金属イオンと殺菌作用 | ジュンツウネット21

銅イオン殺菌について解説します。銅イオン殺菌はランニングコストもわずかで,廃液の縮減による産廃処理費用や,全量入替えの人件費を大幅に縮減することができます。また,人体に有害な臭い,アミン系の殺菌剤も必要なく,機械工場特有の悪臭もなくなり,作業環境も大幅に改善できるものです。

金属イオンと殺菌作用

梅雨になると切削液タンクの腐敗した切削液から悪臭を発します。防腐剤の投入や浮上油の除去などいろいろありますが,銅イオンを使用することで殺菌できるそうですが,具体的にご教示下さい。
解説します。

日本は梅雨から夏にかけて高温多湿な日々が続きます。このような環境の下では,細菌類にとって理想的な繁殖条件と言えます。水溶性切削液のタンク,空調冷却水系,園芸ハウスなどは適当な栄養源があるためまさに絶好の繁殖場所と考えられます。そこで,各種殺菌方法となぜ銅イオンに至ったのか説明します。

1. 各種殺菌方法のトライ

(1)防腐剤(抗菌剤)の投入

殺菌はできるが持続せず,薬剤のアミン臭が新たな悪臭になり,アミン系薬剤の人体への影響も心配。

(2)浮上潤滑油の除去

撥水加工した杉皮の油吸着材まで開発し,浮上油を完全に除去したが,腐敗防止にはならなかった。

(3)エアレーション

冬季には多少効果があったが,梅雨時の腐敗防止には無理であった。

(4)土壌バクテリアの添加

消臭効果があったが,何世代か繁殖後に死滅し,そのタイミングを把握するのが困難で,コストも1Lで数万円と非常に高かった。

(5)低温殺菌

腐敗した切削液を0℃以下に保持すると,好気性菌は生存していたが,硫酸塩還元菌は死滅した。殺菌には有効であったが,設備費があまりにも高く実用化は断念した。

このようにいろいろ試みましたが,やってみると意外に難しく,満足する結果は得られませんでした。

2. 銅イオン殺菌に至る経緯

昔から重金属イオンによる殺菌作用は知られています。これに注目し,銅や銅合金を加工している工作機械では切削液が全く腐敗しないことを知り,某伸銅メーカーの工場を見学したところ,はじめは白っぽいエマルションが長い間使用すると銅イオンにより青い色になるが交換はしていないとのことでした。

このエマルションを分析したところ銅イオンが150ppm以上も含まれていました。

この事実をもとに,ドラム罐内の水溶性切削液に電気分解で銅イオンを発生させる装置を設置し,長期間テストした結果,殺菌できるうえカビにもかなり有効なことが確認されました。

銅以外の金属,例えば銀や水銀,クロームなどのイオンでも当然殺菌できますが,人体に対する安全性の点で銅以外は非常に危険で使用できないのです。銅イオンは,1985(昭和60)年に文部省「環境科学」特別研究人体影響班によるサルでの長期実験で安全性が確認されているうえ,銅製品製造工場では銅イオンによる職業病が発生したことがないことも確認されています。

3. 細菌数および金属イオン殺菌効果

任意の場所,状況での銅イオン発生装置を用いて行った殺菌効果を表1に示します。

これまでのテストで分析を実施した結果によると,一般細菌,嫌気性菌やカビを全滅させることも硫酸還元菌のみを選択的に全滅させることも可能だということがわかります。

硫酸還元菌を減少させると他の菌が多くても悪臭は消えます。水溶性切削油の銘柄,希釈濃度,水の質,微生物の種類と数など各社各様ではありますが,腐敗臭を消すことのみが目的であれば銅イオン濃度で15~20ppm程度のもので可能です。

表1
例1
日時:1992(平成4)年10月
実施場所:A社T工場ターニング盤
対象液:水溶性切削液(タンク容量:400L)
 ソリュブルタイプ希釈倍率:30倍

処理時間
0
24
48
一般細菌数(生菌数) 個/mL
1.5×108
1.4×107
1.3×107
嫌気性培養菌数 個/mL
6.8×105
4.2×104
6.2×103
カビ数 個/mL
1.1×102
1.0×102
90
硫酸塩還元菌最確数 個/100mL
2.3×107
4.3×104
<30
腐敗臭
なし
なし
例2
日時:1994(平成6)年6月
納入場所:B自動車会社K製作所 塗装湿式ブース
対象液:カーテン水

銅イオン濃度(ppm)
0
10
30
50
総菌数(個/mL)
8×106
2×106
8×105
3×104
硫酸塩還元菌数
中度汚染
軽度汚染
未検出
未検出
腐敗臭
なし
なし
例3
日時:1994(平成6)年6月~9月
納入場所:C自動車会社N製作所専用機 5台連結ライン
対象液:水溶性切削油(タンク容量:3,000L)
  エマルションタイプ希釈倍率:30~50倍

サンプリング日時
6月23日(処理前)
7月21日
8月25日
50
総菌数(個/mL)
1×108
4×106
未検出
未検出
硫酸塩還元菌数
高度汚染
未検出
未検出
未検出
腐敗臭
なし
なし
なし
例4
日時:1994(平成6)年10月
実施場所:Dプレス会社U工場4,000tプレス
対象液:水溶性加工油(タンク容量:300L)
 エマルションタイプ希釈倍率:30~40倍

処理時間
0
20
40
総菌数(個/mL)
8×107
2×106
3×105
硫酸塩還元菌数
高度汚染
未検出
未検出
腐敗臭
なし
なし
例5
日時:1993(平成5)年12月
実験場所:E動物中央研究所微生物モニタリングセンター
対象液:レジオネラ菌を含む蒸留水菌種:Legionella pneumophila

 
低濃度菌液群
高濃度菌液群
銅イオン濃度(ppm)
150
100
50
150
100
50
処理前菌数(個/mL)
2.2×105
4.3×105
6.5×105
3.8×107
7.5×107
1.1×108
24時間後菌数(個/mL)
<102
<102
<102
<102
<102
2.0×102
48時間後菌数(個/mL)
<102
<102
<102
<102
<102
<102

4. まとめ

銅イオン殺菌はランニングコストもわずかで,廃液の縮減による産廃処理費用や,普通は休日に行われる全量入替えの割増し人件費を大幅に縮減することができます。当然,水溶性切削液原液の大幅な縮減にもつながり,コストダウンになります。

銅イオン殺菌では,人体に有害な臭い,アミン系の殺菌剤も必要なく,機械工場特有の悪臭もなくなり,作業環境も大幅に改善できるものです。

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

アーステック



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最終更新日:2021年11月5日