酸化とは | 酸化防止剤の作用メカニズム | ジュンツウネット21

酸化防止剤はどのようにして酸化を防ぐのですか,そのメカニズムについて分りやすく説明して下さい。

解説します。

1. 酸化とは?

近年流通革命がおき,いろいろな品物がいろいろな形で多方面へ出まわっていき,かつ便利に使われるようになりました。この理由の一つは,商品の保存方法(加工方法も含む)が進歩したからだと思います。

たとえば真空パック法,冷蔵(凍)法,乾燥法などが開発されたおかげでしょう。しかし,それだけではないのです。健康食品つまり無添加物は望ましい姿ですが,保存という面からは難しい問題なのです。内容物の表示義務が保健衛生上の理由も加わり,実施されていますが,「酸化防止剤含有」「○日以内に食べること」「防腐剤含有」などという文字がよく見られます。また「乾燥剤(乾燥確認薬品同封)」が封入され,「窒素封入済」との表示もまま見られます。昔から保存食と考えられてきた佃煮など味の濃い商品でさえも,これらの処置が施こされている場合が多い。

これらはいずれも空気中の酸素による悪影響,いわゆる酸化(腐敗ともいわれる)をできるだけ完全に防ぐための方策です。すなわち雰囲気中に酸素が存在すれば,多かれ少なかれ酸化を受けざるをえません。

衣類,美術品などの色彩があせたり,建築物,鉄橋などの金属製造物がさびるのもやはり酸化の影響です。

ご質問の炭化水素製品(燃料および動植物油脂,グリースを含む潤滑剤)も通常空気中で使われ,時には水分,熱などをともなって使われるので,いっそうこの酸化作用が促進され,酸性物質,着色物質の生成,特異臭の発生,スラッジ類の生成,さび・腐食の発生助長などをひきおこします。

また自然現象として好ましい循環作用を行っている有機,無機廃棄物,落葉などの朽ちはて作用,自然還元作用など生態系維持作用も主としてこの酸化によっているわけで,あながち悪いことともいえないわけです。したがって人間にとって都合のよい必要な場合に,全体のバランスを考えながら対応していかなければならない,難しい問題の一部であることを頭に入れておく必要があります。

では,以後炭化水素系製品にしぼり話を進めましょう。

2. 酸化を防ぐメカニズム

口でいうのは簡単ですが,原因究明は複雑で難しく簡単ではありません。
 炭化水素は酸素が存在すると,熱,光,触媒の作用により,まず分子中のもっとも結合力の弱い炭素・水素結合が切れ水素がはなれ,遊離基(活性の強い点)ができる。これらが連鎖的にひろがり劣化がすすむ。遊離基連鎖停止剤(フリーラジカルインヒビタ)と呼ばれるフェノール,アミン類の化合物と反応し,不活性化することにより酸化反応は停止します。

フェノール,アミン系酸化剤から生じる遊離基は基油(R-Hで表す)と反応できるほど活性であってはならず,また安定すぎて過酸化遊離基(ROO)とも容易に反応しないようなものでは困る。適度な反応性をもつものとして,芳香族環を含んでいる化合物に適当なものが多い。また,いおうを含む酸化防止剤が古くから多く知られており,チオりん酸亜鉛などがあるが,必ずしも分子中に芳香族環を含んでおらず,酸化の過程でできてくるハイドロパーオキサイド〔ROOH(過酸化物の一種)〕の分解を加速します。また,分解生成物が通常の触媒によるものとまったくことなります。

このように,いおう化合物は遊離基連鎖停止剤とは性格をことにし,とくにハイドロパーオキサイド分解を加速する点で大きい特長をもつので過酸化分解剤(パーオキサイドデコンポーザ)として分類され,セレン化合物もこれに属します。この過酸化物分解剤の防止機構は,遊離基連鎖停止剤のようにROO遊離基と反応して酸化反応連鎖をたちきるものではなく,中間体として生じたハイドロパーオキサイドを分解し,安定化することにあるといわれています。しかしこの反応には諸説が多く決め手を欠いています。

