「潤滑油の試験方法の概要と意義」 2007/10
マルシメ株式会社 小泉 武男
はじめに
潤滑油は自動車,船舶,工作機械など世の中のすべての機械で使用されていると言っても過言でなく,動力の伝達,プロセスの制御,金属の圧延,加工などその役割に応じた性能が要求されるため,使用される潤滑油も多種多様である。一般に潤滑油やグリースが機械設備などに使用される主たる目的は以下のようになっている。
(1)摩擦,摩耗の低減
(2)摩擦面の冷却
(3)潤滑個所へのごみの侵入防止や摩耗粉の除去
(4)腐食やさびの防止
このような目的に合致した適油を選定する場合,運転条件,給油方法,使用環境などの外的条件と潤滑油自身が持つ性能,性状など十分に把握して行うことが重要である。このため使用される潤滑油は,機械設備などのメーカーが認証した油種か潤滑油メーカーと機械メーカーが主導し需要家などと協議して決められている。
しかし,適油であっても使用時間とともに劣化することは避けられず,当初の性能が低下し機械設備などの故障やトラブルを誘発することが多々ある。このため産業界では潤滑油の性状管理を行い,また,必要に応じて実験室的な手法で潤滑油の性能を評価して潤滑に起因した故障やトラブルを未然に防止し,機械設備の安全な運転で生産性の向上や経済性の向上に結びつける努力がなされている。
本稿では,潤滑油を管理するための重要な性状,物性とその測定方法および主要な実験室的性能試験について解説する。
1. 性状および物性の測定法とその意義
潤滑油は使用時間とともに,酸化や熱的劣化,機械的せん断,ごみ,水分,金属粉などの異物の混入による汚損などで劣化が進行し,この劣化があるレベル以上に達すると異常摩耗,焼付き,作動不良など種々のトラブルを誘発する。このため潤滑管理では使用油の劣化状況をJIS法など種々の測定法で把握している。
表1に潤滑油の状態を把握する一般的な試験,分析項目とその意義および測定方法を示す。
表1 水溶性切削油剤の種類と組成
試験の項目・測定法
|
単位・表示
|
試験法の概要と意義
|
色相(ASTM色)
JIS K2580
試料量:50mL |
0.5~8.0 |
測定:ASTM色試験器で行う。人工昼光色光源部を点灯させ,ASTM色標準ガラス(0.5~8,0,0.5刻み)と試料の色を測定し,両者の色が一致した標準ガラスの数値を試料油のASTM色とする。また,試料の色が標準色の中間にある場合は濃い方の標準ガラスの数値の前にLをつけて表示する。
適用:各種潤滑油など
意義:潤滑油は使用時間とともに酸化などの劣化が進み色相が低下(濃色化)する傾向があることから,潤滑油劣化の簡便な目安として用いられている。 |
Q:色相低下の原因物質と誘発するトラブルは? |
A:一般に作動油などの工業用潤滑油の色相は主に基油の酸化劣化物(ケトン,アルコール,有機酸類など)や添加剤の変質で悪化する。酸化劣化物はさらに劣化が進む(重縮合)とワニスやスラッジになり,摺動面の固着など種々のトラブルを誘発する原因になる。なお,内燃機関油は混入する燃焼カーボンのため黒色になる。 |
動粘度
JISK2283
試料量:50mL |
mm2/s |
測定:一定容量の液体(例えば潤滑油)が,厳密に管理された温度条件下で粘度計(例えばキャノン-フェンスケ型)の毛細管を自然流下するに要した時間(秒:絶対粘度)を測定する。絶対粘度を試料密度で割った値が動粘度で,一般に測定流出時間(秒)と粘度計の構成係数の積で算出する。
適用:石油製品全般
意義:潤滑油で最も重要な特性の一つで,適油選定では潤滑油の油膜厚さが適正に保持できるか否かを判断する重要な項目である。例えば,油圧油の場合,動粘度が高いと油温度の異常な上昇,始動不良などの原因となり,低すぎると油膜強度不足による異常摩耗が発生するなど,動粘度は使用油の使用の可否判断の重要な指針になっている。 |
Q:使用油の動粘度の変化の原因は? |
A:潤滑油の動粘度は酸化劣化やすすなどの不溶分や高粘度油の混入などで増大し,動粘度が低下するケースとして燃料などの低粘度油の混入やエンジン油などでは添加されているポリマー分子の切断(低分子化)などが挙げられる。 |
粘度指数
JIS K2283 |
|
測定:40℃と100℃の動粘度より計算(JIS法やASTMDS39B)で算出する。
適用:石油製品全般
意義:一般に石油製品の粘度は温度が高くなると小さくなるが,粘度指数は温度により粘度がどの程度変化するかの指標で,数値が大きいほど温度による粘度変化が少ないことを示している。 |
Q1:潤滑油の粘度指数は?
