放射線に当たると潤滑油はどうなるか | ジュンツウネット21

潤滑油への放射線の影響,耐放射線油などについて解説します。

放射線に当たると潤滑油はどうなるか

放射線にあたると潤滑油はどうなりますか。また放射線に強いのはどのような組織をもった潤滑油ですか。
解説します。

1. はじめに

放射線にはいろいろなものがありますが,次の二つに区分されます。一つは電子線,陽子線,α線,β線,中性子線などの粒子線であり,ほかは電波,赤外線,紫外線,可視光線,X線,γ線などの電磁波です。放射線源がことなれば発生する放射線の種類,線量もことなります。

2. 放射線の影響

放射線が物質中をとおるときに損失するエネルギーは,放射線の種類,エネルギーさらに物質の種類によってことなります。被照射物質が有機物の場合には放射線の飛跡にはイオン,ラジカル,励起分子などが残ります。これらが互いに反応したり,もとの分子と反応して物質の化学変化を引き起こします。放射線照射による有機物質の損傷は結合基切断にはじまりますが,主鎖切断の場合は低分子化合物および低分子オレフィンを生成し,粘度低下の原因になります。側鎖切断の場合には高分子化合物およびガスを生成して粘度増加を起こします。熱が加わるとラジカル連鎖反応が促進され,また酸素の存在により酸化反応も進行し,いっそう複雑な反応になります。

実際に潤滑油に放射線照射を行うと,どのような性状変化を起こすかスチームタービン油の例で述べます。発電用原子炉で用いられるタービン油は中性子放射をうけることは少なく,放射線としてはγ線またはβ線が主体です。このような場合は被照射物質の吸収線量が同じであれば,放射線の種類がことなっても放射線損傷の程度はほとんど同じであるといわれています*1。

放射線照射による性状変化ですが,粘度については吸収線量108rads付近までは線量に比例して緩慢に増加しますが2×108rads以上になると粘度増加は急激に上昇し,ついにはゲル状にいたります*2。この粘度増加の原因は,主として放射線照射による架橋反応により高分子量化合物が生成するためであり,添加剤の影響は見られません。

いっぽう,引火点は線量増加とともに低下しますが,これは分解により生成するガスのためです。生成ガスの90%以上は水素であり,ほかにメタン,エタン,プロパン,エチレンなどの炭化水素が少量含まれているとの分析結果もあります*1。

流動点は放射線照射によって高くなる現象がありますが,これは基油分子の側鎖が切断されパラフィンが生成してくるためであると考えられています。酸化安定性,泡立ち性,さび止め性能,耐摩耗性などは,いずれも線量の増大とともに悪くなります。これは,それぞれ酸化防止剤,消泡剤,防錆剤,耐摩耗剤が放射線により分解して失効するためと考えられています。ただし,耐摩耗性については,基油のみの場合は逆に線量増加につれて耐摩耗性がよくなります。その理由は放射線照射によって基油が酸化され,それによって生じた酸化生成物が耐摩耗剤として働くためと考えられています。

実際の原子力発電プラントにおいては,タービン油のうける放射線量率は1rad/h程度であり,通常のタービン油寿命10年間にうける線量は105rads程度となりますが,この程度の線量による潤滑油の性状劣化は小さいといえます。

3. 耐放射線油

表1に有機液体の耐放射線性を示しましたが,芳香族炭化水素は放射線に対して安定でありますが,オレフィンは不安定で放射線により架橋反応を起こして重合物を多く生成します。パラフィンとナフテンはそれらの中間に位置しますが,両者の間にほとんど差はありません。

表1 有機液体の耐放射線性

化合物
耐放射線量*a
ポリフェニル
5000
ポリフェニルエーテル
4000
アルキル芳香族
1000
鉱油
100
ポリグリコール
100
メチルフェニルシリコーン
100
芳香族エステル
100
シリケート
50
ジシロキサン
50
アルキルジエステル
50
ホスフェート
5
アルキルシリコーン
5
オレフィン
5

 *a 単位は106rads:粘度または酸価を25%変化させる放射線量

芳香族炭化水素はそれ自身耐放射線性であるのみならず,耐放射線性の低い飽和炭化水素の損傷を保護する能力ももっています。具体的には少量の芳香族炭化水素の添加により油の耐放射線性がいちじるしく増加するという現象があります。この原因はまだ明らかではありませんが,観念的には芳香族化合物が放射線に対してshock absorberとして働くためであると考えられています*3。

芳香族炭化水素のうちでも縮合多環芳香族およびポリフェニルはとりわけ耐放射線性が高く,実際,ターフェニルなどのポリフェニルは原子炉における中性子減速冷却材として用いられています。しかし,これらは高価であり,耐放射線性の基油として注目されているのはアルキル芳香族とポリフェニルエーテルであり,前者は普通の使用条件では1×109rads程度の線量まで使用できると考えられています。後者については表1からもわかるようにさらに耐放射性線性にすぐれていますが,流動点が高く,低温粘度性状が悪いという欠点があります。

4. 添加剤

添加剤,つまり放射線損傷防止剤についてですが,酸化防止剤の中に有効なものがあり,中でもセレンやイオウ化合物がよいといわれています*4。しかしながらアミンやフェノール系の酸化防止剤は有効ではなく,むしろ放射線損傷を促進する場合もあります。いっぽう,ヨウ素化合物のようなfree radical scavengerにも放射線損傷防止剤として有効なものがありますが,酸化防止剤の作用を無効にしたりして悪影響をおよぼすことがあります。

このように放射線損傷防止剤として有効なものはありますが,これらは耐放射線性の悪い潤滑油には有効ですが,もともと耐放射線性のある潤滑油にはそれほど効果的ではなく,もっとも有効な場合でもせいぜい数倍程度の耐放射線性をあたえるだけです。したがって基油として耐放射線性にすぐれていることが望まれ,潤滑油の耐放射線性を決定するものは主として基油であるといえます。

<参考文献>
*1 C.F.Kottcamp,et al:ASLE Trans. 2,1(1959)
*2 R.F.Hausman,et al:Lubrication Eng,13,200(1957)
*3 M.Burton,et al:I/EC 50,221(1958)
*4 W.W.West,et al:California Research Corp. Report No.73

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

アーステック



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