ミストコレクターによる油煙対策では,金属加工における油煙による問題点を取り上げ,ミストコレクターの種類とそれぞれの方式のメリット,デメリットを説明します。また,水溶性油剤加工における使用事例として慣性集塵式フィルターレスミストコレクターを,不水溶性油剤加工における使用事例として電気集塵式ミストコレクターを取り上げ,その原理と効果を解説します。
はじめに
旋盤,フライス盤などの工作機械による金属加工では潤滑・冷却の目的で切削油を使用する。切削油は熱,および機械的要因で微細化し,オイルミストとして空中に飛散する。
昨今ではISO14001に代表されるように環境負荷の低減が必須の時代になり,オイルミストによる作業環境の悪化や加工品質などの生産性の低下,さらには工場周辺環境やCO2の増加など環境負荷にも影響する問題として重要視されている。
本稿では読者の方々の環境改善の一助となるよう,ミストコレクターの概要を紹介させていただく。
1. 金属加工における油煙による問題点
オイルミストによる作業者および作業環境に対する問題としては,(1)頭痛・肌荒れなどの健康障害,(2)付近への油分の流出による環境影響,(3)床・壁への付着による転倒・火災の危険性が上げられ,また(4)換気による冷暖房エネルギーロス,(5)空調機等の設備に対する故障,などが挙げられる。このようにオイルミストの発生は品質やコストなど生産性の低下だけでなく,工場周辺環境やCO2の増加など環境負荷にも影響する問題として重要視されている。
作業環境に対するオイルミストの許容濃度についての法的規制はないが,日本産業衛生学会からの提案値や,また各メーカーなどでは独自に自主規制値を設定してオイルミストの濃度を管理する取り組みが強化されつつある(表1)。
表1
|
2. ミストコレクターの種類と対策方法
ミストコレクターには各社独自の工夫が盛り込まれているが,その種類は概ね表2のように大別される。
表2 ミストコレクター方式
|
加工油剤としては昨今では水溶性が多くなり,オイルミストの発生量も減少している傾向にあるので,一般的なミストコレクターとしては使い勝手が良くイニシャルコストが低い(1)のフィルター式が多い。
高精度加工や難切削材の加工では不水溶性切削油が使用される。この場合はオイルミストの発生量が多くなる傾向があり高い捕集効率が必要とされ,フィルターでは早期に目詰まりが発生してしまうため,(3)の電気集塵式が適用されるケースが多い。
(2)慣性集塵式は,従来では微細粒子の捕集が不得手で捕集効率が低い傾向にあったが,昨今では技術革新により高捕集効率が可能となり,フィルターのような廃棄物が発生しない効果も相まって,(1)フィルター式に代わって増えつつある。
3. 使用事例
3.1 水溶性油剤加工における使用事例:慣性集塵式フィルターレスミストコレクター
現在,金属の切削・研削加工において使用される油剤の9割以上が水溶性とされる。その理由は水で希釈して使用するため経済的で,冷却効果が高いことが挙げられる。また昨今では製造ラインの自動化,無人化が進み24時間稼働も珍しくないが,水溶性油剤であれば火災の恐れが比較的少なくなり安全性が高い点も挙げられる。
水溶性の油剤は比較的加工しやすい工程に使用される。また油剤は水で30倍程度に希釈するので水溶性油剤での加工から発生するオイルミストは比較的少ない傾向にある。そのため水溶性油剤による加工から発生するオイルミストの処理にはフィルター式のミストコレクターが使用されているケースが多い。ただしそれでも半年から1年ごとにフィルターを交換しなければフィルターの目詰まりや劣化による捕集効率や処理風量の低下を生じてしまう。
このような水溶性油剤で加工するケースに対し,最近では慣性集塵式が普及しつつある。慣性集塵式はフィルターを使用しないので廃棄物が少ないメリットがあり注目されている。慣性集塵には前述のように遠心力や衝突などの“慣性力”を利用する方式だが,粒子径が小さく軽いミストには慣性力が及びにくく捕集効率が得られない欠点があったが,技術的な工夫を施して十分実用的になった慣性集塵式のミストコレクターが各社から登場している。弊社では慣性集塵式ミストコレクターとしてMJシリーズをラインアップしているので簡単に紹介する。