Q2:粘度指数が重視される潤滑油は? |
A1:一般的な鉱油を基油とした多くの潤滑油の粘度指数は90~105である。基油成分では粘度指数が高い方から
n-パラフィン>イソパラフィン>単環アロマ,ナフテン>多環ナフテン>多環アロマ の順となる。
A2:代表的な油種に自動車用エンジン油があり,多くの油種は粘度指数150前後になっている。摩擦抵抗を減らして省エネルギー化を図るため低粘度化が進み,低温の粘度が低く,高温粘度もあるレベル以上を確保するため粘度指数向上剤と呼ばれる高分子化合物(ポリマー)が添加されている。 |
中和価 酸価
塩基価
JIS K2501
試料量:50mL |
mgKOH/g |
測定:中和価には酸価,強酸価,塩基価および強塩基価があり,試料1gに含まれる酸性および塩基性成分の量に相当する水酸化カリウムのmg数で表され,酸価と塩基価が多用されている。測定は試料を所定のガラス容器に採取し,溶剤(トルエン/2-プロパノール/水(5/5/0.05Vol比))に溶かして中和滴定して算出する。中和方法はP-ナフトールベンゼイン指示薬法(酸価の測定:ビューレットによる滴定)と電位差滴定法(ガラス電極と比較電極を備えた中和価試験器)による酸価および塩基価の測定があり,いずれも酸価は水酸化カリウム,塩基価は塩酸のそれぞれ2-プロパノール標準液で中和して算出する。
適用:潤滑油全般
意義:中和価は潤滑油の劣化の程度を知るための重要な値で,酸価は潤滑油などが酸化劣化して生成した酸性物質の量を示している。また,塩基価は油中に混入する酸性物質を中和するために添加されている塩基成分の現在(残存)量を示す値であり,いずれも潤滑油の劣化状況を把握し,継続使用の可否を決める重要な数値である。 |
Q:塩基価の低下や酸価の増加はエンジン各部位にどんな影響を与えるのですか? |
A:塩基価は燃料油中の硫黄分から生成する硫酸に代表される酸化性生物を中和し,エンジン各部の酸による摩耗を抑制する能力の指標であり,塩基価が管理基準以下まで低下することは異常摩耗を誘発することになる。また,塩基価成分はすすや無機系の中和生成物などを油中に分散させエンジン内部を清浄にする能力を有するが,この成分の減少(塩基価の低下)はエンジン周りの汚れを促進し,ピストンリング膠着など種々のトラブルの発生要因になる。
一方,酸価は塩基価の低下に伴い増加するが,代表的な酸価成分である基油(鉱油など)の酸化劣化物(有機酸)は摩耗を促進するだけでなく,容易にワニス,スラッジへと変質しエンジン内部の汚れに係わるトラブルの原因になる。 |
引火点
JIS K2265
試料量:200mL |
℃ |
測定:規定条件で試料を加熱して小さな炎を近づけたとき,油蒸気と空気の混合気体が閃光を発して瞬間的に燃焼する試料の最低の温度が引火点で,燃料油はタグ密閉式(タグ密閉式は引火点90℃以下の試料に適用),潤滑油の測定には密閉式(ペンスキーマルテンス〈PM〉)と開放式(クリーブランド〈COC〉)が用いられている。
適用:石油製品全般
意義:消防法上で危険物の分類に用いられており,石油製品全般の安全管理面で最も重視される性状の一つである。使用油,例えばエンジン油などでは燃料油など軽質油の混入の目安になっている。 |
Q1:PMとCOCの引火点の違いは?
Q2:エンジン油などの管理基準は? |
A1:引火点は開放式(COC)より密閉式(PM)の方がやや低めの値を示す。一般に,使用油の引火点の低下は火災や爆発の危険予知に係わる情報であるため,低めの値を示す密閉式で測定する。
A2:油種やエンジンなどにより若干異なるが,舶用エンジン油の場合,国際燃焼機関学会(CIMAC)では180℃を警戒値として設定しています。また,例えばN社は警戒値180℃<,限界値140℃<で管理を行っている。 |
流動点
JIS K2269
試料量:100mL |
℃ |
測定:試料が流動する最低の温度で,0℃を基点とし2.5℃の整数倍で表す。所定のガラス試験管に試料45mLを採取し,所定の位置に温度計を設置した後,冷却浴(例えば-34.5℃)で冷却し,試料温度が2.5℃下がるごとに冷却浴から試験管を取り出し,試料が5秒間全く動かなくなったときの温度を読み取り,この温度に2.5℃を加えて流動点とする。
適用:石油製品全般
意義:製品の流動性の目安(低温流動性)となり,寒冷地,あるいは冷凍関係用の潤滑油では特に重要な性質である。 |
Q1:基油(鉱油)の組成と流動点の関係はあるのですか?
