潤滑油の分野で利用されている動植物油について,現状と将来性を教えてください。
潤滑油の分野で利用されている動植物油
解説します。
物質間の摩擦減少や摩耗防止に潤滑油が使用されていますが,この歴史は古く,古代エジプトの壁面でも見ることができます。
潤滑油と一般に称するものは現在では,石油系潤滑油が大半を占めており,動植物油(以下「油脂」という)は,食用的概念が強いようです。石油系潤滑油の歴史は浅く,油田が発掘された19世紀後半以降であり,油脂が紀元前からつい最近の20世紀前半まで潤滑油の主力として用いられたことを知る人は少なく,19世紀後半以降は,近代産業の中で石油系潤滑油が急速に開発され現状に至っています。
わが国では,油田が秋田・新潟・北海道に分布しているものの,その埋蔵量はごくわずかで石油のほとんどは輸入に依存しています。第二次大戦時中は,石油の供給不足に泣き,油脂よりエンジン油や燃料油の開発が行われ一時の間ですが使用実績も残っています。歴史の輪廻か,再び油脂が潤滑油分野で注目を浴びつつあります。現在主に潤滑油として使用されている油脂は,図1のように分類されます。概して,動物油は固体脂で,植物油は液体脂が多くあります。
図1 潤滑油としての動植物油 |
最近油脂の中で,パーム油の用途開発が大きな動きを示しています。パーム油原産地のマレーシア,インドネシアでは,液固体脂分別,油脂分解,脂肪酸誘導体の開発が行われ,将来的にはパーム油の有効利用は,潤滑油分野の中でも重要なウエイトを持つものと思われます。油脂は,代表的な油性剤であり,そのまままたは,種々な化学反応により有機化合物としてベースオイルや油性剤,極圧添加剤,乳化・分散剤に用いられ,石油系潤滑油の添加剤的役割を果たしています。表1に現在潤滑油に使用されている油脂・脂肪酸誘導体の一覧表を示します。
表1 潤滑油としての油脂・脂肪酸誘導体
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以上現状を述べましたが,これからの潤滑油分野に課されたテーマは多数あります。特に今まで高潤滑性な性能的追求から2次的効果すなわち環境保全に向けた国際的行動計画の実施がクローズアップされてきています。代表的なテーマは,次の通りです。
(1)潤滑油の高付加価値利用技術(廃油の回収システム,再生品の付加価値処理,処分等)
(2)自動車の排気ガス規制対策
1. 低硫黄ディーゼル燃料を利用した排気ガス適合ディーゼルエンジン油の開発
2. 低公害車用燃料の開発(エステル系燃料)
(3)フロン使用規制(冷蔵庫,ルーム・カーエアコンの冷媒用潤滑剤の開発)
(4)生分解性の潤滑油の開発
1. エンジン油-2サイクル用,マリン用,ジグゾー,チェンソー,農機具用等
2. 油圧作動油
3. グリース
4. 切削・研削油
環境汚染,地球環境保全に関する潤滑油として,これらの全てのテーマが油脂・脂肪酸誘導体がターゲットになっています。実例を上げると低公害車燃料にナタネ油,パーム油のメチルエステルが欧米やマレーシア等で開発されつつあります。現在ナタネ脂肪酸メチルエステルは欧州において自動車,農機具,チェンソー用として実績があります。また,海中油田採掘用マシン機に油圧作動油が使用されていますが,海洋汚染対策として,石油系潤滑油からブチルまたはオクチル脂肪酸エステルに,また同じように圧延機用油圧作動油がポリオールエステルに全面的に切り替えられています。ポリオールエステルや動植物油を使用した生分解性グリースも上市されています。油脂および脂肪酸誘導体は,生分解性も石油品と比較してはるかに良く,海・川・湖への流出でもタンパク質源となり再び生命活動の基となります。当然安全性も高く,より自然的商品といえます。
現在の低成長時代の中で,商品の価値観が変化しています。より効果的,使いやすさ,低廉価品からより安全で非公害的な地球規模的商品が注目視されてきています。今後,潤滑油分野においても,暫時的ですが石油化学品から天然品すなわち油脂・脂肪酸誘導体の商品へと移行していくことで油脂関連分野にとっては明るい材料となるでしょう。したがって,そのためにはこれからの油脂・脂肪酸誘導体の新しい改質,新しい合成法,用途開発が必要条件となるものと思われます。