気化性防錆フィルムの特長とその適用 | 防錆ガイド | ジュンツウネット21

防錆のためにグリースや油などが一時的なコーティングとして使用されるが,加工や組み立て前には除去しなければならない。気化性防錆フィルムは,油等を使用せずに防錆が行える比較的新しい防錆材である。

大洋液化ガス株式会社 ゼラスト事業部 城村 真衣  2013/6

はじめに

製造業のグローバル化により,大量の金属製品が世界各地から様々な国に輸出されている。輸出された製品は輸送から組立までの間,または倉庫で保管される期間,それらの製品はさびやその他の形態の腐食からの保護を必要とする。さびは金属製品に対し,破壊的な影響を与えるだけではなく,経済的にも大きな損失となる。金属製品の中には,防錆のために最終的な表面処理によるコーティングが施された製品もあるが,多くの金属部品は輸出先での加工や組み立てのため,または意図された使用方法のため,さびや汚れがなく乾燥した状態を必要とする。防錆のためにグリースや油などが一時的なコーティングとして使用されるが,加工や組み立て前には除去しなければならず,それには人件費・除去するための設備費,廃棄のための費用など直接的な費用と,環境に関わる間接的な経費が必要となる。

近年,このような防錆方法の代わりに,除去の必要がなく乾燥したまま防錆を行える方法が取り入れられるようになってきた。気化性防錆フィルムは,油等を使用せずに防錆が行える比較的新しい防錆材である。

気化性防錆フィルムの特長

ゼラスト気化性防錆剤*は,化学分子が気化し,金属表面や金属表面の湿気層に吸着することでさびを引き起こす電気化学的反応を抑制し,さびを防ぐ。この気化性防錆剤のプラスチックへの導入は,多様な製品を生み出した。それらの多くはポリエチレンをベースとしたもので,防錆シート,袋,緩衝材(エアセル),ボードなど様々な形状の防錆包材が開発されることになった。

気化性防錆フィルムでの部品の包装の様子
図1 気化性防錆フィルムでの部品の包装の様子
  a.エアセル(左),発泡シート(右)。b.エプラボード-気化性防錆フィルム
図2 気化性防錆フィルムは通常のフィルムだけでなく,
    様々な形状へ加工が可能。
a.エアセル(左),発泡シート(右)。 b.エプラボード

一般的に気化性防錆フィルムとは,気化性防錆剤をプラスチックと混合して成形するか,またはプラスチックフィルムに気化性防錆剤を塗布したものである。気化性防錆フィルムの特長は以下である。

○防錆剤と包装材両方の役割を果たす
○使用後の金属表面はドライタッチのため,除去や洗浄等を行う必要がない
○用途に応じて,シート,袋,ボード,緩衝材(エアセル)等への加工が可能
○油,グリースを使用せずに防錆が行えるため,安全性が高く,環境負荷も低い

ゼラスト気化性防錆剤が,金属表面へ到達し防錆を行う防錆メカニズムを図3で簡単に示す。このモデルは防錆メカニズムの鍵となる要素を要約して説明するものである。

気化性防錆剤のメカニズムの簡易モデル
図3 気化性防錆剤のメカニズムの簡易モデル

ゼラスト気化性防錆剤は防錆フィルムから拡散し密閉空間内に充満する。ゼラスト気化性防錆剤は様々な種類の金属表面や防錆空間内にある結露や,金属表面に形成された電解質層(水分)に溶け込み,電気化学的な反応を抑制する。

気化性防錆フィルムは,フィルムから拡散した防錆分子が金属製品の微細な孔や隙間に入り込むことができるため,塗装やその他のコーティングでは覆うことができない部分を防錆することができる。また,ゼラスト防錆フィルムは様々な金属種類に対応しており,金属に合わせて3種類のフィルムがある。

○鉄用気化性防錆フィルム
 鉄鋼・鋳鉄など鉄系金属の防錆に適している。
○非鉄用気化性防錆フィルム
 銅・アルミニウムやそれら合金などの防錆に適している。
○鉄,非鉄両用気化性防錆フィルム
 上記のような鉄と非鉄が組み合わさった製品や亜鉛メッキ鋼板などのメッキ品に適している。

このように,気化性防錆フィルムによって多くの種類の金属製品の防錆包装を行うことが可能となる。

*ゼラストはNorthern Technologies International社(NTI社・米国)が開発した気化性防錆剤である。大洋液化ガス株式会社はNTI社と提携し,25年以上前から日本国内でゼラスト気化性防錆フィルムを製造販売している。

気化性防錆フィルムの適用例

気化性防錆フィルムは,倉庫保管,国内輸送,海外輸出等の様々な場面で防錆と包装を兼ねて使用されている。図4および図5はゼラスト気化性防錆フィルムを使用した自動車部品の海外への輸出事例である。

