工業用潤滑油を購入したところ,中和価0.8mgKOH/gと記入されており,2~3日後に今度はトラックのエンジン油を購入したところ,全塩基価10.8mgKOH/g,全酸価2.5mgKOH/gと性状表に記載されていました。中和価と全塩基価,全酸価の相互の言葉の意味,その関連性はどのように理解すればよいのですか。また,エンジン油の全酸価と全塩基価が同一の油に同時にみられるのはなっとくがいきません。分かりやすく説明してください。
解説します。
石油製品中の中和価とはその油の中に含まれる酸性または塩基性物質の量を相当する水酸化カリウムのmg数であらわしたもので,滴定しようとする対象によって全酸価,強酸価,全塩基価,強塩基価の4種があります。したがって,中和価とは酸価及び塩基価の総称だと言うことができます。
全酸価は油の中の酸性成分の全量,すなわちナフテン系,添加剤中の酸性物質,使用中に生成した有機酸などすべてを合せた量を示します。全酸価をもって潤滑油の精製度の目安としたり,製造工程の管理指標,使用潤滑油の管理あるいは潤滑油の酸化試験や実用試験後の劣化状態を知るための目安として広く用いられています。一般に潤滑油が劣化するにしたがって,全酸価は増えてくるのが通常です。しかし,最近のエンジン油やギヤ油などには酸性物質を含む添加剤の消耗のため一時的に全酸価が減少したり,油は劣化してもほとんど全酸価は変わらなかったりするものがありますのでご注意下さい。
また,強酸価は油の中の強酸性成分の量を示します。通常はディーゼルエンジン油など内燃機関に使用する油は,燃料排気より混入してくる硫酸の量の管理などに利用されています。
塩基価と強塩基価は油の中の塩基性物質の量を示しますが,天然の石油留分中には塩基性物質はほとんど存在しません。したがって,塩基価は潤滑油に添加される清浄分散剤(CaやBaの金属石鹸類が多い)の量の目安としてエンジン油の評価や使用エンジン油の管理面に用いられています。
中和価試験方法(JIS K2501)は全酸価と強酸価および全塩基価と強塩基価の試験方法に分かれ,いずれにも指示薬滴定法と電位差滴定法がありますが,全塩基価と強塩基価試験方法の電位差滴定法は滴定に用いる試薬により塩酸法と過塩素酸法に分かれます。指示薬法は主として淡色の潤滑油に,電位差滴定法は使用油など指示薬変色のわかりにくい暗色~黒色油(使用油など)に適用されます。滴定溶媒としてトルエン,イソプロピルアルコールおよび水の混合溶媒を用いますので,水溶液の中和滴定法の場合,はっきりした変曲点の得られないことが多く,滴定液が一定のpHに達したときを終点とします。両方の結果は必ずしも一致しませんが,全塩基価は電位差滴定法のみによって測定されます。
なお,塩基性添加剤を配合した潤滑油に対しては,測定精度も高く,滴定時間も短時間ですむ過塩素酸法が用いられます。
これらの試験法をまとめ表1に示します。
表1 試験方法の種類
*1 解離定数が10-9より小さい酸あるいは塩基は測定結果に現れない。なお,加水分解定数が10-9より大きい塩類が含まれている場合は滴定用の標準液を消費し,測定結果に影響することもある。 |
つぎに,内燃機関用潤滑油の酸価とアルカリ価が共存する理由を説明しましょう。
ここで,エンジン油の電位差滴定法で測定した一例を図1に示します。(1)は試料のpHが11.8を示し,明らかに強塩基成分の存在を示します。これを1/10N塩酸で滴定しますと右上の曲線が得られ,強塩基価0.8,全塩基価4.5の値を示します。(3)は試料の最初のpH3.5の場合で,これを1/10N水酸化カリウムで滴定しますと左下の曲線となり,強酸価0.5,全酸価3.2の値を示します。このように試料中に強酸価もしくは強塩基価を示す場合すなわち試料の最初のpHが11以上か,4以下の場合は酸価,塩基価のどちらか一方しか示しません。
図1 |
ところが,(2)のように試料の最初のpHが4と11のあいだにある場合,弱酸価1.0弱塩基価3.0となります。このような例は酸化防止剤としてZnDTP(ヂチオリン酸亜鉛)を添加している各種内燃機関油にみられます。このようにZnDTPが入るとなぜ酸価とアルカリ価を同時に示すかといいますと,ZnDTPは両性化合物で,強酸がくると塩基として作用し,強塩基がくると酸性化合物として作用する性質をもっているからだと考えられています。