栗原 和枝教授(東北大学多元物質科学研究所)が世界で初めて独自に開発した微細な空間に閉じ込められた液体の特性を評価する手法である共振ずり測定,および不透明基板間の表面力の測定を1台でできるツインパス型共振ずり装置の技術移転を受け,アドバンス理工が商品化した「共振ずり測定装置・RSM-1」を紹介する。
はじめに
本稿では,栗原 和枝教授(東北大学多元物質科学研究所)が世界で初めて独自に開発した微細な空間に閉じ込められた液体の特性を評価する手法である共振ずり測定,および不透明基板間の表面力の測定を1台でできるツインパス型共振ずり装置の技術移転を受け,これを商品化した「共振ずり測定装置・RSM-1」を紹介する。
「RSM-1」の概要
「RSM-1」は,2つの固体表面間に液体を挟み,液膜の厚みをマイクロメートルオーダから接触まで連続的にナノメートルレベルで制御しながら,液体の構造化挙動,粘度,摩擦・潤滑などの特性を距離の関数として評価できる。また,同時に液膜を介した表面間に働く力(表面力)を表面間距離の関数として精密に測定することもできる。これにより,摩擦・潤滑測定時の垂直負荷を決定することができ,また,表面力曲線そのものからも表面の荷電状態(電位・電荷密度),接着力,分子の吸着特性など様々な表面・界面の評価を行うこともできる。
「RSM-1」の仕組み(測定原理)*1-*4
「RSM-1」は,平滑な2つの固体表面に挟まれた液膜の厚みを5μmから接触まで,1nm(オプションにより0.1nm)の分解能で制御しながら,上の表面を横方向に振動させて,そのずり応答を共振法により測定する。装置上部のずりユニットの機械的な共振応答を利用し,共振周波数と応答強度から表面間に閉じ込められた液体の特性を評価できる。共振周波数における大きな応答を利用するため,感度が高くノイズにも強い測定が可能となっている。表面間距離の測定には,反射型干渉法であるツインパス法(分解能1nm)を用いており,これまで不可能だった不透明試料を用いた測定も行える。また,オプションで従来から用いられている透過型干渉法(FECO法)も利用可能である(分解能0.1nm)。また,下部表面に接続されたバネのたわみを測定することで,バネばかり法によって精密に表面間に働く力の距離依存性を測定する表面力測定を行うことができる。
図1 共振ずり測定装置写真と構成図 |
「RSM-1」による測定例
(1)ナノ薄膜の潤滑特性の評価例:ネマチック液晶(6CB,4-シアノ-4’ヘキシルビフェニル)*3-*5
図2に液晶(6CB)を挟んだ雲母の共振カーブを示す。空気中分離状態(AS)では,共振ずりユニット単独で決まる共振ピークが(212rad/s)に観測される。雲母表面を接触させた状態(MC)では,表面間の滑りがなく上下の表面が一体で動くため,下表面に接続されたバネの寄与により高周波数(342rad/s)にピークが観測される。液晶を表面間に挟むと液晶の粘性によりASピークと比べて強度が減少する。D=104~11.7nmではピークの強度・周波数の変化がなく,液晶の特性の変化がないことを示している。D=11.7~7.9nmでピーク強度が減少し,これより,この距離で液晶の粘性が上昇し始め,D=7.0~5.7nmではピークが高周波シフトしており,液晶薄膜を介してずり力の下表面への伝達が起こり始めたことが分かる。D=5.7~3.9nmでは,ピーク強度が増大しているが,MCピークと比べて強度が低く,これは液晶薄膜による潤滑性に対応している。共振法では,ピークの強度・周波数の大きな変化から液体薄膜の特性の変化を読み取ることがきる。さらに,物理モデル解析により,粘性,摩擦力の定量評価を行うことができる。
図2 雲母表面間に液晶(6CB)を挟んで測定した共振カーブ*3 |
(2)ナノ薄膜の潤滑特性の評価例:スティック-スリップ挙動の評価*6
図3に6CB-Sudan Black B 2成分系を雲母表面間に挟んで測定した共振カーブを示す。ここで,特徴的な挙動として,D=4.4nm(垂直負荷N=0.06mN),D=3.0nm(N=0.17mN),D=3.0nm(N=0.65mN)において,共振ピークの途中で突然の振幅減少が観測されている(拡大図参照)。これらの共振カーブは,振幅が突然減少する角周波数以下ではMCカーブとよく一致しており,滑りのほとんどがスティック状態と考えられる。これより,振幅の突然の減少は,共振ピークに近づくにつれてせん断振幅・速度が増大したことによるスティック状態からスリップ状態への変化と考えられる。
図3 6CB-Sudan Black2成分系を雲母表面に挟んで測定した共振カーブ |
このように,共振ピークの不連続変化,非対称性からスティック-スリップのような速度依存性のある挙動の評価も可能である。
将来展望
従来,摩擦機構は現象論的な理解に留まっていたが,本装置を用いることで分子レベルの具体的な摩擦機構の評価が可能となってきており*5-*8,より効率的な系を設計でき,摩擦,摩耗によるエネルギーロスの低減につながる低炭素社会の実現等の革新技術への貢献が期待できる。また先端材料の特性をナノスケールから評価できる本装置の利用により,ナノレベルでの設計指針を構築できるので,効率的な材料設計が可能となり,付加価値の高い新規材料を製造する産業の振興につながると考えている。
〈参考文献〉
*1 J. N. イスラエルアチヴィリ,表面力と分子間力,朝倉書店
*2 H. Kawai, H. Sakuma, M. Mizukami, T. Abe, Y. Fukao, H. Tajima, and K. Kurihara, Rev. Sci. Instrum. 80(2008)043701.
*3 栗原和枝,液晶,6, 34(2002).
*4 水上雅史,栗原和枝,トライボロジスト,55, 24(2010).
*5 M. Mizukami, K. Kusakabe, and K. Kurihara, Prog. Colloid Polym. Sci., 128, 105(2004).
*6 H. Mizuno, T. Haraszti, M. Mizukami, K. Kurihara, SAE Int. J. Fuels Lubr. 1, 1517(2009).
*7 H. Sakuma, K. Otsuki, K. Kurihara, Phys. Rev. Lett., 96, 046104(2006).
*8 Y. Kayano, H. Sakuma, K. Kurihara, Langmuir, 23, 8365(2007).
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