洗浄の歴史は環境問題とリンクしており,これを無視して洗浄を考えることはできません。産業洗浄の最近の動向では,これらの環境問題を配慮した洗浄システムの構造と特徴,導入効果を解説します。光学部品向け洗浄システムについて,有機物の除去やパーティクル除去および水切り法などを取り上げ,洗浄システムの構造と特徴を解説します。
新オオツカ株式会社 斉田 武彰
はじめに
光学部品の洗浄(水洗浄の最終仕上げ洗浄および乾燥工程)に過去に使用されてきたフロン113がオゾン問題で使用中止となり,その代替溶剤としてIPAを大量に使用するようになった。このIPAもVOC規制の指定物質(表1)になり,各社削減や全廃を目標としている。
このように,洗浄の歴史は環境問題とリンクしており,これを無視して洗浄を考えることはできない。本稿では,これらの環境問題を配慮した洗浄システムの構造と特徴,導入効果を解説する。
表1 揮発性有機化合物(VOC)に該当する主な物質
注:本表は2000年度における排出量推計結果に基づき排出量の多い順に配列した。 |
1. 光学部品向け洗浄システムの構造と特徴
1.1 有機物の除去
主に下記の工程が採用されている。
(1)水系洗浄,準水系洗浄
<問題点>
○乾燥でのエネルギー負荷が大きい
○液管理(純水装置,排水処理)の負担が大きい(特に海外の場合)
○広いスペースが必要
(2)有機溶剤(塩素系,臭素系,IPAなど)洗浄
<問題点>
○法規制(水質汚濁防止法,PRTR法など)により届け出義務があり
○「グリーン調達」に対応できない
(3)炭化水素系洗浄
<問題点>
○消防法が適応される
○乾燥し難い
以上,3項の問題点を列記したが,環境面,コスト面などで水系洗浄が広く採用されているが,安全性,乾燥性,仕上げ性での課題も多い。
以下では,これらの課題を解決した炭化水素系溶剤とフッ素系溶剤の2種類の溶剤を使用した洗浄システムを紹介する。
<特長>
1.加工油,ワックス,フラックス,パーティクルなど汚れに対応
2.炭化水素は第3石油類を使用
3.フッ素系溶剤は表面張力が小さいため,袋穴,重なり部分の完璧な濯ぎが可能
4.廃水が不要
5.樹脂,金属へのケミカルアタックが極めて少ない
6.クリーンルームでの洗浄に最適
7.オゾン破壊係数はゼロ,地球温暖化係数も低く,毒性も低いため,人体や環境に対して安全
<適応分野>
1.CCD(CMOS)イメージセンサー
2.液晶パネル
3.有機ELマスク
4.ポリゴンミラー
図1で示すとおり,2液を使用しているが溶剤の分離ユニットにより廃液は真空蒸留機から定期的に排出される油分(フラックス)と少しの炭化水素のみである。
図1 |
1.2 パーティクル除去
主に下記の工程が採用されている。
(1)純水洗浄
<問題点>
○乾燥でのエネルギー負荷が大きい
○液管理(純水装置,排水処理)の負担が大きい(特に海外の場合)
○広いスペースが必要
(2)クリーンエアブロー
<問題点>
○形状が複雑な場合,パーティクルの残渣が多い
(3)フッ素系洗浄
<問題点>
○溶剤単価が高い
以上,3項の問題点を列記したが,環境面,コスト面などでフッ素系溶剤が最近広く採用され始めている。
以下では,フッ素系溶剤を使用した洗浄システムを紹介する。
<特長>
1.表面張力の小さいフッ素系洗浄剤で狭い隙間の汚れを除去
2.蒸発潜熱が小さいので乾燥性に優れている(特に樹脂製品には有効)
3.独自の濾過システムで清浄な洗浄液の状態を保てる
4.独自の蒸気発生装置で清浄な蒸気洗浄を行う
5.各種の超音波周波数を選定できる(40,80,120,170kHz)
6.IPA洗浄後の濯ぎ・乾燥工程に使用可能
<適応分野>
1.CCD(CMOS)イメージセンサー
2.光半導体素子
3.MEMS
フッ素系溶剤がパーティクル除去性能の優れている理由は,(1)固体表面の近くを流体が流れる時,境界面なる薄い層が形成される。この境界層の厚さはフッ素系溶剤は動粘度が小さいため,IPAの1/3,水の2/3と薄い。(2)もう1つの要素は流体密度で,同じ流速でパーティクルに流体が衝突した場合,その衝撃力は密度に比例する。水を1としてフッ素系溶剤は1.5,IPAは0.78となるため,フッ素系溶剤の洗浄力が優れていることは明らかである。
図2 |
1.3 水切り乾燥
主に下記の工程が採用されている。
(1)IPA浸漬および蒸気・乾燥
<問題点>
○液の管理次第で乾燥シミが出易い
○消防法に適応される(使用量に制限がある)
○VOC規制の指定物質
(2)スピン乾燥
<問題点>
○形状が複雑な場合,シミが発生する
○前工程の純水の管理が必要
(3)炭化水素系洗浄
<問題点>
○消防法が適応される
○水分の管理が必要
以上,3項の問題点を列記したが,環境面,コスト面などで炭化水素系洗浄が広く採用され始めているが,安全性,乾燥性,仕上げ性での課題も多い。
ここでは,これらの課題を解決したフッ素系溶剤を使用した乾燥システムを紹介する
<特長>
1.低温で乾燥(沸点:50~60℃)
2.短時間で乾燥(通常3分~5分)
3.フッ素系溶剤は表面張力が小さいため,袋穴,重なり部分の完璧な濯ぎが可能
4.消防法は適応外
5.樹脂,金属へのケミカルアタックが極めて少ない
6.クリーンルームでの洗浄に最適
7.オゾン破壊係数はゼロ,地球温暖化係数も低く,毒性も低いため,人体や環境に対して安全
<適応分野>
1.CCD(CMOS)イメージセンサー
2.セラミックパッケージ
3.光ピックアップ
4.フレキシブル基板
図3 |
2. 導入効果
従来使用していた準水系洗浄装置をコ・ソルベント式洗浄装置に切り替えた結果の環境負荷比較を示す。
装置:コ・ソルベント式洗浄装置(炭化水素(ノルマルパラフィン系)+フッ素系溶剤)
方式:炭化水素4槽→フッ素系溶剤2槽→フッ素系溶剤ベーパー洗浄→乾燥
能力:300秒/バスケット
5インチパネル16枚/分
稼働時間:24時間/日
20日/月
装置:準水系洗浄装置(25%濃度グリコールエーテル系洗浄剤+純水)
方式:洗剤2槽→純水濯ぎ3槽→温純水引上げ→温風乾燥
能力:270秒/バスケット
5インチパネル18枚/分
稼働時間:24時間/日
20日
「5インチパネル1枚を洗浄する」ためのCO2換算環境負荷
水系洗浄装置:55.9[g-CO2/枚]
コ・ソルベント:26.9[g-CO2/枚]
図4 |
まとめ
今回,フッ素系溶剤の光学部品業界での使用例を紹介したが,他の分野でもフッ素系の利点を多くのユーザーに認められ,使用して頂いている。
温暖化問題,ランニングコスト低減などの問題は残っているが,適切な使用方法で広範囲な業界で使用されると確信している。