従来,水溶性オイルを使用する加工では,これまでの電気集塵式ミストコレクターは集塵電極間でリーク,スパークして使用が困難でした。ミドリ安全の長年にわたる研究開発の成果として,水溶性オイルミストを集塵する電気集塵技術を確立した「プラコムコレクタ(R)」は高圧極板に半絶縁成形樹脂極板を採用して,極板間でのスパークを防止するとともに高圧給電部を密閉構造にすることにより,水溶性オイルミストを集塵してもリーク・スパークが起きにくく,高効率95%(計数法)での運転を可能にします。
はじめに
現在,自動車業界をはじめとする金属加工工場でのオイルミスト対策が様々な形で進められている。
近年は環境配慮(ISO14001),安全衛生面での対策により,作業者へのオイルミスト暴露,工作機械またはその周辺機器へのオイルミスト付着による汚れ防止の取り組みがなされてきている。
オイルミスト対策をする場合,長期間にわたりオイルミストコレクターの効果が発揮,維持できなければ意味がなく,単純にミストコレクターを設置すれば効果が出るというものではない。ミストコレクターの選定,設置方法,維持管理も考慮し設置することが重要である。
1. 電気集塵式とフィルタ式の比較
オイルミスト除去装置としては電気集塵式とフィルタ式がある。電気集塵式とフィルタ式のそれぞれの長所,短所を比較する。
フィルタ式では,一般的に粒子捕集効率が高効率なものほどフィルタの目が細かく圧力損失が大きい。そのため,集塵機に高静圧の送風機を採用せざるを得ないので消費電力が大きくなる。また,高効率なフィルタ式集塵機程,使用中のフィルタ目詰まりによる吸い込み風量低下が早い。
一方,電気集塵方式では高圧側セル板とアース側セル板が交互に配列された構造のため,圧力損失が小さく,搭載する送風機は高静圧なものを必要としない。比較的低容量のモーターが採用でき,モーターにかかる消費電力を低く抑えることができる。また,使用中の目詰まりがしにくいので吸い込み風量の低下がほとんどない。
また,新しい技術として使われ始めたセミドライ加工(MQL)や切削加工の高速化により,工作機械から発生するオイルミストは油煙化し,ミスト粒径はさらに細かくなっており,1μm以下のオイルミスト集塵が必要であると考えられる。この油煙状のミストの捕集は高効率フィルタ式を除いては困難であるが,電気集塵式なら比較的高い効率が得られる。
しかし,水溶性オイルを使用する加工では,これまでの電気集塵機は集塵電極間でリーク,スパークして使用が困難であった。
フィルタ式と電気集塵式の比較を表1にまとめる。
表1 電気集塵式とフィルタ式の比較
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2. 電気集塵式ミストコレクター
2.1 構造と原理
電気集塵式ミストコレクター(MCWシリーズ)の全体構造を図1,電気集塵の原理を図2に示す。プレフィルタは切粉などの粗大粒子を捕集する役目とアイオナイザでの粒子帯電を安定させるための整流効果を備える。アイオナイザでは高圧電源より放電極(イオン化線)と対向極板間に不平等電界を形成すると,コロナ放電を起こし,多数の正イオンが発生する。負イオンは直ちに放電極に中和され,正イオンおよび自由電子は対向極板に放出され,正イオンカーテンを形成する。ここにミストを通すとイオンと衝突し,瞬間的に荷電される。
図1 ミストコレクター(MCWシリーズ)の構造 |
図2 電気集塵の原理 |
コレクターでは高圧極板と集塵極板(アース極板)間に高電圧を印加して電界を形成して,アイオナイザで荷電されたミストのクーロン力で集塵極板に捕集する。
アフタフィルタは,コレクターで捕集されたミストの吐出口からの再飛散を防止する。
2.2 特許技術「プラコムコレクタ(R)」
「プラコムコレクタ(R)」(特許)について特長を説明する。
従来は交互に配列された高圧極板,アース極板ともにアルミ板のため,大部分が水分の水溶性オイルミスト中では高圧電流がリークやスパークを起こして連続運転は不可能であったが,長年にわたる研究開発の成果として,水溶性オイルミストを集塵する電気集塵技術を確立した。図3の当社独自の「プラコムコレクタ(R)」は高圧極板に半絶縁成形樹脂極板を採用して,極板間でのスパークを防止するとともに高圧給電部を密閉構造にすることにより,水溶性オイルミストを集塵してもリーク・スパークが起きにくく,高効率95%(計数法)での運転を可能にしている。
図3 集塵電極とプラコムコレクタ(R) |
2.3 「オートチェックシステム」(特許)
