三洋貿易が製造・販売するFZG歯車試験機の概要や試験法などについて紹介する。
はじめに
現在の潤滑剤の開発は,シミュレーション試験なくして為し得るものではない。特に機構試験による潤滑剤の評価は不可欠であり,試験条件を過酷なものにするため負荷を一層かけられることが必要とされ,年々その条件は厳しいものが求められている。
本稿では古くからギヤの極圧条件下での潤滑油の評価を目的として使用されてきて,過酷な環境を再現できる温故知新な試験機,FZG歯車試験機を紹介する。
ギヤ試験片装着時の試験機外観 |
概要
FZG歯車試験機は1950年代半ば,独国ミュンヘン工科大学内のFZG(ギヤとトランスミッションの設計:Forschungsstelle fur Zahnradar und Getriebebau, Technische Universitat Munchen)研究所で開発された。当初の試験目的は,ギヤのスカッフィングの再現であった。その後DIN規格により,潤滑油とトランスミッション油の関係性を評価する試験機として定着した。主な試験は,試験用ギヤに荷重をかけた状態でモーターによりシャフトとギヤを回転させて行う。荷重は梁と重錘型分銅でかけるがこの重錘型分銅にはそれぞれ荷重ステージと呼ばれる段階がある。FZG試験機では,「A/8.3/90」というように試験方法を記号で表す。例の記号はそれぞれ,「使用ギヤの種類はTypeAで,歯幅20mmのタイプを使用/ピニオンギヤのピッチライン速度は8.3m/sで,モーター回転速度に換算すると約1,445rpm/試験温度は90℃±3℃から開始する」ということを表す。FZG試験機の各試験条件はこのコードで標記されることが多い。
Vw=約0.00574×N1
Vw:ピッチライン速度(m/s)
N1:ピニオンギヤ回転速度(rpm)
参考までにヘルツ接触応力は下記の通り表される。
Pc=14.7√Fn
Pc:任意の点におけるヘルツ接触応力(N/mm2)
Fn:各荷重ステージから算出される歯にかかる力(N) (荷重ステージ1~12で約150~1800N/mm2)
機構的特徴
試験機の試験部は本体ベンチに固定される。試料油の入ったテストギヤボックス中の一対のテストギヤと,スレイブギヤボックス側の一対のスレイブギヤがそれぞれシャフトで接続されている。
シャフトは2本あり,一方はクラッチ構造になっており,このクラッチに梁と重錘型分銅を吊るし,捻り荷重をかける。この捻り荷重をかけた状態でクラッチを固定する。トーションシャフトと呼ばれるもう一方のシャフトは,ねじれる構造になっており,試験部の閉ループにかかる荷重を支えている。トーションシャフトの延長線上にはモーターが配置され,これを回転させ試験を行う。
FZG 試験機の構造 |
梁と重錘型分銅を取り付けた時の試験機外観 |
準拠する試験法
スカッフィング試験(DIN 51354-1/2,ISO 14635-1,CEC-L-07-96,IP 334/93,ASTM D 5182-9)
代表的な試験で,歯面のすべり凝着面に発生する損傷(スカッフィングやスコーリング)を再現させる。
グリーススカッフィング試験(DIN Fachbericht 74,FVA 243)
グリースを対象としたスカッフィング試験。通常の試験より低速,低温で試験を行う。
EPステップ試験(ISO 14635-2,FVA 243)
スカッフィング評価試験の1つで,荷重ステージを段階的に上げていく試験法。前述のスカッフィング試験で使用するギヤより歯幅の狭いものを使用するため,さらに過酷な試験条件となる。
EPショック試験(FVA 243)
スカッフィング評価試験の1つで,ステップ式ではなく,特定の荷重ステージの荷重をかけた状態から試験を開始する。試験ギヤも歯幅の狭いものを使用する。EPステップ試験よりさらに過酷な試験条件となる。
耐摩耗試験(ASTM D 4998)
低速高荷重条件下で行われる試験で,ギヤの質量損失を評価する。トランスミッション油や油圧作動油などを評価する場合に耐摩耗試験として行われることが多い。
ピッチング試験(FVA 2/IV)
金属疲労による歯面の剥離(ピッチング)を再現する試験。スカッフィング試験と双璧をなす代表的な試験。
マイクロピッチング試験(FVA 54/I-IV)
主に風力発電用風車などのギヤに発生するマイクロピッチングという細かいピッチング歯面剥離を再現する試験法。試験は何週間も行われ,試験ギヤも特殊なものを使用する。
評価
オペレータによる目視検査にて行う。下図は試験の評価の一例である。スカッフィングを例にとると,ピニオンギヤの歯面に現れた傷(スカッフィング,スコーリング)の幅の合計が20mmを超した場合を不可と判定し,その際のステージ,試料油温度を報告する。
スカッフィング(スコーリング)例 |
ピッチング例 |
FZG試験機の活用
ギヤの接触面はすべりと転がりが混合した複雑な摩擦環境を持ち,伝える力が1点に集中する場合なども多く,過酷な運動を強いられている。FZG歯車試験機は,ギヤを実際に接触させ,スカッフィング,ピッチングなど,ギヤの典型的な不具合を再現し評価することができる。これまでに世界で500台以上の導入実績を持つ。評価対象となる試料は,ギヤ油,タービン油,ATF,CVTF,作動油など多岐にわたり,特に過酷な条件下で使用することを目的とした潤滑油の評価に適している。また,幅が通常タイプより狭い規格のギヤや,より過酷な荷重ステージ,効率性テストなどのオプションも用意されており,規格試験機ではあるがシミュレーションの汎用性は高い。風力発電機の増速機用潤滑油の高負荷環境の再現とその定量的なデータの収集や,燃費向上のための作動ギヤ油,トランスミッションフルード開発など,世界中で活用の場が広がっている。
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