっても計算させることが可能である。
5.表面弾性波法を用いた測定結果
LAwaveの利点の1つとして超薄膜のヤング率測定が可能なことがあげられる。生成法の異なるDLC薄膜のLAwaveで測定結果を図6に示す。10nm以下の超薄膜も測定できているところにご着目いただきたい。
図6 DLC薄膜のヤング率測定結果
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6.両手法の比較
(1)ナノインデンテーション法
- 局所的な情報を得ることができる
- 基本的に固体であれば試料を選ばずに測定することができる
- 多くの測定実績がある
- ISOで規格化されている
- ヤング率のみならず硬度も求めることができる
- 疲労試験等の応用実験の幅が広い
- 密度が未知であってもヤング率を測定できる
(2)SAW法
- 膜厚100nm以下の超薄膜であっても基板と膜の特性の分離ができる
- ENで規格化されている
- おおむね膜厚1μm以上の膜であれば密度とヤング率を同時に測定できる
- 加工変質層の厚さの推定ができる
- 測定時間が短い
おわりに
紹介した2つの方法は,それぞれ薄膜の機械特性を評価できる貴重なものであり,原理が異なるため,サンプルに応じてお互いに補完しあうことで様々な要求に応えられるものである。これらの手法が極表面の機械特性の評価に,ひいては製造技術全体の発展に役立てば幸いである。
〈参考文献〉
*1 US Patent Number: 4,848,141
*2 Hay, J. Measuring substrate-independent modulus of dielectric films by instrumented indentation. Journal of Materials Research. March 2009, Volume 24, p.667-677.
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