Q2:添加剤で流動点は下げられますか?
|
A1:鉱油の流動点は主に油中のワックス分に支配されるため,ワックス分の多い鉱油は脱蝋処理で流動点を下げてから潤滑油の基油に用いる。基油の成分と流動点の関係は以下の通りである。
高:n-パラフィン>単環アロマ>イソパラフィン>多環アロマ,単環ナフテン>多環ナフテン:低
A2:流動点はポリメタクリレートに代表される高分子化合物の添加で下げることができ,一般にエンジン油,自動変速機油などには0.01~0.5%程度添加されている。 |
水分
JIS K2275
試料量;
蒸留法:250mL
KF法:20mL |
vol%
mass% |
測定:測定法に蒸留法とカールフィッシャー式法(KF法,電量および容量滴定法)があり,含有水分量により使い分けている。蒸留法は所定の蒸留フラスコに試料と水に不溶な溶剤(例えば,キシレン・トルエン混合液)を入れ,加熱,還流し,留出した水を検水管に集め計量して試料中の水分を求める。KF法は外気と遮断した滴定フラスコに試料を採取し,混合溶剤(例えばメタノール/クロロフォルム(1/4容量比)で溶解させた後,カールフィッシャー試薬で滴定し水分を求める。KF法は,水分以外に測定試薬と反応する成分を含んだ試料では測定値がプラスに大きく偏るので注意が必要である。
適用:石油製品全般(蒸留法:0.05%以上,KF法:石油製品 20ppm以上)
意義:水分は使用油(グリースや乳化油など特殊な油種を除く)を乳化(懸濁)させ,発錆の原因となり,低温では濾過器を詰まらせる。また,潤滑油の酸化を促進させ,油膜切れによる潤滑不良を起こすことから,水分はトラブルを予知し,未然に防ぐための重要な項目である。 |
Q:潤滑油中の水分で許容できる量はどの程度ですか? |
A:油種や使用機器により異なるが,一般的には0.02vol%程度が許容量の目安とされている。しかし,作動油では添加剤が水分と反応して沈殿を生成したり,舶用エンジン油では塩基価成分(微細な炭湾カルシウム粒子)が祖粒化(粒子が巨大化する)し沈殿を生じることもあり,不溶分の量や質への注意も必要である。 |
ペンタン不溶解分
ASTMD 893
試料量:50mL |
mass% |
測定:遠心分離管に潤滑油(10±0.1g)を採取し,溶剤を加えて100mLにして均一に溶解する。その後,遠心分離処理(相対遠心力600~700G×20min)し上澄み液を除去し不溶分を分離する。この脱油操作を数回繰り返し,不溶分を乾燥させ重量を計測する。A法は,使用溶剤がペンタンやトルエンで,それぞれ使用溶剤の不溶分として表示する。B法は,A法で補足した不溶分に加え,A法で捕捉できない添加剤で分散されたすすや高分子量の酸化生成物などを沈降させるため,ペンタン-凝集剤溶液(n-ブチルジエタノールアミン,イソプロピルアルコール各5%/ペンタン溶液)で処理して清浄分散性能(すすなどの不溶分を油中に分散させる力)排除したときの不溶分である。
適用:使用潤滑油全般
意義:燃焼生成物やスラッジ,金属摩耗粉などは油中に不溶分として存在する。この不溶分が増加すると粘度の上昇,潤滑系統の清浄性の悪化,フィルター目詰まり,リング膠着など種々のトラブルを誘発する。また,A法は清浄分散剤の働きによりスラッジが油中に分散された状態にあり,清浄分散剤の働きを排除したB法より数値は小さめで,A法とB法の差は残存する分散性能の目安として用いられる。 |
Q:不溶分の主たる成分は? |
A:A法の不溶分は摩耗粉,塵埃,高分子酸化劣化物とその金属塩(有機酸鉄など)が主体で,B法はA法の成分の他に清浄分散剤で分散され,A法では分離できなかった高分子酸化劣化物や燃焼カーボンなどから成っている。一般に清浄分散性があり燃焼カーボンを多く分散しているエンジン油はB法で測定する。 |
汚染度:
質量法
JIS B 9931
計数法
JIS B 9930
試料量:250mL |
mg/100mL
NAS等級
00,0,1~12 |
質量法の測定:ガラス製の吸引ろ過装置に測定用薄膜フィルター(直径47mm,孔径0.8μm)を装着し,秤量した試料(通常100mL)を大量の石油エーテルを加えながらろ過し,不溶分を捕捉する。石油エーテルで完全に脱油した後,イソプロピルアルコールで脱水し,乾燥後,捕集物を計量する。
計数法(目視,自動)測定:一辺に3.1mmの格子が印刷されたフィルターを用いる以外,基本的な操作は質量法と同じである。捕捉した不溶分(粒子)の粒径を顕微鏡で観察し,粒径5以上15未満,15以上25未満,25以上50未満,50以上100未満,または100以上および長さ100以上の繊維状粒子(以上,単位μm)に区分しそれぞれの個数を計測する。
適用:質量法;鉱油系作動油,各種液体
:計数法;油圧作動油(粒径5μm以上の粒子計測)
意義:油圧油で不溶分(コンタミナント;粒子,夾雑物の総称)が増加すると,各種摺動部でのカジリ,作動不良,フィルタ目詰まり,給油不足による各種トラブルが頻発するようになる。このため,油圧油では汚損管理が最も重要な管理項目の一つになっている。 |
