添加剤の寿命 | ジュンツウネット21

潤滑油添加剤が持つ性能の寿命は,どのくらいの期間と考えれば良いですか。代表的な添加剤ごとに劣化要因・寿命を教えて下さい。また,保管方法についても教えて下さい。

解説します。

 まず潤滑油の劣化機構を要約したイラストを図1に示します。

潤滑油の劣化機構
図1 潤滑油の劣化機構
出典:日本潤滑学会,潤滑ハンドブック,養賢堂(1970)

コンポーネント添加剤の寿命は,潤滑油の用途,使用条件により異なりますので,それを明示することはできません。潤滑油の使用条件が厳しいと添加剤も次第に劣化し消耗します。エンジン油を例に挙げましょう。ガソリンが燃焼するとほぼ同量の水が発生します(1kgのガソリンから約1kgの水)。気体として生じた水の一部が,ピストンとシリンダの間のエンジン油と一緒にオイルパンへ入り80℃以下では凝縮して液体状の水となります。エンジン油に配合されているZn-DTP(酸化防止剤,兼摩耗防止剤,兼腐食防止剤)は水で分解されその酸化防止性を失います。また,Zn-DTPは熱に弱く100℃以上では次第に分解し消耗していきます。ストップ・アンド・ゴーの低温走行と,高速・高温走行を頻繁に繰り返すタクシーやパトカーでエンジン油の劣化が早いのは,Zn-DTPの性質に原因があるのです。だからといって,その添加量を過剰にすると,逆に酸化や摩耗を促進したり排出ガス処理触媒を劣化させることになります。

ディーゼルエンジンでは,軽油の燃焼して生じた煤(すす)がエンジン油に混入し,Zn-DTPがそのすすに吸着され効力を失うといわれています。清浄剤,分散剤はエンジン油が劣化して生じたスラッジを捕捉して無害化します。これを逆にいえば,スラッジに清浄剤,分散剤が捕捉され,エンジン油中に存在しても捕捉された分だけ有効成分濃度が低下したことになります。

マルチグレード油のブレンドに必要な粘度指数向上剤は,油溶性で細長い分子構造を持つポリマーです。それはエンジンの中でせん断を受け,次第に粘度指数向上能を失います。せん断安定性の優れた粘度指数向上剤が開発されていますが,その性能を永久に維持できるわけではありません。

通常の走行条件下では,酸化防止剤は1~1.5万kmで消耗され,その後は残存している清浄剤・分散剤が燃焼生成物ならびにスラッジやスラッジになる直前の不安定物質を捕捉・無害化して,エンジン油の寿命を2~3万km程度までもたせることができます。ちなみに,ヨーロッパでは環境保護・省資源の観点からエンジン油のロングドレン化が進められており,2~3万kmまたは2年の更油期間を推薦する自動車会社があります。ロングドレン化のためには,添加剤技術の進歩だけでなく基油の品質向上が必要で,鉱油では高度に水素化分解精製されたVHVI(Very High Viscosity Index:高粘度指数)基油や化学合成系基油の使用が求められます。

添加剤の保管で注意すべきは,(1)異物,特に水の混入を避けること,(2)50℃以上の温度にしないこと。そのためには,添加剤の容器の蓋を密閉して空気の出入りを止め,屋内に保管することです。屋外における直射日光の下では潤滑油の温度が50℃以上になったり,空気が密閉した蓋から内部に出入りすることがありますので避けて下さい。

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最終更新日:2021年11月5日