潤滑油は基油(ベースオイル)と様々な機能を持つ添加剤から成り立っている。機械や自動車の発展に伴い,酸化安定性や摩耗防止性など,潤滑油への要求を満たすためには様々な潤滑油添加剤が開発・配合されています。潤滑油添加剤の種類と用途を解説し、各潤滑油添加剤の一般的用途について紹介します。
1. 潤滑油添加剤の種類と用途
表1に潤滑油添加剤の種類と機能を,表2に潤滑油添加剤の一般的用途を示す。表1にある単品の添加剤をコンポーネント添加剤,あるいはコンポーネントと呼び,複数のコンポーネントを配合した製品をパッケージ添加剤,あるいはパッケージと呼ぶ。
種類 | 使用目的と機能 | 代表的な化合物 | 添加量% |
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清浄分散剤 | 清浄剤 | エンジンなどの高温運転で生成する有害なスラッジを金属表面から取り除き,スラッジ・プリカーサーを化学的に中和し,エンジン内部を清浄にする。 | 有機酸金属塩化合物 ○中性,過塩基性金属(Ba,Ca,Mg)スルホネート ○過塩基性金属(Ba,Ca,Mg)フェネート ○過塩基性金属(Ca,Mg)サリシレート | 2~10 |
分散剤 | 低温時でのスラッジ,すすを油中に分散させる。 | コハク酸イミド コハク酸エステル ベンジルアミン(マンニッヒ化合物) |
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酸化防止剤 | 遊離基,過酸化物と反応して安定な物質に変えることにより,油の酸化を防止し,油の酸化に起因するワニス,スラッジの生成を抑制する。 | ○ジチオリン酸亜鉛,有機硫黄化合物 ○ヒンダードフェノール,芳香族アミン ○N,N'-ジサリシリデン-1,2-ジアミノプロパン | 0.1~1 |
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耐荷重添加剤 | 油性向上剤(油性剤) | 低荷重下における摩擦面に油膜を形成し,摩擦および摩耗を減少させる。 | 長鎖脂肪酸,脂肪酸エステル,高級アルコール,アルキルアミン | 1~2.5 |
摩耗防止剤 | 摩擦面で2次的化合物の保護膜を形成し,摩耗を防止する。 | リン酸エステル ジチオリン酸亜鉛 | 5~10 |
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極圧剤(EP剤) | 極圧潤滑状態における焼付きや,スカッフィングを防止する。 | 有機硫黄,リン化合物 有機ハロゲン化合物 |
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さび止め剤 | 金属表面に保護膜を形成する。あるいは,酸類を中和してさびの発生を防止する。 | カルボン酸,スルホネート,リン酸塩,アルコール,エステル | 0.1~1 |
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腐食防止剤 | 潤滑油の劣化により生じた腐食性酸化生成物を中和する。また,金属表面に腐食防止被膜を形成する。 | 含窒素化合物(ベンゾトリアゾールおよびその誘導体,2,5-ジアルキルメルカプト-1,3,4-チアジアゾール),ジチオリン酸亜鉛 | 0.4~2 |
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金属不活性化剤 | 金属表面が,油の酸化において触媒として作用しないよう,その表面を不活性にする。 | 含窒素化合物 ○ベンゾトリアゾール ○N,N'-ジサリシリデン-1,2-ジアミノプロパン ○2,5-ジアルキルメルカプト-1,3,4-チアジアゾール | ~0.3 |
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粘度指数向上剤 | 温度変化に伴う潤滑油の粘度変化を低減する。エンジン油では,省燃費性の向上,オイル消費の低減,低温始動性の向上が得られる。 | ポリメタクリレート オレフィンコポリマー スチレンオレフィンコポリマー ポリイソブチレン | 2~20 |
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流動点降下剤 | 低温における潤滑油中のろう分の結晶化を防止し,流動点を低下させる。 | ポリメタクリレート アルキル化芳香族化合物 フマレート・醋ビ共重合物 エチレン・醋ビ共重合物 | 0.05~0.5 |
