産業洗浄剤ガイド

洗浄装置の構成の考え方 | 産業洗浄剤ガイド | ジュンツウネット21

 ひとくちに工業用の「洗浄装置」と言っても,各洗浄装置メーカーからは多種多様な装置が販売されており,何を基準として選定するかで悩む場合もある。筆者は洗浄装置メーカーの者ではあるが,本稿では装置を導入するユーザー側の視点に立って,洗浄装置を選定する際の基本的なポイントをまとめた。

株式会社エー・エス・ケー 時田 康之

1. 洗浄液の選定

 洗浄装置を考える前に,まずは洗浄液の選定をしなければならない。これは,被洗浄物の種類や材質,ならびに要求される洗浄精度などにより選定基準が変わるものであるが,洗浄液の種類により洗浄結果は大きく左右されるので,慎重に選定をすることが肝要である。

 洗浄液の種類とその特徴については他稿でも詳しく紹介されているので,ここでは簡単な説明に留めるが,いずれにしても,その洗浄剤を用いて,目的とする洗浄精度や乾燥性が本当に得られるのか否か,洗浄剤メーカーや洗浄装置メーカーとともに十分に検証をすることが大切である。

1.1 水系・準水系洗浄剤

 水系洗浄剤と呼ばれるものには,アルカリ性や中性の洗浄剤の他,市水(水道水),純水,超純水などがある。また最近では「機能水」などと呼ばれるアルカリ電解水も各方面で実績を挙げている。これら水系洗浄剤は幅広い産業分野での洗浄に用いられており,例えば加工油の脱脂洗浄や水溶性フラックスの除去洗浄から,精密加工品や液晶ガラス,半導体部品の精密洗浄まで対応させることが可能である。他の洗浄剤と比較した場合の水系洗浄剤の特長としては,

  • 幅広い汚れに対応可能
  • 毒性が少ない,あるいは無害である
  • 引火点がなく,安全上の規制を受けない
  • VOC規制をはじめとする各種環境規制も適用外
  • 比較的安価である

などが挙げられる。

 一方で,短所や留意すべき事項として,

  • 乾燥に時間がかかる
  • 金属部品では錆や変色を誘発しやすい
  • 汚れの種類によっては,溶剤系と比較して溶解力が弱い場合もあり,洗浄装置側の物理的補助(超音波やシャワーなど)が必要
  • 排水処理設備(又は産廃)が必要
  • 一般的に装置コストが高い

などが挙げられる。もっとも,水系洗浄剤自体も相当数の種類が流通しており,前述の弱点を補ったり,あるいは改善されたりしたものも数多くあり,使い勝手は格段に向上している。

 水系洗浄剤の中でも多いのがアルカリ性や中性の洗浄剤であるが,これらは原液を水に溶解させて「水溶液」として用いることが多い。通常はヒーターなどを用いて高温に加温させ,前述のとおり超音波やシャワーなどの物理力を併用して洗浄を行う。ただし,発泡性のある洗浄剤を用いてシャワー洗浄を行うと,洗浄槽や貯液槽が泡で充満してしまうので,事前の確認やテストが必要である。

 水系洗浄の用途は多岐にわたるが,一部の洗浄剤を除き,基本的には次工程で水によるリンス(すすぎ)が必要である。

 すすぎ水には市水(水道水)や純水が用いられることが多いが,主目的は,製品に付着した洗浄剤を洗い流して,表面の残渣(洗い残し)をなくすことである。したがって,製品に要求される仕上精度によって水(純水)の純度も異なる。

 ちなみに純水の純度を表す単位として,電気導電率(μs/cm),あるいは比抵抗(MΩ・cm)を用いることは既知のとおりであるが,工業用洗浄で用いられる純水では,数μs/cm以下であることが要求され,これを維持するために,イオン交換樹脂によるイオン分の吸着やRO膜を用いた濾過などの手法が必要となってくる。

