はじめに
近年,製造現場では,設備の高経年化やスキル保持者の大量退職など問題が山積し,設備メンテナンスの重要性が高まってきている。とくに設備機械のトラブルには潤滑不良が係わっていることが多く,潤滑管理,とりわけ給油・給脂の管理はメンテナンスの重要な項目の1つとして考えられており,潤滑個所に適量を適切な間隔で給油することが非常に重要である。
そこで本稿では,給油・給脂の方法と,機械システムの運転条件における給油・給脂装置の選定基準について述べる。
1. 油潤滑とグリース潤滑
潤滑方法の選定の第1段階は,油潤滑にするかグリース潤滑にするか,つまり給油法を採用するのか給脂法を採用するのか,の選択となる。油潤滑とグリース潤滑の特徴の対比を表1に示す。
表1 油潤滑とグリース潤滑の対比
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2. 給油法の種類と特徴
給油法は,少量の潤滑油を摩擦面に供給し,供給した油が回収されない「全損式」と,摩擦面に供給された潤滑油を回収して繰り返し使用する「反復式(循環式)」に大別され,それぞれ用途に応じて使い分けられている。給油方法の種類と特徴を表2に示す。
表2 給油方法の種類と特徴
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2.1 全損式給油法
全損式の給油法には,手差し給油,滴下給油,機力給油,集中給油,噴霧給油,オイルエア給油がある。
(1)手差し給油
潤滑油を油差しで給油する方法。低速,低荷重の間欠運転設備や家庭用ミシン,チェーンなどに使用される。
初期投資が少なく,給油作業中に潤滑個所を点検できるメリットがある反面,頻繁に給油しなければならないため給油忘れやゴミの侵入による汚染のリスクがある。また,人手がかかり,運転中に給油できない場合も多い。
(2)滴下給油
潤滑油を滴下給油器によって給油する方法。滴下給油器には,可視滴下給油器や振動ビン型給油器,灯心給油器があり,低速,低・中荷重の小型機械の軸受,歯車,チェーンに使用される。
手差し給油に比べて人手が省け信頼性も高いが,温度の変化や油量の減少にともなって給油量が変化するため,油面レベルに注意する必要がある。機器の構造上,滴下しにくい高粘度油には適さない。
(3)機力給油
機械本体の回転軸またはモーターによって駆動する偏心カムによりピストンを作動させピストンのストローク分を給油する方法。エンジンや圧縮機シリンダー,真空ポンプ,プレスの軸受,摺動面の潤滑に使用される。
高圧で適量を正確に給油できるが,大量の給油はできない。数十個所の集中給油が可能。
(4)集中給油
給油ポンプにより,多数の潤滑個所に適時適量の潤滑油剤を給油する方法。潤滑油の給油とグリースの給脂の両方に使用され,とくにグリースの給脂に使用される。
給油の集中化,自動化が図れる。流量,圧力調整が重要となる。
(5)噴霧給油
潤滑油を清浄な圧縮空気でミスト化し,空気とともに配管を通して潤滑個所に供給する給油方法。工作機械の高速スピンドル,高速回転ポンプ,圧延機ロールネック用軸受などの潤滑に使用される。
潤滑油が少量のため攪拌抵抗が少ない,軸受部分から漏洩する油量が少なく設備や製品への汚染が少ない,常に新しい潤滑油を供給でき,軸受寿命を延長できるなどのメリットがある。
(6)オイルエア給油
ポンプとミキシングバルブを組み合わせて,微量の潤滑油を圧縮空気とともに配管を通して給油する方法。工作機械用精密軸受,高速スピンドルなどに使用される。
2.2 反復式(循環式)給油法
循環式の給油法には,油浴給油,飛沫給油,リング・ディスク・チェーン給油,パッド給油,強制循環給油がある。
(1)油浴給油
軸受,歯車部分を潤滑油に浸して運転させる給油法。小・中型の小・中速の減速機や転がり軸受に使用される。
油面の変動により給油量や冷却効果に与える影響が大きい。油面レベルと温度の保守管理が重要である。
(2)飛沫給油
エンジンのクランクや歯車の回転部分によってはね上げられた油の飛沫により油面から離れたピストンやシリンダー,軸受や摺動部に給油する方法。小・中型の減速機,小型往復動圧縮機,内燃機関で使用される。
多少の冷却効果があるが,低速,高速には適さない。
(3)リング・ディスク・チェーン給油
軸にかけたオイルリング,チェーン,軸に設定したディスクの回転により油をかき上げて給油する方法。中速,低・中・高速荷重,電動機,ポンプ軸受に使用される。
