極圧添加剤とは | ジュンツウネット21

潤滑油に配合される極圧添加剤の種類や作用機構について解説します。境界潤滑の状態で摩擦や摩耗を減少させる働きをするのが,油性剤,摩耗防止剤,極圧添加剤です。これらの3種の添加剤の分類は必ずしも厳密なものではないですが,3種をまとめて,耐荷重添加剤と呼ぶのが適切です。

極圧添加剤とは※

潤滑油に配合される極圧添加剤とは何でしょうか。そして,極圧とは何を意味するのでしょうか。極圧添加剤の種類や作用機構を教えて下さい。また,摩耗防止剤ということばを聞いたこともありますが,極圧添加剤とは違うのですか。
解説します。

極圧添加剤は,金属の二面の間の摩擦,摩耗の減少や,焼付の防止のために潤滑油に加えられる添加剤です。極圧という言葉は,単独で使われることはあまりありませんが,極圧性,極圧潤滑,極圧ギヤ油などという言葉で形容詞として使われ,摩擦面の接触圧力が高く,油膜の破断が起こりやすい潤滑状態を表します。

潤滑油の重要な役割は,機械の摩擦面の間に油膜を作って金属同士の接触を減らし,摩擦や摩耗を減らすことです。二面の間に厚い油膜があれば,金属同士が接触することがなく,潤滑油で完全にへだてられて,摩擦抵抗は潤滑油の粘度だけで決まります。

このような状態は,接触部分の圧力が比較的低く,すべり速度が高い場合で,流体潤滑と呼ばれ,摩耗や焼付が起こりません。流体潤滑はベヤリングの潤滑の場合に近いのですが,ギヤ,とくにハイポイドギヤの潤滑の場合のように,潤滑条件が過酷で,接触部分の圧力が高い場合や,すべり速度が小さかったり,油の粘度が低すぎる場合は,摩擦面の間の潤滑油の膜がうすくなり,金属面の凸部同士が接触し,摩擦抵抗は大きくなり摩耗が起こります。この状態を境界潤滑と呼び,極端な場合には焼付が起こります。

このような境界潤滑の状態で摩擦や摩耗を減少させる働きをするのが,油性剤,摩耗防止剤,極圧添加剤です。これらの3種の添加剤の分類は必ずしも厳密なものではなく,油性剤や摩耗防止剤を極圧添加剤の一部として考えることもありますが,油性剤,摩耗防止剤,極圧添加剤をまとめて,耐荷重添加剤と呼ぶのが適切です。

油性剤は,金属表面に吸着して吸着膜を作り,この吸着膜が境界潤滑状態にある金属と金属の直接の接触を妨げ,摩擦,摩耗を減少させる働きをしますが,比較的摩擦面の温度,圧力が低い場合の摩擦,摩耗防止に効果があります。

油性剤としては,金属表面に対して吸着力の大きい高級脂肪酸,高級アルコールおよびアミン,エステル,金属せっけんなどが使われます。油性剤は一般に,直鎖の長い炭化水素の末端に,カルボキシル基,水酸基,アミンのような極性基が結合している有機化合物で,この極性基が金属表面に吸着して油性剤分子の膜ができます。油性剤は圧延油や摺動面潤滑油などに使われます。

油性剤より厳しい荷重の条件下での摩耗防止に効果のあるのが摩耗防止剤で,一般にリン酸エステル,亜リン酸エステル,チオリン酸塩がよく使われます。

前二者の代表的なものが,トリクレジルホスフェート(TCP)で,金属表面に吸着し,分解してリン酸塩の被膜を形成し,摩耗防止に役立ちます。

後者の代表的なものが,ジアルキルジオリン酸亜鉛(ZDTP)で,金属接触面での温度,圧力の影響で分解して,金属とリン,硫黄を含む化合物を作り,この被膜が接触面の摩耗,融着を防止します。

摩耗防止剤は,タービン油,耐摩耗性作動油などに使用されますが,とくにジアルキルジチオリン酸亜鉛は,酸化防止性能も持っているので,エンジン油にも広く使用されています。

ハイポイドギヤ油,切削油などに見られるような境界潤滑状態のもっとも厳しい条件の高荷重の状態の接触面では,摩擦面は温度が非常に高くなり,油性剤による吸着膜は,脱着して効果がなくなりますが,極圧添加剤は硫黄,塩素,リンなどを含む化学的に活性な物質なので,金属面と反応して硫黄,塩素,リンなどを含む化合物を作り,せん断力の小さい被膜となって摩耗,焼付,融着を防止します。

極圧という名前からは,高い圧力だけで作用するように誤解されますが,高荷重の接触面では必ず高温を伴っていて,この高い温度が極圧添加剤を反応させる引き金になります。極圧添加剤は,常温や比較的低い温度では安定で,融着が起こるような高い温度になる前の少し低い温度で活性になって金属と反応し,しかも反応速度が大きいものが適しています。

この作用は一種の腐食作用ですから,極圧添加剤は金属接触部だけに限定して反応するものでなければなりません。極圧剤としては,一般に硫黄,塩素,リンなどを含んでいる物質で,硫化油脂,硫化エステル,サルファイド,塩素化炭化水素などのほか,ナフテン酸鉛や,同一分子内に硫黄,リン,塩素の中の二つ以上の元素を含む化合物も使用されます。これらの極圧添加剤は,自動車用工業用ギヤ油,金属加工油などに使われます。

油性剤,摩耗防止剤,極圧添加剤は,数多くの物質が使われていますが,その代表的なものは次のようなものです。これらの添加剤は単独で使用されるだけでなく,組み合わせて使用されると,より大きな耐荷重性能が得られる場合があります。

油性剤

1.高級脂肪酸

 オレイン酸
 ステアリン酸
 パルミチン酸

2.高級アルコール

 オレイルアルコール
 ラウリルアルコール
 セチルアルコール

3.アミン

 セチルアミン
 オクタデシルアミン

4.エステル

 オレイン酸エチル
 ステアリン酸ブチル
 ソルビタンモノステアレート

5.金属せっけん

 オレイン酸鉄
 オレイン酸鉛

摩耗防止剤

1.リン酸エステル

 トリクレジルホスフェート(TCP)
 ラウリルアシッドホスフェート

2.亜リン酸エステル

 トリブチルホスファイト
 ジラウリルホスファイト

3.チオリン酸塩

 ジアルキルジチオリン酸亜鉛
 ジアリルジチオリン酸亜鉛

4.その他

 リン酸エステルのアミン塩
 ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛

極圧添加剤

1.硫化油脂

 硫化スパーム油

2.硫化エステル

 硫化脂肪エステル

3.サルファイド

 ジベンジルジサルファイド
 アルキルポリサルファイド
 オレフィンポリサルファイド
 ザンチックサルファイド

4.塩素化合物

 塩素化パラフィン
 メチルトリクロロステアレート

5.その他

 ナフテン酸鉛
 アルキルチオリン酸アミン
 クロロアルキルザンテート

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最終更新日:2021年11月5日