Q:コンタミナントの発生形態と除去方法は? |
A:コンタミナントは残留(機器の製造,組み立て時に残存),侵入(エアブリーザ,給油により侵入)および発生(機器本体から発生)の三つのタイプに分類されている。一般に残留コンタミナントはフラッシングで,侵入と発生コンタミナントは高性能フィルタによるろ過で除去する。 |
灰分および硫酸灰分
JIS K2272
JIS K2220
試料量:150mL |
mass% |
測定:磁製坩堝に精秤した試料(100g以下)を加熱し一定の状態で燃焼させる。坩堝の内容物を炭素質物質とした後,電気炉(775±25℃)で炭素質物質が完全になくなるまで加熱する。次いでデシケーター内で室温まで放冷し質量を計測する。この操作を繰り返し,恒量とした残留物が灰分である。硫酸灰分は試料を燃焼させて灰と炭素質物質とし,硫酸で処理し775℃で加熱した後,放冷,恒量とした時の残留物(主として金属硫酸塩)である。潤滑油では簡便法として元素分析(ICP)より計算で算出する方法も使われている。
適用:燃料,潤滑油など
意義:潤滑油の灰分(硫酸灰分)は無機物質で主に金属酸化物(金属硫酸塩)として計測されることから金属系添加剤の概略の量や金属摩耗粉など無機異物の混入量の目安として用いられ,一般にエンジン油では硫酸灰分が用いられている。 |
Q:灰分の組成は? |
A:潤滑油の灰分の組成は 金属酸化物>金属硫酸塩 で,硫酸灰分では金属硫酸塩が圧倒的に多くなる。エンジン油の場合,金属成分としては添加剤に由来するCa,塵埃類のSi,摩耗粉のFeなどが挙げられる。 |
泡立ち(潤滑油)
JIS K2518 |
mL |
測定:試料(S I :190mL,S II :180mL)を所定のシリンダー(L480,φ65mm,目盛0~1,000mL,目量10mL)に入れ規定温度(24および93.5℃)に加温する。次いでディヒューザストーン(結晶アルミナ粒子を溶融した多孔質吹い込み口)付き空気導入管をシリンダー底面に接するように取り付け,空気を吹き込む(流量94mL/min×5min)。通気を止めた直後の泡の量を10mL単位で読み取り(泡立ち度),10分間放置後の泡の量を泡安定度とする。試験温度によりシーケンスI(24℃),II(93.5℃)とIII(II試験油が完全に消泡後24℃で試験)がある。
表示例(シーケンスI );泡立ち度/泡安定度=450/30 mL
適用:潤滑油全般
意義:潤滑油は泡立ちが多くなると酸化劣化が促進される。また,泡の量が多くなると油がタンクから溢れたり,潤滑部では油膜切れ,気泡の破壊による局所的な高い衝撃圧力による表面損傷などのトラブルが発生する。このため潤滑油では消泡性を高めるために種々の添加剤が用いられており,使用油ではこの消泡性能がどの程度維持されているかを知るための重要な指標になっている。 |
Q:潤滑油の消泡性を高める添加剤はどんな化合物ですか? |
A:潤滑油の泡立ちを押さえ,消泡性を高める代表的な添加剤に,シリコン系およびエステル系ポリマーがある。また,これら化合物を消泡性の低下した使用油に微量添加し,性能を回復させることも間々行われている。 |
金属分析(ICP)
JPI-5S-38-92
(溶剤希釈法など) |
mass ppm |
測定:高温のアルゴンプラズマを励起源とする発光分光分析法で,試料に電気的(高周波),熱的エネルギー(プラズマ)を与えることにより発光させ,放射された光を分光して元素特有の光(スペクトル線)の有無と強度を測定することにより定性,定量分析を行う。この方法は5分程度で多元素(~20程度)を同時に測定できるが,分析対象は溶液で,固体試料の場合は酸などで処理し溶液にする必要がある。
適用:石油製品全般,スラッジなど固形物
意義:潤滑油中の金属含有量(添加剤,金属摩耗粉,さび,塵埃など)を把握し,また,鉄,クロムなどの種類と濃度より機械の摩耗部位(摺動面)の推定や摩耗の程度を予測することができる。 |
Q:金属含量より硫酸灰分を算出する方法は? |
A:油中に含まれる金属が硫酸塩に変化した場合,金属とその金属硫酸塩の量論的な関係から各金属の係数を求め,さらにJIS法との相関を考慮した推算式で算出する。この方法は簡便で迅速で,精度も良好であることから関係各社で広く使われているが,JISなどの公的な測定法にはなっていない。 |
エネルギー分散型蛍光X線分析(Energy Dispersive X-ray Spectrometry:EDS)
試料量 液体:10mL
固体:0.3g |
定性,定量 |
測定:試料(物質)にX線を照射すると光電子が放出され,その際に生じる電子の状態変化(励起-基底)に伴い電磁波(蛍光X線)を放出する。この電磁波の持つ波長とエネルギーは元素固有のもので,EDSは放出された電磁波を半導体検出器でエネルギー別に分けて各元素を分析する方法で,固体や液体など試料形態を問わず,短時間で任意の多元素を同時に定性,定量できる非破壊分析法の代表的な方法である。
