界面活性剤の機能とその仕組み | ジュンツウネット21

添加剤はどういう機能を持っているのですか。代表的な添加剤についてその機能を発揮する仕組みについて教えて下さい。

解説します。

化学構造に基づく分類で界面活性剤に属する添加剤があります。界面とは,気体,液体,固体のうちの2つの相の組み合わせ,例えば,気体・液体,液体・液体,液体・固体の接する面を意味します。この接触面に存在する界面エネルギを減少させる化学物質を,界面活性剤といいます。昔から使われている石けんや,石油化学工業の発展により急速に普及した家庭用合成洗剤も界面活性剤です。

界面活性剤は油になじみやすい親油基と,水になじみやすい親水基から構成されています。その分子構造を単純化して,子供たちのなめる「棒付き飴」のような図で示すことができます。棒の部分が親油基,飴の部分が親水基です。親油基,親水基それぞれの化学構造と,親油性,親水性の強さのバランスにより,界面活性剤は洗浄,分散,乳化,乳化破壊,可溶化,湿潤,浸透,吸着,平滑,さび止め,起泡,消泡,殺菌,帯電防止などの作用を発揮します。界面活性剤に属する潤滑油添加剤は清浄剤,分散剤,油性向上剤,摩耗防止剤,極圧剤,さび止め剤,乳化剤,抗乳化剤,消泡剤などです。界面活性剤の分子構造と,その作用の一つをさび止め剤のイラストで示します。(図1

さび止め剤の金属表面への吸着モデル
図1 さび止め剤の金属表面への吸着モデル
出典:藤本武彦,新・界面活性剤入門,三洋化成工業(1981)

(1)乳化剤

親水基の作用が親油基より強いと界面活性剤は水溶性になり,潤滑油の分野ではエマルション系の難燃性作動液や切削油などの乳化剤として用いられます。界面活性剤の種類は2,000以上ありますが,エマルション系潤滑油用としては乳化力だけでなく,ほかの性能も特定の用途に適した水溶性界面活性剤が選ばれるのです。

(2)清浄剤

エンジン油が使用中に劣化して生じたラッカーやカーボンがエンジン内部の潤滑部に堆積すると,エンジントラブルの原因となります。清浄剤はそれらの凝集や堆積を防ぎます。また,清浄剤はアルカリ性で,エンジン油が劣化して生じた酸,ならびに燃料が燃焼して発生した硫黄酸化物などを中和してエンジン油の劣化の進行を遅らせ,酸性物質によるエンジン内部の腐蝕摩耗を防止します。さらに酸化防止やさび止めの作用を持つ多機能型の清浄剤もあります。

(3)分散剤

潤滑油に発生したスラッジを分散剤のミセルが包囲してスラッジの凝集・堆積を防ぎ,潤滑油の中に溶解したり分散します。清浄剤は高温で,また分散剤は低温で性能をより強く発揮します。

(4)酸化防止剤

潤滑油の主原料である基油の分子の一部が酸化して,遊離基(フリーラジカル)という非常に微量の不安定物質を生じます。この不安定物質は,まるで生物に取り付くビールスのように増殖・伝播し,次々とほかの基油分子の酸化を進行させます。酸化防止剤は,その不安定物質と結合したり,不安定物質を破壊してそれらの増殖・伝播を妨げ,基油の酸化を防止します。潤滑油の長寿命化を図るために,酸化防止剤の添加量を増やせばよさそうですが,そう簡単ではありません。ほかの添加剤と同様に酸化防止剤にも最適添加量があり,それ以上では逆に基油の酸化を促進したり,摩耗を増加させることがあります。

(5)粘度指数向上剤(VII)

一般の液体と同じように潤滑油も低温では粘度が大きく,エンジン油の場合では低温始動性や燃費の点で好ましくなく,高温では粘度が小さくなり摩耗を生じやすくなります。この問題を緩和するのに役立つのがVIIです。

VIIは細長い分子構造を持つ油溶性ポリマーです。図2に示されているように,VII分子は低温で縮こまって阿寒湖の毬藻のようになり潤滑油の粘度をあまり上げませんが,温度が高くなるに従って,手足を伸ばしたように広がり粘度の低下を抑制します。VIIには流動点降下性や,分散性を持つ多機能型の製品もあります。

ポリマーの溶解状態(模式図)
図2 ポリマーの溶解状態(模式図)
出典:藤本武彦監修,高分子薬剤入門,三洋化成工業(1992)

(6)流動点降下剤(PPD)

ナフテン系原油から精製したナフテン系基油は,PPDを用いなくても-30~-55℃程度の流動点を持ち,低流動点を必要とする冷凍機油などに使われています。一方,パラフィン系原油から精製されたパラフィン系基油は,潤滑性ではナフテン系より優れているものの,パラフィンワックスを含有するので流動点はおおよそ-10~-15℃で,用途によっては,例えばエンジン油ではPPDの添加を必要とします。パラフィン系基油は温度が下がると,パラフィンワックスが結晶状で析出し,次第に成長して三次元の網目構造になり,しまいに基油は流動性を失います。

あらかじめ油溶性のポリマーであるPPDを基油に添加しておくと,析出したパラフィンワックスにPPDが吸着して,パラフィンワックスが三次元網目構造に成長するのを妨げます。PPDの効果は大変顕著でわずか0.1~0.5%程度の添加量で-10℃,-15℃の流動点を-30℃,-35℃程度に下げることができます。

(7)極圧剤

金属表面を鏡のように平滑に仕上げても,ミクロ的には非常に微細な凹凸があります。普通の条件では潤滑油が金属表面上の凹凸同士の接触を遮り,問題になることはありません。ところが,そこに大きい圧力が加えられると金属両面間にある油膜が破れて凹凸が接触し摩擦が生じ,遂には摩擦熱によって金属同士が融着,つまり焼付きを生じます。このような極限の条件下で,極圧剤は金属表面と化学反応を起こし,金属より融点の低い化合物を生成し,それが潤滑剤として働き焼付きを防ぎます。

もちろん,潤滑部に加えられている圧力が限界を超えたり,金属両面間に硬い異物が入り込めば極圧剤も対応することはできません。

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最終更新日:2021年11月5日