MJシリーズではミスト粒子の衝突捕集に着目し,CFD(数値流体力学)を用いて慣性衝突捕集の最適化を図り,捕集効率を向上させた。同時に遠心力を利用して捕集部の自浄能力を高めることでメンテナンス頻度を低減しており,生産現場の省力化要望にも応えている。構造を図1に,捕集ディスクを図2に示す。
図1 MJシリーズ構造図 |
図2 捕集ディスク |
ミストを捕集する構成要素としてはサイクロン部と捕集ディスク部だけで構成され,極めてシンプルな構成でありながら高い性能を発揮する。
○サイクロン部……吸引した気流に含まれる粗大なミストや切削粉等を捕集する前処理部である。接線方向に気流を吸引し遠心力で分離捕集する。
○捕集ディスク部……サイクロンを通過した微細ミストを衝突捕集する。
捕集ディスクには特殊な微細加工パターンが施されており,遠心力による自浄効果も考慮している。ミストや粉塵成分の堆積が少なく,長期にわたって風量・捕集効率を維持しメンテナンスの頻度を低減している。
3.2 不水溶性油剤加工における使用事例:電気集塵式ミストコレクター
高精度加工や難削材の加工では潤滑性を重視して不水溶性の油剤が使われる。また焼入れ加工や鍛造加工などではワークに付着した不水溶性の防錆油剤が加工熱によって揮発,オイルミストやヒュームになるケースもある。
不水溶性の油剤から発生するオイルミストは発生量が多く粘性質であることが多い。特に焼入れ加工や鍛造加工では燃焼によってオイルが焼かれヒューム質となっており,捕集しても液体にならないほどである。
このような不水溶性油剤による加工から発生するオイルミストをフィルターで捕集すると早期に目詰まりを起こしてしまうので,フィルターを使用せず,しかも高捕集効率な電気集塵式が使用される。図3のように放電極(先端の尖った針や細いワイヤー)と集塵極(=平板)を間隔を置いて対向するように配置し,放電極に高電圧をかけると放電極に薄く青白い光が見える状態が起こる。これをコロナ放電という。このコロナ放電部では,激しい電子放射が行われており,この電子が空気中の分子に衝突すると,(+)イオンや,(-)イオンなどが生じる。図3のように放電極の極性が(+)のときは,(-)イオンは直ちに中和されて消滅するが(+)イオンは電気的引力によって強力に集塵極へ向かって誘引される。このとき,空気中にミスト粒子があるとこのミスト粒子に(+)イオンが衝突付着しミストは(+)に帯電するので,同様に集塵極へ誘引され捕集される。
図3 電気集塵の原理 |
弊社では電気集塵式ミストコレクターとしてEM-SCシリーズをラインアップしているので簡単に紹介する。
EM-SCシリーズは図4のようにミストを帯電する荷電極部(アイオナイザー)と帯電したミストを電気力で捕集する集塵極部(コレクター)の2段構成で微細ミストを捕集する(+荷電2段集塵式)。荷電極部の前段には金属粉などの粗大粒子を捕集するエリミネーターが設置されている。従来からこの種の電気集塵式ミストコレクターは存在したが,電極の清掃に手間が掛かる問題があった。今回紹介するEM-SCシリーズは電極にセルフクリーニング機構(自動清掃装置)を備えており,この弱点を克服している。EM-SCでは集塵板(接地極)間に堆積物をかき取る金属ベルトを設置した。集塵板とカキトリベルトは集塵の最中も常時回転しており連続的に堆積物を除去している。カキトリベルトに付着した捕集物はベルトスクレーパーで最終的にかき取られて除去される。
図4 EM-SCの原理 |
EM-SCシリーズは高捕集性能と環境対応性,メンテナンス削減を兼ね備えており,ミストコレクターのトップランナーとして活躍している。
図5 EM-SCの構造 |
4. 今後の課題・展望
ミストコレクターは環境を良くするためのものであり,工作機械のように生産性に直接関与する設備ではない。それゆえミストコレクターは生産ラインの中で維持管理に手間が掛からず存在感が薄い方が良いのである。つまりミストコレクターは捕集効率が高いのは無論のこと,設置スペースが小さく,メンテナンスに手間が掛からず,消費エネルギーが少なく,廃棄物が少ないのが望ましい。
今後,生産ラインはますます合理化され,省スペース化,省力化が進むであろう。現状でもミストコレクターの設置場所は工作機械の上面しかなく足場の悪い中でメンテナンスしなければならないケースが多い。省エネや廃棄物削減も昨今では当たり前の要素となってきた。これからも手間が掛からず環境性能をより高めたミストコレクターを多くの現場に提供できるようメーカーとして努力していきたい。