1. 潤滑油のコンタミ管理はなぜ必要か
現在では航空機から遊戯施設に至る広い分野でオイルのコンタミ管理が実施されている。事例として潤滑油システムのコンタミ管理をオンライン・リアルタイムで厳格に行っているところもあるが,一方でサンプルを目視で判定している信じがたい実例もまだまだ見受けられる。この両極の事例はコンタミの意味を一方は確実に理解し,他方は全く理解していないことに原因がある。
コンタミとはコンタミネーション(汚染)とコンタミナント(汚染要因物)から出た言葉で,いずれもオイル中の固形微粒子,水分,エアなどオイル中に混入するオイルとは異なる物質で,システムに悪影響を与えるもの,またはこれらの物質に汚染された状態を言う(図1参照)。
図1 コンタミとは
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実はコンタミナントについては肉眼で見える最小の大きさは40ミクロンと言われているが,実際には100ミクロンも可視はできない。コンタミの個数濃度も汚染状態によっては100mL中に5ミクロン以上の粒子は100万個を超える場合もある。コンタミ管理の難しさと必要性はこの目に見えないコンタミナントの大きさと個数濃度に原因がある。
ではなぜコンタミ管理の必要性が強調されるかという背景は次の通りである。油圧装置を含む広い意味での潤滑油システムは,高圧,高性能,高効率を目指して進歩した反面,この目的のために各部品間隙間は極限までに狭まれてしまい,結果としてコンタミに対して非常に敏感になってしまった側面もある。
また,精密部品の洗浄などの事例についても同様なことが言えて,高い加工精度の部品には当然ながら異物による機械的閉塞,損傷をさけるために清浄度が求められるようになっているからである。
このことを裏付けるようにコンタミネーションが与える影響は大きく,権威ある油圧機器メーカーでの調査事例では油圧システム停止の80パーセントはコンタミによると報告されており,またその50パーセントはポンプがコンタミによる原因で故障していると分析されている(図2参照)。
図2 故障の原因 80% |
具体例として図4のように,オイルの清浄度がNAS 5級の場合にはポンプ内部を通過するコンタミの総量は22kg/年に対して,NAS 12級では実に3972kg/年が通過したという研究報告もある。したがって,当然清浄度の悪いポンプはコンタミの影響をより強く受けるため故障しやすいことになる。
言い換えると,稼働している潤滑油システムではどのようなコンポーネントが使用されて,その部品間隙間がどのくらいなのかによって目標清浄度を決める。この目標清浄度により管理を進めることが故障機会を減少させ,安全な装置の運用となる。
図3 知らなければならない一般的なオイル中の粒子個数濃度分布 |
図4 コンタミが与える機器への影響
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2. 目標清浄度の数値管理
コンタミが与える影響は粒子の大きさにより直ちに部品を損傷させて事故となる場合と小さな粒子が長時間にわたり部品をすり減らして故障を誘発させる両面がある。このことから,使用しているシステムがどのような機器を搭載しているかによりおおむね目標清浄度が設定できる。
設定の基準は,潤滑システムの 1)圧力,2)環境,3)寿命に対する期待値,4)経済的効果,5)部品の汚染感度,6)システム故障の経済的損失から決定されるが,直接的な設定は5)の部品の汚染感度に基づく(図5参照)。設定された目標清浄度に対して常に数値による管理が必要である。具体的には清浄度の国際規格であるNAS等級またはISO等級による管理である(図6参照)。
図5 油圧機器の目標清浄度
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図6 コンタミの判定
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3. コンタミ測定の最近の傾向
一般に潤滑油管理は分析試験を行って正しいオイルが供給されて故障や性能の低下を生じさせないかを調べる。一例で,タービン油の試験項目は密度,色,引火点,粘度,全酸価,全塩基価,水分,不溶解分,汚染度(コンタミ,きょう雑物)など多項目にわたって行われるが,その中でも重要度と緊急度の高いコンタミ管理については,自社内で測定し判定する傾向にある。大きな理由は,その他の性状項目は時間の経過とともに劣化が進行していくが,コンタミはどんな要因でいつ生じるか分からないため,現状を即座に判定が出来る状況が求められているからである。
4. 手分析からオンライン分析へ
問題は今日までのコンタミの測定方法は圧倒的に試料を採取して重量法,フィルタ遮断式,顕微鏡法,パッチテスト,などによって判定することが多く,これらの方法は分析器の操作,結果の判定に技能と知識・時間が必要なことと,廃油・廃材を出し,資源・環境問題に影響をおよぼしていることから何らかの改善が必要である。
従来の手分析型から今後注目を集める方法はオンライン・コンタミ測定である。最近の優れたセンサテクノロジーの進歩によって,これまで困難とされてきたこの種の分析をオンライン・リアルタイムで測定する手法が徐々にではあるが普及している。
5. オンライン・オイル・パーティクルカウンタ
前述のようにオイルの清浄度が故障に直接影響するため,常に清浄度をチェックすることは欠かせない品質管理,設備保全にとり重要な日常業務である。より早く,正確に,カンタンに行うことができるオンラインによる清浄度管理は,オンライン・オイル・パーティクルカウンタとサンプラーより構成される。サンプラーはサンプルオイルをカウンタに供給する装置で,潤滑油ラインに多数のテストポイントにも設置でき,生産ラインの清浄度チェック・製品の品質検査など生産技術・保全面で運用できる。また,オンラインで使用できるように油圧のポートを持ち,レーザーダイオードを光源に用い,測定結果は清浄度の国際規格であるISO4406と日本で多用されているNAS1638で定められた各粒子サイズで報告される(図7)。
<測定油> | <アプリケーション> |
図7 オイル・パーティクルカウンタの使用例 |
写真 パーティクルカウンタ |
6. 次世代型コンタミ管理について
以上のように,これまでの試料採取による分析室でのオイル分析からオンライン・リアルタイムによるデジタル・オイル分析は変わりゆく時代の背景からでるニーズに対応し,画期的な潤滑油管理へ発展する第一ステップとなるだろう。ごく近い将来ではオイル中のコンタミナント(きょう雑物)の中でも鉱物的な特性から摺動面に損傷を与える鉄,ニッケルなどの鉄系粒子(Ferrous Debris)を短時間でオンライン・リアルタイムで測定できる鉄摩耗粉センサが実用化されている。この鉄摩耗粉センサを利用することにより,この種の摩耗分で故障を発生しやすい大型のディーゼルエンジン,減速機や高速回転する軸受けでオンラインによる常時監視が行われる画期的な管理ができることになる。また,鉄摩耗粉と非鉄摩耗粉の各粒子サイズごとの個数を計数できるオンライン金属摩耗粉センサも登場する。
このように一般潤滑油・作動油に限らずATF・燃料油・洗浄油のオンライン監視が各業界で関心を集め,また実際に採用に踏み切るユーザーが出始めている。近未来のシステムではいつでもどこでもリアルタイムで測定し,システムの清浄度の状況が把握でき,瞬時に適切な対応が取れることになるだろう。