適用:石油製品全般,スラッジなど固形物
意義:簡単な操作で液体,固体を問わず金属,塩素,硫黄などの分析ができ,溶液化し難いスラッジなど固体の由来を明らかにする上で欠かせない分析で,試料を損なうことなく他の分析に供することができる。 |
Q:EDSはどんな試料の分析に有効でしょうか? |
A:簡便でかつ試料形態を問わない応用範囲の広い分析法である。特に,試料を損なうことなく他の分析に供することができることから,溶剤に不溶なスラッジなど少量の固体試料の元素分析には最適な分析法である。 |
摩耗粉分析(フェログラフィー) |
異常摩耗係数(Is)など |
測定:フェログラフィーは磁石上に試料を流し磁力と重力の作用で摩耗粉などを捕集し,溶剤で油分などを除去した後,捕集粒子を識別する方法である。潤滑油中の摩耗粉や混入異物をスライドガラス上に配列させ,それらの粒子の形,大きさ,色などを顕微鏡で観察する分析フェログラフィーとチューブ(プリシビテータチューブ)に使用油を流し油中に含まれる大きな粒子(5μm以上)と小さな粒子(2μm以下)の濃度を透過光で調べる定量フェログラフィーがある。
適用:潤滑油(油中の金属摩耗粉,塵埃など固形物の形態的特徴把握)
意義:潤滑油中の金属摩耗粉がどんなタイプの粒子でどのくらい存在するかを調べることにより,その機械の摩耗状態を診断することができる。本法の最大の強みは異常摩耗分をいち早く検出することで,機械の故障を予知できることである。また,磁性を持たない粒子についてもマスキング処理などで分析することができる。 |
Q:潤滑油をフェログラフィーで管理する場合の留意点は何ですか? |
A:本法は運転中の機械から少量の潤滑油を採取し,その機械の摩耗状態を診断する分析技術である。得られたデータから的確な摩耗状況を診断するためには,その機械の摩耗に係わる定常状態を把握しておく必要がある。 |
赤外吸収スペクトル分析(IR) |
化合物の同定 |
測定:物質(分子)はそれぞれ固有の振動をしており,赤外線を照射すると分子の固有振動と同じ波長の赤外線が吸収され物質特有のスペクトルを得ることができる。IRはこのスペクトルより成分を特定する分析法で,すべての有機物と多くの無機物を分析できる。一般に気体,液体はNaCl結晶セルで,固体はKBr粉末で錠剤として測定する。また,定量分析は対象となる成分特有のスペクトルの強度と濃度の関係から含有量を求める。
適用:気体,液体,固体(赤外線吸収スペクトルを有する物質)
意義:試料の成分を同定(特定)し,定量することができる。データの採取は簡単で,グリースを含めた潤滑油剤のタイプ分析,添加剤分析(定性,定量),異物の分析など,試料がどのような化合物であるかを知るための最も有用な分析である。 |
Q:IRでどのような成分が分かりますか? |
A:潤滑油の混入異物(異種油,水分,繊維屑,樹脂片,塗料片,鉄さびなど),酸化劣化物(有機酸とその金属塩など)などを特定することができる。また,定量分析では極圧剤など各種添加剤,特にタービン油では酸化防止剤を定量し潤滑管理に用いるなど,IRは成分の分析には必須の分析法である。 |
|
2. 潤滑油の代表的な性能評価試験
潤滑油は使用時間とともに潤滑油を構成している基油が劣化し,添加剤が変質,消耗するために性能が低下する。潤滑油の性能低下は酸化,熱分解,加水分解など様々の因子によって引き起こされ,また性状にも反映される。このため使用油の管理では,多くの場合比較的測定が容易な性状を測定して行っているが,潤滑油の寿命の予測や潤滑油に係わるトラブルでは,使用油を実験室的な性能評価試験で評価し,原因究明の一助とすることも少なくない。ここでは潤滑油の代表的な性能評価試験の概要を紹介する。
2.1 性能評価試験
1)酸化安定性評価試験
潤滑油には鉱油など炭化水素化合物の基油に用途に応じて酸化防止剤など種々の添加剤が加えられている。潤滑油が酸化するとカルボン酸,ケトン,アルコールなどが生成し,さらに酸化が進むとこれら酸化物は重縮合して高分子化し,ワニスやスラッジ(不溶性物質)になる。その結果,潤滑油の酸価や動粘度が上昇し,またワニスやスラッジは不溶分を増加させ,機械の各部位に付着することで種々のトラブルを誘発することになる。
このように潤滑油にとって酸化安定性は重要な性能であることから,酸化に関する種々の加速因子を加味した評価試験法が開発されている。しかし,産業界で使用されている機械類は多種多様であり,潤滑油の使用条件も多岐に渡っているため,潤滑油の実機性能と実験室的評価結果に必ずしも良い相関があるとは言い難く,油種ごとに試験法が使い分けられている。
表2に潤滑油の酸化と性状変化,表3に代表的な潤滑油の酸化安定性試験方法を示す。また,回転ボンベ式酸化安定性試験器と内燃機関用潤滑油酸化安定性試験器の容器を図1と図2に示す。