クランクシャフトの海上輸送と保管に使用されるゼラスト気化性防錆フィルム
図4 クランクシャフトの海上輸送と保管に使用される
ゼラスト気化性防錆フィルム
 
CKDボディパネル(未塗装)の輸送に使用されるゼラスト気化性防錆シュリンクフィルム。この後,シュリンクされる

図5 CKDボディパネル(未塗装)の輸送に使用される
   ゼラスト気化性防錆シュリンクフィルム。
   この後,シュリンクされる

また,大きな製品の防錆包装も行うことが可能である。図6は大型電気電子制御キャビネットの防錆包装例である。キャビネットを防錆フィルムで密封包装しており,さびの原因となり得る木枠・段ボールとキャビネットが直接接触するのを防ぐとともに,キャビネットの防錆を行うものである。

大型電気電子制御キャビネットの輸出防錆
図6 大型電気電子制御キャビネットの輸出防錆

気化性防錆フィルム使用のメリット

気化性防錆フィルムを使用することにより,油を使用しない防錆が可能となる。そのため,乾燥したきれいな状態で製品は輸送・保管され,従来の防錆で必要だった油除去のための洗浄工程を必要としない。このことは,油の塗布および除去にかかっていた時間と人件費のコスト削減へとつながる。また,油の不使用により作業者に対する安全性が向上するとともに環境負荷の低減へもつながる。

気化性防錆フィルム使用上の注意

気化性防錆フィルムは,包装後,包装空間内に気化性防錆剤が飽和するまで数時間を必要とする。よって,防錆剤が飽和する前に急激な温度変化による結露が包装内に生じたり,熱い金属を包装し結露が生じたりした場合,防錆剤の効果が発揮される前にさびが発生するため,気化性防錆フィルムを使用してもさびを防ぐことはできない。また,金属表面に汚れが付着している場合もさびの原因となるため,防錆包装を行う前に金属が清浄であることはとても重要である。これは気化性防錆フィルムのみならず,すべての防錆剤(防錆油,防錆紙等)を使用する際に重要な点である。

気化性防錆フィルムの開発と適用

気化性防錆フィルムの技術を応用した,新たな製品の開発も行われている。従来の気化性防錆フィルムを適用することができなかった環境でも防錆効果が得られるような製品や,より効果的にさびを防ぐような製品が開発されている。

ゼラストフランジセーバー

石油,ガス,化学プラントの配管に使用されているフランジ(継ぎ手)や溶接部等は腐食を生じ易く,また腐食が起こると非常に危険な事態にもなりかねないため,そのメンテナンスには多額の費用がかかる。そこで開発されたのが『ゼラストフランジセーバー』である。ゼラストフランジセーバーは,フランジや溶接部を特殊な防錆カバーで覆うことにより,フランジなどを効率よく,かつ経済的にさびから守ることを可能にする。

フランジセーバーは海外の洋上プラットフォームではすでに多くの使用実績があり,優れた防錆効果が認められている。

ゼラストフランジセーバーでフランジを包装した様子
図7 ゼラストフランジセーバーでフランジを包装した様子

変色防止フィルム

変色防止フィルムは非鉄用の防錆フィルムに,亜硫酸ガスや硫化水素,塩素ガス等の腐食性ガスを吸着させる機能を付加した気化性防錆フィルムである。銅や銀は硫黄を含むガスに触れると変色してしまう。従来の非鉄用フィルムでは高濃度の腐食性ガス環境下においては,腐食性ガスがフィルムを透過して包装内に侵入し,非鉄用の気化性防錆剤の存在にも関わらず銅や銀が変色してしまうことがあった。そこで,フィルム自体が腐食性ガスを吸着することで,腐食性ガスの包装内への侵入を防ぎ,効率的に防錆剤が機能するようにしたものが変色防止フィルムである。

従来の非鉄用フィルムで包装した真鍮部品(左),変色防止フィルムで包装したもの(右)-試験結果
図8 試験結果

従来の非鉄用フィルムで包装した真鍮部品(左),
変色防止フィルムで包装したもの(右)
温度:50℃,湿度:100% 腐食性ガス環境下

気化性防錆フィルムの規格

気化性防錆フィルムは比較的新しい防錆製品であるため,現在該当するJIS規格は存在しない。海外ではMIL規格(米軍規格)を基に作られたNACE international(National Association of Corrosion Engineers)の気化性防錆剤(剤・紙・フィルム)の規格があるが,業界規格であり国の規格ではない。気化性防錆フィルムの品質を保ち,より多くの人々に使用してもらうため,また,現ユーザーから気化性防錆フィルムのJIS規格化の要望もあり,現在,気化性防錆フィルムのJIS規格化に向け,一般社団法人日本防錆技術協会を通じ,他の気化性防錆材メーカーとともに規格化に向けた活動を行っている。


○ケミック
http://www.chemicool.co.jp


○コスモ石油ルブリカンツ
https://www.cosmo-lube.co.jp/


○佐藤特殊製油
http://www.satooil.co.jp


○イチネンケミカルズ
http://www.ichinen-chem.co.jp/


○田中インポートグループ
http://www.semi-drycut.com


○中央油化
http://www.chuo-yuka.co.jp/


○中京化成工業
http://www.c-k-k.co.jp/


○日本グリース
http://www.nippon-grease.co.jp/


○日本ホートン
http://www.houghton.co.jp/


○ネオス
http://www.neos.co.jp


○日本パーカライジング
https://www.parker.co.jp/


最終更新日:2019年6月13日