三洋貿易 科学機器事業部が輸入販売する,英国Phoenix Tribology社の「高速往復動摩擦試験機TE77」を紹介する。
はじめに
当社で当事業部が作られてからおよそ20年が経過するが,その間,当初より注力してきた分野の1つがトライボロジー関連機器の輸入販売である。今回は,その中から摩擦試験機のメーカーの1つ英国Phoenix Tribology社の「高速往復動摩擦試験機TE77」を紹介する。
当試験機は,高汎用型の高速往復動摩擦試験を目的として,1970年代に英国Imperial College のCameron教授によって1号機が開発された。そのため日本国内ではキャメロンプリント試験機と呼ばれることが多い。運転条件はストローク0~25mm,荷重5~1,000N,速度0.1~50Hz,温度~600℃と幅広く,様々な運転条件を再現できるため,現在では潤滑剤,表面処理,コーティングなどの評価試験機として世界中の研究開発機関で活用されている。(写真1)
写真1 試験部外観 |
高速往復動摩擦試験機「TE77」
(1)概要
本体試験部は独特の形状をもち,固定試験片を取り付けた試料容器が固定された試料台と,荷重をかける梁,移動試験片を取り付けるアームからなる。アームの一方はモーターに接続されたスコッチヨークカムにつながりモーターの回転運動が往復動に変換される。アームの他方にはボールなどの移動試験片を取り付けるホルダーが固定されている。梁は巻き上げモーターとばねによって下方向に引っ張られ,試料台の固定試験片と梁で移動試験片を挟み込む構造となっており,移動試験片を往復動させ試料台に発生する摩擦力を静電容量型センサーで測定する。(図1)
図1 接触形態の例 |
(2)試験機本体
移動試験片部にはボール以外にもローラーやディスクなどを取り付けることで,線接触,面接触の試験が可能である。ストロークは2種類のカムの取り付け角度を変えることで段階的に0mm~25mmの範囲で変更することができる。振幅を大きくすることで大きな滑り速度を得ることができ,また,試験部を広くとることで様々なアタッチメントを容易に取り付けることができるため様々な試験のニーズに応えられる。例えば,送液ポンプを取り付けて試料油を循環させたり,冷却槽を接続し低温域での試験を可能にさせたりした実績もある。摩擦力は静電容量型センサーとそのアンプによって測定され,最大±500Nをカバーする。試料油温度は4本のヒーターによってPID制御される。荷重はばねと巻き上げサーボモータにより一定の荷重,あるいは連続荷重をかけることができる。往復動周波数を決定するモーターはインバータにより制御される。移動試験片の位置はLVDTによって常に測定されており,また,電気的接触電位を測定することで図2のように油膜の発生している状態を観察することが可能である。
図2 移動試験片位置(サイン波)とフリクション(矩形波)と接触電位の測定結果例 |
(3)制御部
Phoenix Tribology社が独自に開発した制御機とソフトによって,試験機の制御,データ収集のすべてを自動で行うことができる。温度,荷重,周波数を決定し,この3項目とそれら以外にフリクション,接触電位,試験片位置,摩擦係数を測定する。また,本試験機では短時間に変化するリアルタイム信号を得るため,最高250kHzの高速データ収集ユニットが装備されており,摩擦力や接触電位の詳細を計測することが可能である。これらの試験運転は,シークエンスプログラムを組むことで全自動運転ができ,それぞれの測定項目に警報値を設けることで異常停止にも対応する。データは一般的な表計算ソフトのファイル形式で出力され,簡単に解析ができる。
(4)準拠試験法,各種アプリケーション
- ASTM-G-133……平面におけるボールの直線往復動すべり摩耗標準試験
- ASTM-G-181……潤滑条件下におけるポジションリングとシリンダーライナーの導電性フリクション試験
- ASTM-D-5706……高周波直線振動試験機を用いた潤滑グリースの極圧性を決定する標準試験
- ASTM-D-5707……高周波直線振動試験機を用いた潤滑グリースのフリクションと摩耗を決定する標準試験
- ISO/DIN 12156-2……ディーゼル燃料の潤滑-燃料の潤滑性評価のための性能試験法
- ASTM D 6079……高速往復動試験機によるディーゼル燃料の潤滑性評価のための標準試験法
- 潤滑油,潤滑剤の基礎研究,スクリーニングテスト
- 摩擦調整剤など潤滑油添加材の評価
- エンジンコンポーネントなどの摩耗試験,材料の摩擦面の研究
- 境界潤滑の評価,摩耗や腐食の評価
- 工業用潤滑油のスティックスリップ試験
- グリースやギヤ油,加工油の極圧性評価
- 耐摩耗性,スカッフィング性の評価
- 等速ジョイント用グリースの評価,フレッチング摩耗試験
- コーティングやフィルムの摩擦摩耗特性の評価
- 金属,セラミックス,複合材,プラスチック,ポリマーの摩耗試験
(5)校正,消耗品
摩擦力は専用ジグと重錘により誰でも容易に校正ができる。荷重,速度,温度もそれぞれ汎用的な測定機を使用し,技術者でなくとも校正が可能である。消耗品も,小さなオイルシールやフェノール樹脂部品などを数年に1度(使用頻度による)交換する程度である。
おわりに
内燃機関のように往復動を回転運動に変換する産業機械は多く,本装置はそれらの運転条件をシミュレーションする試験機として,すでに多くの研究分野で活用していただいている。今後は,さらに個別のユーザーのご要求に応えられるようなアタッチメントを開発し,摩擦係数測定機としてさらなる信頼性向上に取り組んでいきたい。
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