表2 潤滑油の酸化劣化生成物と性状変化
酸化の因子
|
酸化生成物
|
性状への影響(機関への弊害)
|
温度:高いほど酸化が速い
混入異物(金属摩耗粉,水分など):酸化を促進 |
カルボン酸,ケトン,アルコール類など |
酸価,動粘度の増加(潤滑性能低下) |
同上物の重縮合物(高分子化合物) |
ワニス,スラッジなど不溶分の増大(清浄性の低下,フィルター目詰まりなど機械的なダメージ) |
|
表3 主な酸化安定性試験方法*1
雰囲気
|
試験法
|
規格
|
気体
|
温度℃
|
触媒
|
水
|
時間
|
油量
|
評価項目
|
対象油種
|
酸
素
‥
吹
込
み
|
タービン油酸化安定度試験(TOST) |
JIS
K2514 |
酸素吹き込み
3L/h |
95 |
銅線
鋼線 |
60mL |
~103hか規定の酸価に達するまで |
300mL |
酸価 |
タービン油,油圧作動油など |
試験法の概要 |
硬質ガラスの試験管(L:600,φ:41mm)に試料300mLと水60mLを入れる。次いで,先端に触媒コイル(研磨し脱脂した銅線と鋼線のコイル)を装着した酸素吹き込み管をセットし,95℃で所定量の酸素を吹き込んで行う試験。試験油の評価は酸価で行い,
タービン油の実用上の酸化安定性と相関があるとされているが,試験に長時間を要することが欠点である。 |
酸
素
‥
圧
入
|
回転ボンベ式酸化安定度試験(RBOT) |
JIS
K2514 |
酸素620Kpa
(室温) |
150 |
銅線 |
5g
(+5g) |
誘導期間
(酸素圧降下:~10h) |
50g |
酸素圧力降下
→誘導期間 |
タービン油,
油圧作動油など |
試験法の概要 |
ガラス製の容器(L:86,φ:59mm)に触媒(研磨し脱脂した銅線(3m,コイル状),試料50gおよび水5mLを入れ,圧力計を備えてボンベ内にセットする。このボンベに酸素を所定の圧力まで圧入し,150℃の恒温槽に入れ30°角度で毎分100回転させ,圧力が最高になったときから175kPaの圧力降下をするまでの時間を求める。 |
酸
素
‥
圧
入
|
グリース酸化安定度試験 |
JIS
K2220 |
酸素0.76MPa
(99℃) |
99 |
― |
― |
100h |
4g/皿×5 |
酸素圧力降下 |
グリース |
試験法の概要 |
ガラス製シャーレ(H:5,φ:37mm)に試料5gを採取し,圧力計を備えたボンベ(酸化安定度試験器)の底部に静置する。酸素0.69MPaを圧入し99℃に加熱する。この温度で酸素圧が0.76MPaになるように調整し,24時間ごとに圧力降下を記録し1.100h後の酸素圧の減少を測定する。この評価は実機性能より長期保存時の性能の評価の意味合いが強い。 |
酸
素
‥
圧
入
|
さび止め油酸素吸収試験 |
JIS
K2246 |
酸素0.76MPa
(99℃) |
99 |
黄銅板 |
― |
100h |
4g/皿×5 |
酸素圧力降下 |
さび止め油 |
試験法の概要 |
ペトロラクタム型さび止め油を評価する方法で, 試験装置は上述JIS K2220と同じものを用いる。シャーレに触媒(黄銅板)と試料4gを入れ酸素圧760kPa,9℃で100時間加熱し,試料の酸化による酸素圧の減少を測定する。 |
空
気
‥
か
き
込
み
|
内燃機関潤滑酸化安定度試験(ISOT) |
JIS
K2514 |
空気かき込み |
165.5 など |
銅版
鋼板 |
― |
24hなど |
250mL |
動粘度, 酸価,ラッカー度など |
エンジン油,
自動変速機油など |
試験法の概要 |
所定のビーカーに試料250mL,触媒(銅と鋼の板を連結した円筒)を入れ,ワニス棒を取り付けて酸化安定度試験器にセットする。165.5℃で攪拌(1,300rpm)し,24時間試験を行う。試験の温度や時間は目的に応じて変更する場合が多々ある。評価は試験油の動粘度,酸価(新油と比較)で行い,ワニス棒よりラッカー状物質の有無を調べる。この方法は実験室評価に多用されているが,エンジン油の場合は空気が油中に十分拡散されないことなどから実機との相関は低いと言われている。 |
*TOST;Turbine Oil Oxidation Stability Test
*RBOT;Rotary Bombe Oxidation Stability Test
*ISOT;Indian Stirring Oxidation Stability Test |
図1 回転ボンベ式酸化安定性試験器*2
|
図2 内燃機関用潤滑油酸化安定性試験器の容器*2
|
2)熱安定度試験