水系超音波自動洗浄装置

写真1 水系超音波自動洗浄装置
水系シャワー自動洗浄装置

写真2 水系シャワー自動洗浄装置

 水系洗浄剤とともに多用されるものに,準水系洗浄剤がある。これは一般的には,溶剤(水溶性溶剤,および非水溶性溶剤)および各種添加剤類などに水を加えたものが多いが,含有する溶剤や界面活性剤などの洗浄力が活かされるとともに,水を添加したことで非可燃性の洗浄剤として扱えるというメリットがある。また,次工程のすすぎを「水」で行えるということも魅力の一つである。

 反面,洗浄物に合わせて調合をカスタマイズされたものが多く,どちらかと言えば洗浄用途が限定されがちである。また,含有する水分は揮発傾向にあるため,引火点の発現を抑えるために,洗浄液の銘柄とその使用方法によっては,洗浄剤中の水分濃度を監視・管理する必要がある。

1.2 有機溶剤系洗浄剤

 現在,洗浄用の有機溶剤としては,塩素系やフッ素系,臭素系など様々な洗浄剤が流通している。炭化水素系洗浄剤も定義上は「有機溶剤」に分類されるが,洗浄システムは異なった構築となるため,ここでは炭化水素は切り離して後述とさせていただく。

 有機溶剤の主な特長としては,

  • 汚れ(特に油分)に対する溶解力が強く,洗浄性に優れる
  • 乾燥性が良い
  • 蒸留再生が可能

などが挙げられ,工業用洗浄では欠かせない要素となっている。

 注意すべき点は,洗浄力が強い反面,ゴム材やプラスチック材に腐食や膨潤などの影響を与えるものがあり,ポンプや配管機器類のシール材質の選定を間違えると液漏れなどのトラブルを誘発することになる。また,有機溶剤は揮発しやすく,さらに揮発したガスは重いため洗浄装置(洗浄槽)の底部に滞留するので,誤った扱い方をすれば中毒事故や酸欠事故を起こす恐れがあり,その取り扱いには十分な注意が必要である。

 ところで,最近の洗浄用有機溶剤では比較的高価なものもあり,環境汚染低減の観点からはもちろん,ランニングコストの低減のためにも溶剤の消耗量を削減することは重要な課題である。したがって,これら有機溶剤を使用する場合は,旧来の開放式洗浄装置の代わりに写真3のような減圧超音波洗浄装置を使用する事例が増えてきている。

減圧超音波洗浄装置

写真3 減圧超音波洗浄装置

1.3 炭化水素系洗浄剤

 現行の炭化水素系洗浄剤は,消防法上では第四類第二石油類もしくは第三石油類に分類される「危険物」が大半を占める。

 特長としては,

  • 油性汚れに対する洗浄力が強い
  • 蒸留再生が可能

などが挙げられるほか,水溶性汚れの洗浄に優れたグレードも流通している。また,例えば前半を炭化水素系洗浄剤で洗浄し,後半をフッ素系有機溶剤ですすぎを行う「コ・ソルベント洗浄システム」にも応用が可能である。

 炭化水素系洗浄剤の短所としては,やはり「可燃性の危険物」であることで,消防法の規制を受けるとともに,洗浄装置側でも防爆などの対応が必要となってくる。しかし,これらのポイントを押さえれば扱いやすい洗浄剤でもあり,これまで炭化水素系洗浄剤の難点であった乾燥性についても,減圧ベーパー洗浄が可能な洗浄装置を用いたり,あるいは前述のコ・ソルベント洗浄システムを採用したりするなどの手法によっても解決できる。特に最近では,各洗浄剤メーカーからは多種にわたる炭化水素系洗浄剤が販売されており,洗浄目的に合ったものを見いだせば,比較的低コストで運用することが可能である。

2. 洗浄装置の選定

 洗浄剤の選定が決まったら,次は洗浄装置の選定となる。ここでは,選定した洗浄剤に対応する装置であることはもちろん,使い勝手や生産量,そして予算に合わせたシステムの構築が大切である。