電気集塵機の高性能を維持して使って頂くために下記の監視システムを考案した。「オートチェックシステム(ACシステム)」(特許)は異常放電が発生した場合,偶発なのか故障なのかを電圧および電流監視機構を通じて自動的に判断し,安全運転に支障があるときは運転を停止し,電気集塵方式特有の異常放電による着火を未然に防止している。また,点検個所を自動的に判断して,作業現場でもわかりやすく,はっきりとACシステム表示部(写真1)にランプで表示することにより,すばやい対応ができメンテナンスにかかる労力およびコストが低減できる。
写真1 ACシステム表示部 |
3. 選定上の留意点
ミストコレクターの選定にあたって,以下の点を把握することが重要である。
(1)工作機械カバーからミストが漏れない風量を選定する
NC旋盤のような元々カバーに扉が付いているタイプでは,ワーク交換時に扉が開放状態になる時にミストが漏れやすく,作業者はまともにミストを浴びることになる。扉からのミストの漏れを防ぐには,カバー扉が開放になった時の開口面積に対し,制御風速0.5m/s以上になる風量のミストコレクターを選定するのが望ましい。
(2)ミスト発生ピーク時の濃度を考慮する
特にマシニングセンタのような複合加工機の場合,フライス加工などの重切削加工時のピーク濃度に対し,集塵機出口からのミスト濃度が高くならないように,処理風量に余裕を持たせた集塵機の選定が必要である。
4. 効果的な活用事例
4.1 マシンカバー(フード)
オイルミストコレクターを効果的にその性能を発揮させるためにはマシンカバー(フード)の設計は重要である。その考慮すべき点を以下に示す。
(1)ワーク交換に支障がないようになるべくカバーで囲う(ミスト漏れ防止)(図4参照)
図4 工作機械への小型ミストコレクター設置状況 |
(2)ダクト吸い込み口は発生源に近づけすぎない
吸い込み口を発生源に近づけすぎると切粉や,オイルしぶきを直接ミストコレクターが吸い込んでしまうので,フィルタが目詰まりし,風量低下を早めたり,集塵能力に対する負荷が必要以上に大きくなるので,集塵性能低下を引き起こしてしまう。
切粉やしぶきは吸引させずに,工場内に浮遊してしまうオイルミストのみをミストコレクターで処理するのが最も効果的である。
4.2 小型機による工作機械単独配管
図4のように工作機械1台に小型ミストコレクターを設置した場合の利点としては,
(1)工作機械の上に設置するのでミストコレクターを設置するスペースがない時に有利
(2)ライン変更などで工作機械を移動したい時,ダクト配管のやり直しがないのでそのまま移動できる
などが挙げられる。
写真2は,当社の小型ミストコレクター(電気集塵式,風量8m3/minタイプ「MC-8Y」)である。
写真2 小型ミストコレクター「MC-8Y」 |
4.3 中・大型機による工作機械複数配管
図5のように工作機械3台に1台の中型ミストコレクターを配管し,設置した場合の利点としては,
(1)工作機械1台にミストコレクター10m3/minクラス1台を設置した場合の出口ピーク濃度に対して,工作機械3台にミストコレクター30m3/minクラス1台を設置した場合の出口ピーク濃度は1/3に抑えられる(図6)。(ただし,3台の工作機械のピーク濃度のタイミングがずれていることが条件)
(2)工作機械の台数に対して,ミストコレクターの設置台数が少なくて済む
などが挙げられる。
図5 複数工作への中型ミストコレクター設置状況 |
A:工作機械1台にミストコレクター10m3/minクラス1台を設置した場合の出口ピーク濃度 B:工作機械3台にミストコレクター30m3/minクラス1台を設置した場合の出口ピーク濃度 |
図6 ミストコレクター設置方法の違いによる出口ピーク濃度イメージ
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写真3は,当社の中型ミストコレクター(電気集塵式,風量30m3/minタイプ「MCW-30」)である。
写真3 中型ミストコレクター「MCW-30」 |
5. 今後の課題や展望
オイルミスト集塵の難しさはオイルの種類,加工機,加工条件の違い,ワーク材質の違いなど,様々な条件が複雑に絡み合っているため,発生するオイルミストの性状が多種多様な点にある。
ひとくちにオイルミスト言っても不水溶性オイル,水溶性オイル(エマルション,ソリュブル,ソリューション)のオイルの違い,ミスト粒径・濃度の違い,ミストに含まれる金属粉じんの違いなど,実に多様である。
このような多種多様なオイルミストに対し,使い方に合ったミストコレクターの選定,設置の仕方が重要である。
一方,オイルミストコレクターに対する市場の要求は「高集塵性能」,「長期間メンテナンスフリー」,「小型化」,「廃棄物ゼロ」,「ローコスト」,「省エネ化」(CO2削減)など,さらに強まりつつある。
この市場の快適環境要求により近づけるためにメーカーとして努力したい。