耐熱性に劣る潤滑油では,生成する熱変質物(炭質物)が不溶分を増加させ,粘度の増加,潤滑系統の清浄性の悪化,フィルター目詰まりトラブルなどの原因となり,さらにはリングの膠着やメタルの剥離など様々なトラブルを誘発する。特に高温のピストン,シリンダを潤滑し,かつ冷却しながら長期間使用されるエンジン油は,耐熱性に優れていることが重要になる。このため潤滑油の耐熱性,すなわち熱による変質度合いを調べるための試験はいくつか設定されているが,実機性能との相関は十分ではなく潤滑油の熱安定性(耐熱性)の大まかなふるい分けに使われているのが現状である。代表的な評価法を表4に示す。
表4 代表的な熱安定性(耐熱性)試験
試験法
|
雰囲気
|
規格
|
温度℃
|
対象油種と試験時間
|
評価項目
|
熱安定度試験 |
空気
(大気圧) |
JIS K2540 |
120 |
タービン油:12h船用内
燃機関用潤滑油:2h |
析出物の有無 |
試験法の概要 |
硬質ガラス製ビーカー(H:56,φ:53mm)に試料20gを採取し,空気恒温槽の回転盤にセットし,120℃で回転盤を回転(5~6回/分)させる。試験後放冷し,試料および試料容器底部の析出物の有無より潤滑油の耐熱性を評価する。 |
パネルコーキング試験 |
空気
(油ミスト) |
Federal Test
Method No.791B
Method No.3462 |
250~320
(常用温度) |
自動車,舶内エンジン油,ガスタービン油,油圧油など:3~24h程度(可変) |
付着炭化物重量 |
試験法の概要 |
潤滑油が高温部分に比較的短時間で接触した場合の固形分解物(主に炭化物)の生成傾向を調べる方法。スプラッシャーを備えた試験容器に試料油300mLを入れ,アルミ製パネルを上部(上蓋)取り付ける。試料油とパネルを加熱し所定の温度(通常;油:80~160℃,パネル:250~320℃)に達した時点でスプラッシャーを回転(通常1000rpm)させパネルに油を跳ねかける。標準的な油の跳ねかけは15秒,次いで45秒停止のサイクルで行う。規定時間(3~12h)後にアルミパネルに付着したカーボンなどの重量を測定する。 |
|
3)耐摩耗性能(極圧性能,耐荷重性能)試験
潤滑油の耐摩耗性能は摩擦個所の摩耗を抑制し,油膜破壊から金属接触を起こし焼付けに至るトラブルを防ぐための非常に重要な性能で,実機ではこの性能が長期にわたり維持できる潤滑油が望まれる。潤滑油の摩擦摩耗性能に係わる評価は実用機械を使用することができれば,得られた結果はそのまま適用できるが,この試験には膨大なコストや手間を要するため現実的でなく,簡便な実験室的評価法で行われている。
試験方法は摩擦する金属面の点,線および面の接触形態を考慮しているが,点および線接触では摩耗により接触面積が大きく変化する,試験球(試験カップ,試験ブロック)の材質や表面の仕上げなどと実機の軸受やギヤーなどのそれとは異なる,実機においてはころがり摩擦の影響がある,などの理由で実験室的な評価と実機の摩耗挙動が必ずしも一致するとは言えない。また,面接触では表面粗さが摩擦特性に大きな影響を与えることも相関を欠く要因になっており,この点を考慮して試験条件を可能な限り実機で要求される条件に合わせて設定し,試験をすることが広く行われている。
なお,四球試験やチムケン試験などは短時間で性能を評価できるため,潤滑油相互の性能比較や使用に伴う耐摩耗性能の経時劣化の把握に多用されているが,試験結果をそのまま実機へ適用する場合は注意する必要がある。代表性能試験を表5に示す。
表5 代表的な耐摩耗性能試験の概要
試験方法
|
試験の概要
|
試験片の
形状
|
接触様式
|
負荷方法
|
回転速度
rpm
|
給油方法
|
報告
|
四球試験:曾田式
(JIS K2519) |
試験球4個を三角垂状に組み立て(下部の3個:固定)試料を満たす。頂部の鋼球を回転させ,試験球への荷重を段階的に上昇させて摩擦トルクが急増する点を焼付け荷重として測定する。また,一定荷重で一定時間回転させた後,試験球の摩耗痕径を計測する。 |
鋼球
(4個) |
点接触 |
油圧 |
200~1,500 |
浸漬 |
焼付きを起こす荷重を油圧で示す |
四球試験:シェル式
(ASTM D2783-71) |
鋼球
(4個) |
点接触 |
レバー,
重錘式 |
1,500 |
浸漬 |
焼付き荷重,荷重摩耗指数(LWI) |
チムケン試験
(ASTM D2782-72) |
固定ブロック(鋼片)と回転するリング(鋼環)を規定条件で摩擦させて摩擦面が焼付かない最大荷重(合格荷重)を求める。 |
鋼環/
鋼片 |
線接触 |
レバー式
ショック荷重 |
800 |
流下 |
合格荷重 |
ファレックス試験
(ASTM D2670-81) |
二つのV型ブロックの中で円筒棒を回転し摩擦させて焼付きが発生する荷重を求める。 |
鋼棒/
Vブロック |
線接触 |
油圧 |
300 |
浸漬 |
融着荷重(Ib) |
*主たる適用油種;
チムケン試験:ギヤー油,すべり案内面潤滑油など
ファレックス,四球試験:油圧作動油,圧縮機油,エンジン油など |
