工作機械の案内面の種類,役割,構造,特徴などを解説します。
工作機械における案内面の特徴
工作機械における案内面にはどんな種類があるのか。また,その役割と特徴について解説して下さい。
解説します。
工作機械の案内面の役割,構造を概説し,代表的な“すべり面案内方式”,“ころがり案内方式”,さらに当社独自の“半浮上案内方式”おのおのの特徴を紹介します。工作機械の役目も個性化しつつあり,案内方式もそれにあわせて選択していく傾向があります。
1. 案内面の役割
工作機械は加工物(ワーク)と工具を相対運動させ“形ずくり”をするものです。運動のおもなものが,送り動作で各直線動作(X,Y,Z)を直交に組み合わせて三次元動作を創ります。これらの各直線動作を規定するのが“案内面”です。
一方向のみが自由に動き,(図1)のように姿勢変化がないように拘束します。しかも
イ)滑らかに動くこと。 ロ)荷重,切削力などを受けられること。 ハ)切削振動を吸収すること。 ニ)長期間(何年も),性能,精度が変わらないこと。
が必要です。したがって案内面は工作機械の基本要素であり,性能を左右する重要な構成要素です。
図1 案内面の拘束 |
2. 案内面の方式と仕組み
案内面の方式として図2に示すように主として4つの方式に大別されます。それぞれ案内面は機械の大きさ,種類,役割などにより使い分けられますが,現在多く採用されている方式は“すべり案内”と“ころがり案内”です。
イ)すべり案内
潤滑油を基準面間に供給し,油の潤滑性を利用し“すべらす”方式
ロ)ころがり案内
コロ(もしくは玉)を基準面上で転がし低いころがり抵抗を利用して案内する方式
ハ)静圧案内
液体(油)もしくは気体(空気)に圧力をかけ供給し移動体を浮上させ,流体の低粘性を利用して案内する方式
ニ)磁気浮上案内
磁気の反発力で浮上させ,案内する方式(まだ実用化されていない方式)
図2 各種案内方式 |
3. 案内面の特徴
以下,牧野フライスでの事例から代表的な2方式である“すべり案内”と“ころがり案内”および牧野独自の“半浮上すべり案内”を具体的に紹介します。
3.1 すべり案内
基準面は焼き入れ研摩し,すべり面にはふっ素樹脂を接着しフライスで荒加工したのち,基準面に合わせてキサゲ加工により仕上げます。すべり面側に設けた油溝からは一定時間ごとに一定粘度の潤滑油を供給し,良好なすべり特性を保ちます。さらに切削力などによる浮き上がりを防止するため(図3)のようにギブを設けます。
キサゲ加工面と研摩面との組み合わせであることから,接触面積が大きく,かつ油溜まりによる振動減衰性がよいことから,重いワークを切削する機械や大きな切削力がかかる(重切削をする)機械の案内面に適しています。一方,比較的摩擦抵抗が大きくなる欠点があります。
図3 ギブ方式 |
3.2 ころがり案内
ころがりを利用した代表的な直動案内が“リニアガイド”といわれ,いろいろなベアリングメーカで製作されています。
これらのリニアガイドの取り付けにあたっては取り付け方により位置精度などの性能に影響を及ぼすことから,特にその真直度,直角度などの取り付け精度に注意を払い,時にはキサゲ作業が必要となります(図4)。
リニアガイドは摩擦抵抗が小さいことから,俊敏な高速送りを小さな送り力で行うことができます。しかし基本的にコロは線接触で接触面積が小さいため大きな負荷や切削力を受けるには限界があり,また減衰性が低くなりやすいことから衝撃力の大きな切削などには不向きで,比較的小さな切削力で俊敏な高速動作が必要となるアルミ部品加工やグラファイト加工向けなどのマシニングセンタに採用されます(図5)。
図4 リニアガイドの取り付け |
図5 高速,高能率加工用マシニングセンタ |
3.3 半浮上すべり案内
すべり案内の高負荷,高減衰性の特徴をいかし摩擦特性の欠点を解決した案内方式が“半浮上すべり案内”です。
この方式は図6に示すようにすべり面に油溝の他にエアパッドと変位センサを設け荷重の変化を検出しそれに対応して空気圧を変えることにより荷重をバックアップして案内面にかかる力が常に一定になるようにし,負荷によらず精度が変わらない(安定な)方式です(図7)。
図6 半浮上すべり案内 |
図7 半浮上すべり案内方式の効果 |
またバックアップする力は荷重より小さいことから空気圧により完全に浮上することがなく,すべり案内の剛性および減衰性をそこないません。したがいこの方式は比較的重いワークや切削代が大きく高精度加工が必要となる金型加工用マシニングセンタ(図8)などの案内面に採用します。
図8 金型加工マシニングセンタ |
4. おわりに
従来の工作機械における案内面方式はすべり案内が主体でした。近年の著しい高速化,高精度化の要求により工作機械の案内面もそれに対応した選択をメーカ側が行う傾向にあります。すなわち目的や用途に応じて案内面の使い分けが必要との認識が高まっていることが最近の特徴であるといえます。