冷却効果は中程度期待できる。低速回転や高粘度油では潤滑不良となり,たて軸のものには使用できない。
(4)パッド給油
油中に浸漬され毛細管現象により油を吸い込んだパッドを直接潤滑面に塗布する給油方法。低・中荷重の軸受,鉄道車両の軸受,クレーン車軸の軸受,ドラム軸受に使用される。
パッドがろ材としての役目を果たし,常にきれいな潤滑油を供給できるが,ごみなどによる目詰まりに注意が必要。
(5)強制循環給油
油タンク,ポンプ,ろ過器冷却器,配管系をもつ強制循環方式による給油法。内燃機関,高速・高温・高荷重の設備機械に使用される。給油量,給油温度,給油圧力の調整がきめ細かくでき,多数の潤滑個所に適時適正に供給することができる。冷却効果も大きい。
強制循環給油装置は給油法として優れた機能を有していることから,蒸気タービン軸受,圧延機の軸受,製紙機械の軸受,減速機,内燃機関など多くの機械に使用されている。
2.3 給油法の選定
運転条件による給油法の選定基準を表3に示す。給油法の選定の際は,機械システムの条件として使用温度,回転数(駆動部速度),雰囲気が重要な選定要素となる。
表3 運転条件による給油方法の選定基準
*最も望ましい給油法 |
3. グリース給脂法の種類と特徴
グリースは,少量で長時間補給せずに潤滑させることができ,取り扱いも容易で,密封効果も高いことから,軸受や摺動面に広く使用されている。グリース潤滑の給脂方式の種類と特徴を表4に示す。
表4 給脂方法の種類と特徴
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3.1 非補給式
(1)グリース密封
転がり軸受の両端にゴム製シールまたは金属製シールド板を設置して密封空間にグリースを詰め込むタイプの給脂法である。
3.2 補給式(全損式)
(1)充填給脂
転がり軸受の摩擦面にグリースを直接充填する方法。手詰め給脂と比較して省力化,信頼性が高い。油量調整が可能。温度,油面高さにより給油量が変化する。
(2)手詰め給脂
すべり軸受の上部のグリースだめに手でグリースを詰め,グリースが自重によって給脂される方法。グリースは常に容量の1/2以上詰めておく。防塵が必用で,適宜給脂する必要がある。
(3)グリースカップ
グリース給油器の一種で,ねじ込み式,ハンドル式,スプリング式等があり,グリースに圧力をかけて軸受に圧入する。
○シングルポイント給脂器
ガス圧式の自動給脂装置。化学反応を利用し,その発生したガス圧で120mLのグリースを最長1年間連続給脂できる給脂器である。
グリースの圧入に,バネやモータ駆動のポンプでグリースを給脂するタイプもある。
(4)グリースガン
潤滑個所の給脂口に装着されているグリースニップルにグリースガンの口を密着させてグリースを圧入する給脂法。圧入方法には,手動,電動,エア等がある。工作機械,建設機械,車両,エレベータ等のメンテナンスに使用される。
(5)機力給脂
各給脂個所単位にグリースポンプを持ち,分配弁を介さずに直接給脂する方法。配管は長くなるが,信頼性は高い。定期的な点検が必要となる。
(6)集中給脂
1台のポンプで多数の潤滑個所に分配弁を通して一定量のグリースを供給する給脂方法である。設備費が高く,保全費も必要となるなどコストが高くなるが,信頼性は非常に高い。定期的な点検が必要となる。
3.3 集中給油・給脂装置
潤滑ポンプ・分配弁・配管材・継手から構成され,潤滑ポンプから圧送された潤滑剤で分配弁を作動させ,一定量の潤滑剤を複数の潤滑個所に適時適量を正確に給油・給脂できる装置である。前記したように,とくにグリースの給脂に使用される。
集中給油・給脂装置を導入することにより,製品の品質向上,機械部品の寿命延長,設備機械の稼働率の向上,作業者の危険防止,潤滑メンテナンスの工数削減,工場の保守管理に役立つ,などのメリットがある。
なお,集中給脂装置には,手動式の給脂装置と自動給脂装置がある。手差しの場合,一度に多量のグリースを充填し,長時間同じグリースを使用するため性能やシール効果が低下してしまう。また,給脂忘れによる摩耗の促進などの危険がつきまとう。それに対して自動給脂では,決められた時間ごとに一定量のグリースを機械稼動中にまめに給脂でき,常に新しいグリースを給脂できる。
以上,本稿では給油・給脂を方法別にご紹介した。給油・給脂装置については,「潤滑経済」2010年6月号(No.538)の各論をご参照いただきたい。
〈参考文献〉
似内 昭夫:月刊 潤滑経済,2007年9月号(No.502),p2-7