3. 酸化を防ぐには

酸化を促進する要因を除けば,たとえ完全に酸化を防止することができなくても,かなり遅らせることができます。
これらの要因を列記すると,

(1)空気とできるだけ触れないようにかくはんを避け,表面積を小さくする工夫を設計面ですればよい。

(2)温度をできるだけ低く保つようにし,反応をおくらせる。局部過熱をなくし熱源を遮へいして,外側の空気の流通をよくしたり,クーラーを使ったりして冷却をはかり,適正潤滑剤の利用による機械部分の摩擦による発熱を防止する。

(3)金属,とくに新しい金属粉,表面などと触れることを制限し,触媒作用による酸化を遅らせる。適切な材料を使用したり適切な内面処理をしたりするとともに,フィルタを完備しゴミを除去するのは,酸化劣化速度を大幅にダウンする有効手段である。

(4)水分の混入も酸化を促進する一因となることが多いので防ぐ。(タンクの場合,始動直前にドレン切りを随時行う。水を分離しやすい構造とする。)

(5)酸化劣化しはじめの生成物を系外へ除き,以降の酸化反応の促進作用をおさえる。(フィルタの有効利用)

(6)定期的油品質チェックにより,劣化生成物の量,質を把握し,注意を払う。たとえば酸化のきざしとして着色する,臭が変わる,全酸価(TAN)が増加する。pHが下がるなどが認められる。

(7)より積極的に対処するため添加剤を使用する。種類としては主目的により,酸化防止剤(天然に流体中に存在しているものと,人工的に合成したものがある)金属不活性剤,さび止め剤(腐食防止剤),防腐剤(おもに食品の場合)などが考えられる。

まず,金属不活性剤,さび止め剤などは,間接的というか,金属の表面をある物質で覆うことにより反応しにくくまたは触媒作用がおこらないようにし,一部は有機金属塩類(とくに銅の化合物)の形で溶解しており貯蔵,輸送などの間にも作用するので無害な化合物にかえ,金属および流体の酸化を防ぎます。

炭化水素の酸化していく過程で生じる生成物が,金属に対して有害な作用をしたり,さらには粘度上昇,スラッジ,ワニスの生成などにより十分な潤滑機能を失ってしまいます。ところが,酸化防止剤をわずか0.1~1.0%程度加えることにより,たとえばタービン油の酸化試験で数百時間以下のものを数千時間もつものに変えることができます。

酸化の程度は一定温度で一定時間,または一定の酸素吸収量に達するまでに生成した酸化物量を比較し示す場合もありますが,一定時間ごとに生成物(または代りになりうる物)を測定するか,酸素吸収量を時間とともに記録した方が,より正しく評価できます。

しかし,酸素吸収速度が遅くともスラッジが次第に生成する場合もあり,また,スラッジが発生しなくても酸化物質が生成していたり,一方的見方のみで現象を説明することは難しい。

4. 防止効果のタイプ

防止効果のタイプの例〔阻止作用(Inhibition)と抑制作用(Retardation)〕を参考までにあげておきます(図1)。これは防止の作用,仕方がことなるためにおこると思われます。ただし,この抑制作用は基油の組成が関係していることが多い。

酸化防止効果のタイプの例
P‐S,PANは酸化防止剤の種類を表している。縦軸に酸素の吸収量(化合量)をとっているので,上へ行くにしたがい,酸化が進んだことを意味すると考えられる。
添加剤の濃度が大きくなれば防止効果も相対的に大きくなっているが,限度(場合によっては最適濃度)が存在するので注意する必要がある。
P・S:過酸化物(パーオキサイド)分解剤の例で図の傾斜の勾配をゆるやかに保つ効果(retardation)がある。
PAN:遊離基(フリーラジカル)連鎖停止剤の例で,阻止作用(inhibition)を示す。すなわち酸化速度の非常におそい誘導期間を示す。
図1 酸化防止効果のタイプの例

また,有効温度についても明確な報告は少なく,実用例は報告されていますが,化合物の構造によりある程度の傾向は認められます。

使う立場からいえば,その基油,適用分野,条件を考え,これら二種類のタイプの適当な酸化防止剤を組み合わせ利用するのが望ましいことです。

ただ気をつけねばならないのは,阻止作用はある時突然効力を失うので,日頃の監視が重要になることです。

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最終更新日:2021年11月5日