高性能ベースオイルと添加剤について | ジュンツウネット21

高性能ベースオイルとはどのようなものですか。また,添加剤の面についても教えて下さい。

解説します。

近年の機械の省エネルギ化,高性能化の観点から,以前より高性能な潤滑剤が求められ,従来から添加剤技術の改良,新規添加剤の開発とともに,潤滑剤の大部分を占めるベースオイルの高性能化が進められています。添加剤の効果はベースオイルの炭化水素組成等,構成成分により大きく異なり,添加剤の能力を高度に引き出すためにはベースオイルの構成成分を把握し,最適化することが必要です。従来このような構造の最適化法として,化学合成の手法が取られ,合成油が高い製造コストに見合うような特殊な用途を中心として使用されてきました。しかしながら近年,特に自動車用エンジン油をはじめとする“汎用な”油の高性能化が進められており,妥当なコストで,合成油に匹敵する性能が求められ,新しい製造プロセスによる石油系の高性能ベースオイルVHVI(Very High Viscosity Index)やXHVI(Extremely High Viscosity Index)が登場しました。

1. 高性能ベースオイルとは

高性能ベースオイルとは,添加剤技術を施して高性能の潤滑油を与えるもので,高性能の潤滑油とは,過酷な条件下での使用に耐え,かつ長時間にわたって初期に設計された潤滑性能を維持するものといえます。新油における優れた潤滑性能に加えて,酸化や機械的な劣化に対する耐久性が問題となり,この劣化に対する耐久性を大きく左右するのがベースオイルの性能となります。

2. 高性能ベースオイルと製品の粘度特性

近年特に重要視されているのが,摩擦抵抗を減らすことによる潤滑油からの省エネルギ化です。自動車用エンジン油ではマルチグレード油を製造するために,粘度指数向上剤と呼ばれる高分子化合物(ポリマー)を添加する必要があります。エチレン-プロピレン共重合体(一般にオレフィンコポリマー,OCPと呼ばれる),ポリメタクリル酸エステル(PMA)が現在一般的に使用されているポリマーで,いずれも分子量は数万から数十万であり,ポリマーの粘度指数向上効果や増粘効果は,この分子量に大きく依存します。マルチグレード油の製造時にはこの2つのポリマーが使い分けられていますが,いずれもエンジン運転中にベアリングやピストン-シリンダ部において高いせん断応力や高熱にさらされることにより,主鎖切断が起こり分子量が低下し,潤滑不良や劣化したポリマーがデポジットの原因となる場合があります。原則的にはポリマー添加量は少ないほうが良いということになります。

ポリマー添加量を減らす観点から,最近の粘度指数の極めて高いVHVIやXHVIは非常に有利です。図1に一例として,VHVI(粘度指数125)および従来の高粘度指数基油HVI(粘度指数100)から,PMAを添加してマルチグレードの5W-30油を製造する様子を示します。VHVIでは,粘度グレードSAE10のベースオイルを用いることができます。これに対してHVIではより低粘度のベースオイルを用い,より多くのポリマーを添加しなければなりません。このようにして製造したマルチグレード油は,先に述べたようにエンジン運転による粘度低下が大きくなり(図2),ベアリング摩耗の原因となります。また低粘度のベースオイルを用いることから蒸発による油消費量が大きくなり,排気ガスエミッションに悪影響を及ぼすなど粘度指数の非常に高いベースオイルの使用が必須となります。

VHVIおよびHVI基油からのマルチグレード5W-30油の製造
 図1 VHVIおよびHVI基油からのマルチグレード5W-30油の製造(粘度指数向上剤:PMA)
エンジン運転に伴うマルチグレード5W-30油の粘度低下
 図2 エンジン運転に伴うマルチグレード5W-30油の粘度低下(粘度指数向上剤:PMA)

3. 高性能ベースオイルと製品の酸化安定性

エンジン油中には,粘度指数向上剤の他に,摩耗防止剤,酸化防止剤,清浄剤,分散剤,流動点降下剤および最近の省燃費油では摩耗低減剤が添加されています。いずれの添加剤も,エンジン油の使用中に劣化,消耗され,それに伴い油の摩耗防止性能,清浄分散性能や省燃費性能は低下します。最終的にこれらの添加剤がすべて消耗された時には,もはやエンジン油としての機能は果たせなく,油寿命が尽きることになります。添加剤の劣化,消耗の要因はさまざまですが,重要なものに酸化劣化による消耗があります。近年の高性能潤滑油には,酸化防止剤が必ず添加されていますが,酸化防止剤はベースオイルの酸化劣化を防ぐだけでなく,種々の添加剤の消耗も防いでいます。

酸化防止剤の効果は,用いるベースオイルにより大きく異なってきますが,最適なベースオイル組成は酸化防止剤のタイプによっても異なるので注意が必要です。図3に,ベースオイル中の芳香族成分量と実験室酸化試験寿命の関係を示します。タービン油処方(フェノール系酸化防止剤)では芳香族成分がないほど長寿命となりますが,エンジン油処方(ZDTPが主体)では芳香族成分量に最適点があります。このような相違は,フェノール系酸化防止剤およびZDTPが,それぞれ連鎖停止型,パーオキサイド分解型と作用機構が異なっていることによると考えられます。図3の最適点は,芳香族成分を5%含むVHVIに,芳香族成分を30%程度含む通常のHVIを少量混合して得られたものです。このように組成が最適化されたベースオイル中では,酸化防止剤は最大限に効果を発揮します。その結果,添加剤の消耗が遅くなり,各種性能の低下が効果的に抑制されることがすでに明らかにされています。

ベースオイル中の芳香族成分量と酸化寿命の関係
図3 ベースオイル中の芳香族成分量と酸化寿命の関係

4. おわりに

いかに高性能のベースオイルでも,添加剤の助けなしには近年の厳しい要求を満足する製品はできません。添加剤の効果はベースオイルの炭化水素組成等,構成成分により異なります。添加剤の能力を高度に引き出すためにはベースオイルの構成成分を把握し,最適化することが必要です。

アーステック



「技術者のためのトライボロジー」新発売!
「技術者のためのトライボロジーお申し込みはこちら

「潤滑剤銘柄便覧」2024年版 発売中!
「潤滑剤銘柄便覧」2024年版ご注文はこちら

「ILDA 2020 -ASIA-(International Lube Data Book)」 発売中!
「ILDA 2020 -ASIA-(International Lube Data Book)」ご注文はこちら

「やさしいグリースの話」発売中!
「やさしいグリースの話」お申込みはこちら

ニッペコ
○ニッペコ
ニッペコは潤滑グリースのお問い合わせには,何でもお答えいたします。
http://www.nippeco.co.jp/

川邑研究所
○川邑研究所
固体潤滑剤“デフリック”の製造販売
https://defric.company-guide.jp/

ワネンルーブ
○ワネンルーブ
固体潤滑剤“ワネンルーブ”
http://www.wanenlube.co.jp

岡田商事
○岡田商事
エンジンオイル,ギアオイル,生分解性油圧作動油など
http://www.okada-corp.com

安永油化工業
○安永油化工業
グリースのジャバラチューブなどチューブへの小分け充填。産業用潤滑油の専門商社
http://www.yasunaga-yuka.co.jp

最終更新日:2021年11月5日