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消泡剤 | 潤滑油の泡立ちを抑制し,生成した泡を破壊する。 | ポリメチルシロキサン,シリケート 有機フッ素化合物,金属石鹸,脂肪酸エステル,リン酸エステル,高級アルコール,ポリアルキレングリコール | 1~1,000ppm |
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乳化剤 | 油を乳化し,生成したエマルションの安定性を保つ。 | 界面活性剤 エチレンオキサイド付加物,エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロックポリマー,エステル,カルボン酸塩,硫酸エステル,スルホン酸塩,リン酸エステル,アミン誘導体,第4級アンモニウム塩 | ~3 |
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抗乳化剤 | エマルションを破壊する。また,潤滑油の乳化を防止する。 | エチレンオキサイド付加物,エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロックポリマー,アルキルフェノール・ホルマリン縮合物のエチレンオキサイド付加物,第4級アンモニウム塩 | ||
かび防止剤 | エマルション中に生存する細菌,かび,酵母などの微生物の増殖を防ぎ,それらに起因する障害を抑制する。 | フェノール化合物 ホルムアルデヒド供与体化合物 サリチリアリニド化合物 | ||
固体潤滑剤 | 耐荷重添加剤に分類されるが,油に不溶であるので,ここに別記する。 ○境界・混合潤滑領域で摩擦を低減する。 ○金属間接触の防止による摩耗を防止。 ○金属面粗さ低減による油膜の維持。 | 二硫化モリブデン,二硫化タングステン,グラファイト(黒鉛),窒化ホウ素,四フッ化エチレンポリマー(PTFE),フッ化グラファイト,フラーレン(C60,C70) |
ガソリンエンジン油 | |||||||||||||||
ディーゼルエンジン油 | |||||||||||||||
ギヤー油(車両用) | |||||||||||||||
自動変速機油 | |||||||||||||||
舶用エンジン油 | |||||||||||||||
作動油 | R&O型 | ||||||||||||||
耐摩耗性 | |||||||||||||||
高粘度指数系 | |||||||||||||||
難燃性作動液 | 水-グリコール系 | ||||||||||||||
HWBP | |||||||||||||||
W/Oエマルション | |||||||||||||||
リン酸エステル | |||||||||||||||
脂肪酸エステル | |||||||||||||||
ギヤー油(工業用) | |||||||||||||||
冷凍機油 | |||||||||||||||
コンプレ ッサー油 | 往復動型 | ||||||||||||||
回転型 | |||||||||||||||
真空ポンプ油 | |||||||||||||||
軸受油 | |||||||||||||||
絶縁油 | |||||||||||||||
タービン油(添加) | |||||||||||||||
しゅう動面油 | |||||||||||||||
ロックドリル油 | |||||||||||||||
金属加工油(切削油剤) | 水溶性切削油 | ||||||||||||||
不水溶性切削油 | |||||||||||||||
塑性加工油 | |||||||||||||||
熱処理油 | |||||||||||||||
グリース | |||||||||||||||
必ず添加されるもの 通常添加されるもの 場合により添加されるもの
1.1 清浄分散剤
清浄分散剤は自動車,建設機械,農業機械,船舶などのエンジン油に広く使用されており,基油に対する配合量が多く,米国や日本では添加剤需要量における比率が50%前後に達すると思われる。
清浄分散剤は多機能型添加剤で,(1)スラッジ分散作用,(2)不安定なスラッジ前駆体(中間生成物)を界面活性作用により可溶化し,スラッジ化を防ぐ可溶化作用,(3)燃料の燃焼生成物,潤滑油の劣化生成物に含まれる酸性物質の中和作用を発揮する。さらに,スルホネートは防錆作用を,またフェネートは酸化防止作用を持っている。
清浄分散剤には金属清浄剤と無灰型分散剤があり,表記する際には合わせて清浄分散剤と呼ぶことが多い。清浄剤と分散剤の主用途はエンジン油である。清浄剤はディーゼルエンジン油では高温のために発生したカーボンデポジットがエンジン内に付着するのを防止し,清浄に保つなどの機能がある。
