摩擦係数は測定する試験機によっても幾分違いますが,代表的な試験機,例えば振子式II型とか,シェル四球試験機などによる固体潤滑剤,石油系潤滑油,油脂類,高級アルコール類,代表的ポリマー類,グリース類などの測定例があればデータとしてご教示ください。
解説します。
ある物体を平面に沿って動かそうとするとき,常にその運動を妨げようとする力(摩擦力)が働きます。この物体の荷重Pと,これを動かすのに要する力Fとの関係は
F=μp …(1)
で表されることはAmonton-Coulombの法則としてよく知られていますが,(1)式における比例定数μを摩擦係数と呼んでいます。摩擦係数には静摩擦係数と動摩擦係数とがあり,潤滑剤に関しては,ほとんどが動摩擦係数として測定されています。
同一潤滑剤で,同一試験機を用いても,荷重,温度,摩擦面材質や表面粗度によって値が異なるため,これらの条件も同一にして初めて,潤滑剤間の比較,試験機間の比較ができるといえます。
摩擦係数の測定データは,種々の文献等に数多く報告されていますが,上に述べたように,各種条件はもとより,試験機自体もまちまちのため,それらのデータを単純に比較することはあまり意味がありません。
ご質問の趣旨に合うかどうか分かりませんが,わが国で比較的よく使われているのは,振子式II型摩擦係数試験機と曽田式四球試験機であり,測定例も多いので,それらを中心に例示します。また,潤滑剤として油脂類,高級アルコール類等を単品で使用に供することは少なく,通常の場合,潤滑油基油に混合して使うことが多いので,データについても,そういうケースで測定したものが多いようです。
表1は,石器油系潤滑油およびリチウムグリースを除いては,潤滑油基油に対して1wt%の潤滑剤を添加して測定した例を示しています。振子式II型のほうが,全般的に高い値を示していますが,一般的には,両者の間に相関関係は見られません。なお固体潤滑剤については,試験法が異なりますので別枠で表示しました(基油への混合割合は他の潤滑剤と同じく1wt%です)。
表1 各種潤滑剤と摩擦計数
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図1は,潤滑油基油に対して,潤滑剤の添加量を増やしていった場合,摩擦係数はどのように変化するか,オレイン酸について測定した例を示したものです。0.5wt%添加あたりから摩擦係数の変化は少なくなりますが,これは,その他一般の油性剤についてもその傾向は見られます。
図1 オレイン酸添加量と摩擦係数(振子式II型) |
図2は,摩擦係数の測定法としては上記のものと異なりますが,脂肪酸,アミン,アルコールについて,直鎖状炭化水素基の炭素数の大小による摩擦係数の変化を表しています。一般に炭素数が多いほど摩擦係数は減少しますが,ある値より多くなると,一定になることを示しています。
図2 油性剤単分子膜の摩擦係数(ガラス面上の単分子膜とステンレス球の摩擦係数) |
表2には,同じ炭素数を持つ化合物の場合,その化合物の極性基の違いで摩擦係数は変わりますが,炭化水素基がラウリル基,ステアリル基の場合のデータを示しました。
表2 摩擦計数におよぼす極性基の影響(振子式II型,50℃)
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以上,図表を用いて摩擦係数の測定例を示しましたが,一般的にいえることは,これら種々の条件下において,潤滑剤の摩擦面に対する吸着状態が,摩擦係数に影響を与えます。図2,表2などはそのよい例ですが,その他にも温度条件を変えた場合,摩擦面を種々の金属等で測定した場合や,表面粗度を変えた場合の測定例などが見られます。
このように,摩擦係数は測定条件によって,まちまちの値を示すため,潤滑剤間の性能評価にはできるだけ同一条件下でのデータ比較が必要であるとともに,実際に使用される潤滑条件を考慮して,試験機の選定,測定条件の設定を行う必要があります。