2.1 洗浄液に合った洗浄装置

 洗浄液の種類が異なれば,それに対応する洗浄装置も異なったものとなる。つまり前述したように洗浄液には様々なものがあり,それらは化学的に性質が全く異なるものであり,例えば水系洗浄装置に有機溶剤を投入して使用することなどは不可能である。また,例えば有機溶剤用の洗浄装置であっても,溶剤の種類によっては,比重や比熱,沸点,蒸発潜熱などの物性値が異なり,それによってはポンプやヒーター,冷凍機などの能力を見直す必要もあるので注意をしなければならない。

 なお,洗浄装置メーカーの中には,特定の洗浄液に特化したメーカーもある。こうしたメーカーでは,その洗浄液に関しては技術や経験が豊富である半面,他の洗浄液での提案や対応が難しい場合もあるので,選定した(あるいは選定予定の)洗浄液に対応できるか否か,事前に相談をしておいた方が良いだろう。

2.2 洗浄方法

 選定した洗浄剤を用いて,どのように洗浄をするのかで,洗浄装置の構成は大きく変わる。これを洗浄方法により大別すれば,

  • 超音波洗浄
  • 空中シャワー洗浄
  • 液中噴流洗浄
  • その他(ブラシ,バブリング,揺動,回転等)

などに分類できる。

 超音波洗浄装置は,「超音波振動子」と呼ばれる振動板を洗浄槽の底面あるいは側面に設置したものであり,別に設置する超音波発振器と組み合わせて使用する。ここに被洗浄物を浸漬させて超音波洗浄を行うものであるが,実際には被洗浄物や除去する汚れの種類によって,最適な超音波の出力(ワット数)や周波数は異なるものであり,十分な検討と検証が必要である。

 シャワー洗浄装置(写真4)は,ポンプで加圧された洗浄液をシャワーノズルから噴射させて洗浄を行う装置であり,洗浄液の化学的な洗浄力とともに,シャワーによる物理的な洗浄力(打力)を併用した洗浄手法である。一般的にはシャワーによるミストが発生するため,水系・準水系洗浄に限られるものであり,有機溶剤系洗浄や炭化水素系洗浄に用いられることはごく稀である。

シャワー自動洗浄装

写真4 シャワー自動洗浄装

 液中噴流洗浄装置は,洗浄槽内の液中に噴射ノズルを設けたものであり,槽内に洗浄液の層流を発生させて洗浄を行うものである。空中シャワーの様な物理的な打力は得られないが,ミストの発生がないので有機溶剤や炭化水素系洗浄にも適しているとともに,シャワー圧力に耐えられないようなデリケートな部品(例えば薄膜フィルム基板など)にも好都合である。

 そして,上記の洗浄方法を複数採り入れたり,あるいはこれらを複合させたりすることにより,最適な洗浄システムが構築されるわけである。

 当然ではあるが,これらを構築するには,入念な洗浄テストと十分な検証が必要であり,最初から「答え」が決まっているものではない。つまり,要求される洗浄精度に対して,「最大の性能」と「最低のコスト」を両立させた洗浄システムを見いだすことがカギである。

2.3 乾燥方法の決定

 「洗浄」と同様,「乾燥」も重要な要素の一つである。つまり,いくら洗浄性に優れていても,乾燥性が悪くては良い洗浄装置とは言えない。特に水系や準水系洗浄の場合,被洗浄物の表面に残留する水分は,製品自体に錆やシミを発生させる恐れがあるので,完全に除去させることが望ましい。また,例えば比較的乾燥性が良いとされる有機溶剤であっても,沸点が低く蒸発潜熱が高い溶剤(例:ジクロロメタン)などを用いて薄板金属部品などの熱容量が小さい部品を洗う場合は,熱量不足による製品の結露が生じる事例も多くあるので注意すべきである。

 乾燥方法として最も一般的なものは熱風乾燥であるが,その熱風の温度や風量(厳密に言えば被洗浄物の表面における風速)などの条件によって乾燥時間は大幅に変わってくる。よって,これらも洗浄テストと同様に,十分な検証を行って根拠のあるデータを得ることが必要である。

