主要設備の減速機の歯車潤滑に油浴式が採用されております。最近歯車の摩耗が目立つようになりました。歯車は予備品と取り替えることにしておりますが,どうも油浴式の潤滑が気になります。どのように考えたらよいですか。
解説します。
まず,設備の使われ方に変化があったのか,初期の仕様と現在の稼動条件を比較してみてください。
次に油浴方式による潤滑についておさらいしてみます。
油浴式の潤滑はどちらかといえば中・小形の歯車装置に適用されます。特殊な例ではきわめて低速の開放歯車でオイルパンに入れた潤滑油に歯車の歯末部分を浸して運転する方法もあります。
密閉式歯車装置では図1のように歯車の歯末部分が運転中は潤滑油に浸され,歯車の回転で付着した潤滑油を遠心力で飛まつとして,歯車以外で潤滑油を必要としている軸受けなど各部へ供給できるように工夫し,それらに適切な油量を歯車箱の内部へ蓄える方式を油浴方式といいます。
図1 油浴方式の例 |
歯車装置は稼動すると必ず発熱します。そのまま潤滑油の温度を上昇させてしまうと,潤滑油の粘度が下がり,潤滑剤としての力がなくなります。したがって,油浴式の潤滑は発熱量が比較的小さく,十分それに見合う大気冷却の放熱面積を密閉表面に持つ歯車装置に適用されます。
発熱量が大きく,油浴方式による熱の放散が不十分であれば,強制的に熱を外部に取り出す対策を立てねばなりません。
この対策としては,(1)歯車箱内部に冷却配管を設置し,冷却水により熱を取り出す,(2)高速軸端に回転翼(羽)を取り付けて強制通風して冷却する などが考えられます。
しかし,油浴方式の潤滑で問題になるのは,歯車の運転速度です。歯車の周速が増すと遠心力で潤滑油が必要以上に飛ばされるため,かみ合い歯面の油膜形成ができなくなります。さらに,歯車が潤滑油を撹拌する抵抗が動力損失を増します。歯車の周速を3~13m/secとしているのはこのためです。ここで最低を3m/secとしているのは,潤滑油を軸受けに供給するために,歯車から飛び散らせるのに必要な速さです。
歯車周速は次の式で計算します。
v=d×π×N×1/60
ここで,
v:歯車周速
d:ピッチ円直径
N:歯車軸の回転数
もうひとつ大切なことは運転中の油面です。油浴方式の潤滑の場合は大歯車の歯は必ず油中に浸ることになっております。しかし,運転を始めると歯車による掻き揚げや回転方向への掻き寄せなどで湯面が下がります。さらに歯車に付着した潤滑油が遠心力でとばされて歯車箱の内壁などに付着して戻ってくるのに時間がかかるなどで,見かけ上の油面低下現象が起こります。したがって,運転中の油面は実際に目で見て確認することです。
以上の原則を踏まえて,適切な油浴方式の潤滑であるか調査してください。もしこの原則を守ることが不可能な環境であれば,循環給油など強制的に潤滑する方式に変更してください。