4)抗乳化性・抗乳化性試験(JIS K2520)
タービンや熱間圧延機など,水あるいは水蒸気が混入する恐れのある機械では潤滑油が乳化して種々のトラブルが発生する。このため,この種の機械に使用される潤滑油は乳化し難く,また乳化しても水分を分離しやすい性質(抗乳化性)に優れていることが必要になる。JIS
K2520では抗乳化性の試験方法として,
a)抗乳化性試験方法:水に対する抗乳化の試験
b)蒸気乳化度試験方法:蒸気に対する抗乳化の試験
が規定されている。ここでは抗乳化性試験方法の概要を紹介する。
<抗乳化性試験方法>
測定:規定のガラス製シリンダーに試料40mL,純水40mLを採取し,規定の試験温度(例えば82℃)に保ち,かき混ぜ板(ステンレス製:120×19mm)で1,500rpm×5minかき混ぜた後,直ちにかき混ぜ板を引き上げる。乳化した試験液を5分ごとに油層,水層および乳化層の容量を記録し,乳化層が3mL以下になったとき試験終了とする。
報告:油層(mL)-水層(mL)-乳化層(mL)〔経過時間 分〕で行う。
例1:15分経過後,乳化層が3mLを超えて残っていたが,20分経過後,完全に分離した場合。
40-40-0(20)
例2:20分経過後完全に分離しなかったが乳化層が3mLになった場合。
40-37-3(20)
例3:60分経過後も乳化層が3mLを超えていてNmLの場合。
39-36-N(60)
5)耐腐食性能・銅版腐食試験(JIS K2513)
銅版を用いて石油製品全般の腐食性を調べる方法で,ボンベ法(航空燃料油に適用)と試験管法(燃料,潤滑油に適用)がある。研磨した銅版を約30mLの試料に完全に浸し,潤滑油の場合,100℃×3h試験を行う。試験後,銅版を取り出し洗浄し,表6に示した銅版腐食標準と比較して試料の腐食性を判定する。
表6 銅版腐食標準(JIS K2513)
変色番号
|
変色の程度
|
変色の状態
|
細分記号
|
磨きたての色 |
― |
|
― |
1 |
僅かに変色 |
薄い橙色 |
1a |
濃い橙色 |
1b |
2 |
中程度の変色 |
ピンク色 |
2a |
紫がかった薄いピンク色 |
2b |
橙色の上に濃いピンク色,紫,青色など多色模様 |
2c |
薄い金色がかった銀色 |
2d |
黄銅色または金色 |
2e |
3 |
濃く変色 |
黄銅色の上に赤茶色の模様 |
3a |
赤と緑の孔雀模様 |
3b |
4 |
腐食 |
生地が見える程度の緑~青紫色または黒色 |
4a |
黒鉛のような黒色または光沢の無い黒色 |
4b |
光沢のある黒色 |
4c |
|
6)さび止め性能・さび止め性能試験(JIS K2510)
さび止め性能は潤滑系統内に混入した水分による金属部分のさびの発生を防止する性能で,高級潤滑油では性能向上のために腐食抑制剤が添加されている。JIS法では所定の容器に試料500mLを採取し,規定の金属試験板を一分間浸漬させた後,100mm/分の速度で引き出し,日光の直射と通風のない相対湿度70%以下,温度23℃の環境で24時間自然乾燥させる。さび止め性能の評価はこの試験板のさびの数を計測し,表7の発生度の表示にしたがって行う。
表7 さび発生度の表示
等級
|
A級
|
B級
|
C級
|
D級
|
E級
|
さび発生度% |
0 |
1~10 |
11~25 |
26~50 |
51~100 |
|
おわりに
1)「高い生産性は機械設備の安定した稼働にある」との認識から多くの企業では機械設備の保全活動の一環として潤滑油の管理を行っているが,昨今の管理目的は従来のトラブル発生後の事後保全的な対処からトラブルを未然に防ぐ予防保全的な要素が強くなっている。
2)潤滑油管理の基本である性状と物性の測定方法はJISなどにより確立されており,これらのデータは使用油の継続使用の可否や寿命の推定に用いられている。
3)潤滑油の実験室的な性能評価試験は実機の使用条件を模擬しながら時間を短縮して性能を評価するものであるが,実機との相関が良いとは言えない場合が多々ある。しかし,各試験は実機の条件のある部分を抽出していることは確かであり*1,試験の目的を意識しながら使用することにより,より有用な情報が得られるものと思われる。
今後,性能評価試験は,実機と相関のある技術としてさらに進歩し,現状の新油時の性能評価中心の活用から使用油の寿命を的確に予測し,性状,物性と合わせ潤滑油管理に役立つ技術へと成熟していくことが望まれる。
本稿が潤滑油を取り扱う方々に少しでもお役に立てば幸いである。
〈参考文献〉
*1 山田恭久:トライボロジスト,44,6(1999)426
*2 日本規格協会:JIS K 2414-1996
*3 新日本石油(株)資料:潤滑管理について(2003)
*4 JISハンドブック(2007) 石油
*5 山田邦雄:使用油分析の意義と分析方法について,潤滑経済,2003.6,p.4
*6 日本潤滑油学会編:「潤滑油ハンドブック」養賢堂