潤滑油のベース油は一般的にはベースオイルまたは基油と呼ばれ,大きく分けると,鉱油系,合成油系とに分類されます。鉱油系とは石油の潤滑油留分を精製したものであり,その成分によりパラフィン系,ナフテン系に分かれます。各種潤滑油の製造に使われるベース油(基油)の品質性状について解説します。
ベースオイルの品質性状
解説します。
潤滑油のベース油は一般的にはベースオイルまたは基油と呼ばれ,大きく分けると,鉱油系,合成油系とに分類されます。
鉱油系とは石油の潤滑油留分を精製したものであり,潤滑油の大半(90%以上)は鉱油が用いられており,その成分によりパラフィン系,ナフテン系に分かれます。ベースオイル組成分析に多用される環分析(n-d-M法)ではパラフィン炭素数,ナフテン炭素数,芳香族炭素数をそれぞれ%CP,%CN,%CAとして全炭素に対する割合で表示され,一般的には%CPが50以上をパラフィン系,%CNが30~45をナフテン系と呼んでいます。
1. パラフィン系ベースオイル
現在,潤滑油に中心的に使用されているのは鉱油系のパラフィン系ベースオイルであり,低粘度のスピンドル油から高粘度シリンダー油まで各種のものがあり,その炭素数はC15~C50,分子量は200~700,常圧換算沸点は250~600℃の範囲にあります。その種類はSUS粘度(Saybolt Universal Second)を用い区別されており,SUS/100Fの粘度で60~700程度の留分はニュートラル油(Neutrals)と呼ばれ,また減圧蒸留残油を脱歴精製したものはブライトストック(Bright Stocks)と呼ばれSUS210F粘度で表されます。
パラフィン系ベースオイルの精製工程は図1に示すようにパラフィン系炭化水素を多く含む原油の常圧蒸留残油を原料に減圧蒸留,溶剤脱歴処理を行いその後,溶剤精製法または水素化分解法処理を行います。特徴としては,粘度指数が高いが一般的に流動点も高くなります。表1に代表的なパラフィン系ベースオイルの一般性状を見てみましょう。
図1 |
表1 代表的なパラフィン系ベースオイルの一般性状
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また近年,潤滑油の高性能化にあたり,特殊精製工程からベースオイルも高性能化し,高精製ベースオイル,高粘度指数ベースオイル,低流動点ベースオイルなども使われ始めました。表2に代表的な高性能パラフィン系ベースオイルの一般性状を見てみましょう。
表2 高性能パラフィン系ベースオイルの一般性状
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2. ナフテン系ベースオイル
ナフテン系ベースオイルの精製工程は中南米に多いナフテン系原油を常圧蒸留,減圧蒸留処理を行いその後おおむね次の3タイプの処理を行い精製されます。
(1)硫酸洗浄-白土処理
(2)溶剤精製
(3)水素化処理
特徴としては,粘度指数は低いが低温流動性が優れています。表3に代表的なナフテン系ベースオイルの一般性状を見てみましょう。
表3 代表的なナフテン系ベースオイルの一般性状
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3. 合成油系ベースオイル
一般的に合成油系ベースオイルは,化学合成により製造されたベースオイルで,その製造方法から鉱油系に比べ高価であるため,鉱油系ベースオイルでは対応が難しい場合,用途に適した特性を持つ合成油が用いられます。合成油の製造は石油原料を分解し(エチレン,イソブテン,プロピレン,ベンゼン,メタノール等)必要な成分を使用目的に応じて合成するため簡単に整理はできず,材料,仕上がり,性状も個別に見てみる必要があるでしょう。ここでは表4に代表的な合成油の種類,特徴,用途を示します。
表4 代表的な合成油の特徴,用途
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以上ベースオイルの品質性状を原料,精製/製造工程,一般性状から見てきましたが,その品質性状は原油,工程,運転条件,合成における分子設計から製造メーカーにより多岐にわたります。また一般性状は環境問題,人体への影響等により今後さらに詳細になってゆくものと考えられます。
例として,近年石油製品の発ガン性の問題が大きく取り上げられ,ベースオイルの発ガン性指標としてPCA(多環芳香族成分)3%未満が目安となってきております。今までPCAは一般性状に記載されることは少なかった項目ですが,今後は重要な一般性状項目となることでしょう。また環境問題からベースオイルの高温蒸発性や生分解性なども重要項目となってゆくと考えられます。
常に進歩する技術の中で,潤滑油に要求される性能,性能表示もさらに厳しくなり,そしてベースオイルの品質性状もさらに詳細に高品質になってゆくことでしょう。
<引用文献>
*1 月刊ペトロテック VOL.18 NO.6,NO.7 石油・潤滑油・石油化学製品シリーズII 潤滑油 基油(上)(下)
*2 潤滑要覧1993