 また,乾燥を補助的に促進させる手法として,熱風乾燥の前段にエアーブロー(エアーナイフ)を設置することも有効である。これは,一般的にはスリット上のノズルから高圧のエアーを噴射させて,その勢いで水分を吹き飛ばすものである。ただし,多量の圧縮空気を必要とするため,設置する工場側でエアー供給が間に合わない場合は,洗浄装置側に専用の高圧送風機などを設ける必要がある。

 なお,乾燥性能としては「完全乾燥」が理想ではあるが,実際の後工程を考慮して乾燥性能を決めることも大切である。例えば「後工程ですぐに二次加工に入るため,半乾きで構わない」ということであれば,洗浄装置側の乾燥性能を必要最小限に抑えることができるため,結果的に装置のイニシャルコストや,運用時のランニングコストを下げることが可能である。

2.4 洗浄槽の構成

 洗浄手法が決まったら,最終的な洗浄槽の槽数や構成を決定する。もっとも,この段階では洗浄テスト結果から大まかな構成は見いだされているはずであるが,さらに実際の運転状況を想定した上での再検討が必要な場合もある。例えば,実際の運用では連続的に被洗浄物が投入されるため,洗浄槽内には汚れが蓄積されてくる。これを浄化するために洗浄装置には物理的な濾過装置や蒸留再生装置などを内蔵しているが,この汚れの持ち込み量と浄化性能のバランス収支により,洗浄槽の汚れ具合(汚れの平衡濃度)が決まってくる。したがって,洗浄テストでは新液を用いるため良好な結果が得られたものの,実機では洗浄液が汚れてきたために洗浄不良が発生したなどの失敗例もあるので,必要に応じてシミュレーションを行うことも大切である。

2.5 自動機/手動機の選択

 乾燥を含めた洗浄槽の構成が決まったら,最後に自動機にするかあるいは手動機にするかの選択をする。簡単に言えば手動機の洗浄装置に搬送装置を付帯させたものが「自動機」となるわけであるが,バスケットの大きさや洗浄槽の数によっては搬送機構が大掛かりなものとなるため,全体としてはかなり大きな洗浄装置になる場合がある。したがって,価格的にも手動機の数倍となる場合もあるので,実際の運用を考えながら必要最小限の仕様を考えることも大切である。

手動機の例

写真5 手動機の例
自動機の例

写真6 自動機の例

 ところで,投入位置にセットされたバスケットが自動的に洗浄装置に引き込まれ,所定の洗浄・乾燥工程を経て搬出位置に自動排出されるものを「自動機」と呼んでいるが,例えば搬入出コンベアー部分を省略して手押し式のコンベアーにしたり,あるいはバスケットの搬送機構を簡素化したりした装置もあり,これらを「半自動機」と呼ぶ場合もある。写真7はこの一例であるが,これは手動で押し込まれたバスケットを洗浄装置内の搬送機構が自動搬送し,洗浄後は再び手動で引っ張り出すというものである。

半自動機の例

写真7 半自動機の例

 また写真8は「ワンハンガー」と呼ばれる自走式の搬送装置が付いたものであるが,搬送装置1台があるだけなので,装置サイズや価格は低く抑えられている。全自動式のような一斉搬送はできないが,洗浄量が少ない場合や洗浄時間に余裕がある場合などは,この方式でも十分対応することが可能であり,こうした事例で多用されている。

ワンハンガー式洗浄装置の例

写真8 ワンハンガー式洗浄装置の例

おわりに

 本稿は,洗浄装置の導入についての初歩的な留意事項についてまとめたものであるが,例えば同じ物を洗浄する場合でも,要求される洗浄精度や使い勝手により,構築される洗浄装置(洗浄システム)は全く異なった様相を呈する。もちろん,「洗えない」,「乾かない」といった要求仕様を満たさない洗浄装置は論外であるが,過剰スペックの装置の導入は無駄な設備投資であり,また余計なランニングコストを背負い続けることにもなってしまう。

 「洗浄装置」という性質上,一般の加工機などとは異なった視点で見ることが必要であり,そうした意味でも複数の洗浄装置メーカーに問い掛けを行い,最も自社にふさわしい装置を選定していただきたい。

最終更新日:2023年5月11日