欧米や日本などの先進国では環境保全の観点から軽油中の硫黄含有量が段階的に限りなくゼロに近づいている。軽油中の硫黄が少なくなればディーゼルエンジン油中の清浄剤の配合量を減らして低灰エンジン油を製造することができるが,分散剤の量を増やして清浄性の低下を補うことが必要となり,最近のディーゼルエンジン油規格では,すすの分散性が規定されていることから分散剤を多用する低灰油へと向かっている。またエンジン油に限らず工業用潤滑油でも使われるケースが増えている。
1.2 酸化防止剤
潤滑油は使用中,あるいは使用前でも保管条件によっては空気中の酸素によって酸化し,アルコール,ケトン類となり,最終的には油に不溶の重縮合物(スラッジ)を生じて,潤滑油の品質を低下させたり,金属疲労や摩耗による機械トラブルを引き起こしたりする。この酸化を抑えるのが酸化防止剤である。
現在実用化されている潤滑油用の酸化防止剤は,(1)連鎖反応停止剤:フェノール系酸化防止剤,アミン系酸化防止剤,(2)過酸化物分解型:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP),有機硫黄系酸化防止剤,(3)金属不活性化剤に分類される。
エンジン油では主として酸化防止剤としてZnDTPが使われてきた。摩耗防止剤,腐食防止剤としても機能する極めて有用な添加剤である。しかし,構成元素の1つであるリンが排ガス後処理装置の触媒を劣化させる(触媒毒になる)マイナス面を持つ。
また,ガソリンエンジン油規格のILSAC GF-4では,リン濃度を0.08mass%以下にするように規定が強化される一方で摩耗防止性のためにリン濃度を0.06mass%以上と規定しており,厳しい目標をクリアするためにZnDTP配合量を半減し,酸化防止性の低下を補うための他の添加剤との組み合わせなどが行われている。
1.3 粘度指数向上剤
粘度指数向上剤(Viscosity Index Improver:VII,Viscosity Modifier)は,温度の変化が潤滑油の粘度に与える影響を少なくする油溶性の高分子物質(ポリマー)で,その分子量は数千~数十万である。
ポリメタクリレート系化合物(PMA)やオレフィンコポリマー系化合物(OCP),あるいはこれらの混合物が代表的である。
1.4 流動点降下剤
潤滑油の流動点を下げて,その適用温度範囲を広げるのが流動点降下剤(Pour Point Depressant:PPD)である。
ポリメタクリレート系VIIは流動点降下の機能も持っている。原油の種類,基油の精製方法によってPPDの効果が異なる。
1.5 耐荷重添加剤
耐荷重添加剤は金属摩擦面を油膜で隔てることができず,金属面が接触する境界潤滑が発生する際に機能するもので,油性向上剤,摩耗防止剤,極圧剤などに分類される。
油性向上剤は油性剤,潤滑性向上剤とも呼ばれ,省燃費タイプの自動車用エンジン油や駆動系潤滑油に使用される摩擦調整剤(Friction Modifier:FM)やモリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)などがある。
摩耗防止剤と極圧剤は,高荷重下あるいは低速度下の境界潤滑領域で油膜と金属表面の酸化保護被膜が破れた時に,金属表面と反応して別の被膜を形成し,摩擦面の直接の接触を妨げて金属面の融着を防止する。極圧剤は金属表面との反応が摩耗防止剤よりも早く,より大きい荷重に耐えることができる。
塩素化パラフィン,塩素化油脂は極圧性に優れることから金属加工油に多く使われてきたが,廃油を焼却するとダイオキシンを発生する可能性があることから,ZnDTPや硫化オレフィンなどへの代替が進んでいる。
1.6 パッケージ
自動車用のエンジン油や自動変速機油(ATF・CVTF),ギヤー油では基油に多くの種類のコンポーネントが配合される。潤滑油製造工場における多数のコンポーネントの受け入れ,在庫,基油への配合(添加剤の秤量作業を伴う)などの管理,作業は非効率的なので,添加剤メーカーであらかじめそれらのコンポーネントを混合して1つの製品(DIパッケージ添加剤,DIパッケージ,パッケージ,あるいは単にDIと呼ばれる)として潤滑油工場に納入されるのが一般的である。DIはDetergent Inhibitorのことで,それはパッケージの中には必ずDetergent(金属系清浄剤と無灰分散剤)とInhibitor(例えばOxidation Inhibitor,Corrosion Inhibitor)が配合されているからである。
エンジン油や自動変速機油のDIにはVIIおよびPPDは配合されず,それらは潤滑油工場で目標のSAE粘度グレード,流動点に合わせて必要量が添加されることが多い。
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