添加剤としてZnDTPがよく使われていると聞きます。ZnDTPはどのような物質で,その作用機構および適用例などについて解説して下さい。
解説します。
1. ZnDTPの構造と性能
ZnDTPは,ジアルキルジチオりん酸亜鉛(Zinc Dialkyldithiophosphate)の略で,酸化防止能,腐食防止能,耐荷重性能,摩耗防止能等を有し,いわゆる多機能型添加剤として,エンジン油や工業用潤滑油に広く使用されています。
ZnDTPの構造は図1のように考えられています。ここでRは原料であるアルコールまたはアルキルフェノールの炭化水素基を表します。
図1 ZnDTPの構造 |
ZnDTPは,用いるアルコールの種類を変えることで,その性能が変わり,一級(プライマリ)アルキル,二級(セカンダリ)アルキル,アリールの三種に分類されます。これら三タイプのZnDTPの性能比較を表1に示します。
表1 ZnDTPの性能比較
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同じタイプに属するZnDTPでも,アルキル基の炭素数や構造の違いにより性能が変わります。一級アルキルZnDTPを例にとりますと,炭素数が小さくなるほど,耐摩耗性は向上しますが,熱安定性は悪くなり耐摩耗性と逆の傾向を示します。これは作用機構のところで述べますが,ZnDTPの分解物が効果の源になっていることと関係しています。また炭素鎖が短くなりますと,油に溶けにくくなり,添加剤の基本性能である油溶性に不備をきたすことになります。同じ炭素数のアルキル基でも,直鎖が分枝かによっても性能が変わります。
このようにいろいろな性能が相反する傾向にあるため,現実には,数種のアルコールを組み合わせたりして性能のバランスをとる工夫がされています。
2. ZnDTPの作用機構
ZnDTPの作用機構はいまだ十分に解明されてはいませんが,現在一般に認められているところを簡単に述べます。
2.1 酸化防止機構
潤滑油の酸化は次のような機構で進行します。
開始反応 : RH→R・
連鎖反応 : R・+O2→ROO・
ROO・+RH→ROOH+R・
熱,光,金属等によりラジカル(R・)が生成し,このラジカルが酸素と反応してパーオキシラジカル(ROO・)になります。パーオキシラジカルは他の分子と反応して過酸化物(ROOH)とラジカル(R・)を生成します。過酸化物はさらに分解してラジカル(RO・やROO・)になり,これらも連鎖反応に組み込まれ酸化を促進し,最後にはケトン,アルデヒド,酸,およびこれらの重縮合物になります。
酸化を防止するには,
(1)ラジカル(R・)を捕捉し安定化する
(2)過酸化物(ROOH)を分解・安定化して,ラジカル源を減らす
ことが考えられます。
(1)の働きをするものをラジカル捕捉剤,(2)の働きのものを過酸化物分解剤と呼びます。ZnDTPは長い間,過酸化物分解剤として効くと考えられてきましたが,今ではラジカル捕捉剤としても作用し(1),(2)の両機能を有していることが明らかにされています。ZnDTP中の何が有効なのかは明確になっていませんが,ZnDTPの分解生成物が機能すると考えられています。
2.2 摩耗防止機構
ZnDTPの摩耗防止機構としては,
(1)ZnDTP中のいおうやりんが金属と反応して硫化鉄やりん酸塩の皮膜を作り摩耗を防ぐ
(2)ZnDTPが分解して金属表面に図2のようなポリフォスフェートの膜を生成し摩耗を防ぐ
の説が有力です。
保護皮膜の構造についてはまだ完全に解明されていませんが,今までの研究結果からみると,ポリフォスフェートが金属表面に生成し,さらに(1)の皮膜もできていると考えられます。
図2 ポリフォスフェート |
3. ZnDTPの適用例
1でも説明しましたようにZnDTPはタイプによりその効果がことなりますので,利用に際しては使用条件に合ったタイプを選ぶことが重要です。添加量も画一的に決められるものではなく,配合されている他の添加剤とのバランスがあり,組み合わせにより適正添加量が変わります。
通常ガソリンエンジン油では,二級アルキルZnDTPが使われますが,条件の厳しいディーゼルエンジン油には,一級アルキルやアリールZnDTPが使用されます。また産業機械等の油圧作動油には,水安定性のよい一級アルキルZnDTPが配合されています。このほか,トラクタ用共通潤滑油や自動車用自動変速機油などにも広く使われています。
ZnDTPは1930年代から使用されてきており,その効果は経験的によく知られていますが,作用機構や他の添加剤共存下での挙動等は十分に明らかにされておらず今後の研究が期待されます。また実際に使用する場合は,潤滑油全体としての性能を最良の状態にもっていくようなZnDTPの選択が大切です。