新東科学のHEIDONトライボロジー試験機を紹介する。また,静摩擦係数の評価方法として代表的な傾斜法と動摩擦係数の評価として代表的な直線摺動型の試験機による評価方法を紹介する。
1. トライボロジー評価の概要
トライボロジー評価の代表的なものとして,材料表面の滑りやすさの定量化,材料表面の耐摩耗特性評価,材料表面処理の密着性評価などが挙げられるが,本稿では特に表面処理の滑りやすさに言及する。
この評価では通常摩擦係数測定が用いられる。摩擦係数には静摩擦係数と動摩擦係数があり,どちらの数値に主眼を置いて評価するかはその表面処理が利用される状況により判断される。具体的には表面処理が相手材料に対して一定速度で滑りながら接触する場合は,動摩擦係数による評価が妥当であり,相手材料と停止して接触している状態から相対的な滑りが起きる状況が起こりやすいか起こりづらいかの判断では静摩擦係数による評価が必要になる。一般的には静摩擦係数が高い材料は動摩擦係数も高いと思われているが,接触しあう材料の組み合わせや測定環境によっては静・動摩擦係数の良否が逆転する場合もある。したがって,本来動摩擦係数で評価すべき表面処理を静摩擦係数で評価する場合は,静摩擦係数と動摩擦係数の順列が試料間で同じであることを確認してから行わなければならない。このようなケースは,静摩擦係数の評価用の試験機が動摩擦係数評価用の試験機に比べ扱いが簡便で価格も安価であるために行われているようである。
本稿では静摩擦係数の評価方法として代表的な傾斜法と動摩擦係数の評価として代表的な直線摺動型の試験機による評価方法を紹介する。
直線摺動型の摩擦試験機では一般に静摩擦係数と動摩擦係数の両方を同時に測定できる試験機が多いが,静摩擦係数に関しては使用している摩擦力を測定するための荷重変換器と動歪みアンプ・試料を移動させるためのモーターや摩擦力を荷重変換器まで伝えるための構造などにより測定値がかなり変わってしまうため,試験機の種類によって静摩擦係数はかなり変わるということを認識する必要がある。傾斜法による静摩擦係数測定ではJISP8147が良く利用されており,直線摺動型の動摩擦係数測定ではJISP8147,ASTMD1894,ISO8295などがある。
2. 静摩擦係数の測定方法(傾斜法)
傾斜法に用いられる試験機を図1に示す。
≪HEIDON トライボギアTYPE:10≫ |
試料は上昇していく上昇板とその上を滑り落ちる圧子に固定される。この時の接触部に掛かる荷重は,圧子と試料の重量にさらに追加で乗せた錘の重量の合計になる。上昇板は一定角速度で上昇し上に乗せられた圧子が滑り落ちた角度で停止する構造になっている。このときの角度のtanθが静摩擦係数となる。上図の試験機では停止した上昇板の位置の角度(静摩擦係数)目盛りを読み取り測定する。 |
図1
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3. 直線摺動式試験機による静摩擦係数・動摩擦係数測定方法
静摩擦係数と動摩擦係数を同時に測定するために良く用いられる直線摺動式試験機を図2に示す。
【測定原理】 |
試験機は等速で一定距離移動する移動テーブルと,試料に対して接触させる相手材料を先端部に固定可能なバランスアーム機構(横竿アームと垂直アームより構成)と摩擦力を感知する荷重変換器で構成される。試験機の種類により移動テーブルの可変速度範囲・移動距離は異なるが,1項で記した工業規格では移動速度が数100mm/minで移動距離が数10mm~100mm程度のものが良く見受けられる。下図が測定原理である。測定は移動テーブル上に板状試料を固定し,バランスアーム機構先端に相手材料を取り付けた測定治具を固定する。測定治具の自重はバランスアームの反対側に載せたバランス分銅で相殺され,分銅皿に載せた荷重分銅分の垂直荷重のみが試料の接触部にかかる構造になっている。バランスアーム機構の末端には荷重変換器が接続され,移動テーブルが移動を始めると垂直アームがわずかに振れて荷重変換器の先端を引っ張り摩擦力を伝達する機構になっている。 |
図2
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■静摩擦係数・動摩擦係数の計算方法
直線摺動式の試験機で測定したデータ例を図3に示す。移動テーブルは所定の速度で一定距離移動した後自動停止し,この時に荷重変換器が検出した摩擦抵抗力が測定結果となる。静摩擦係数は移動テーブルが動きだした直後に発生する摩擦力の最大値から計算する。動摩擦係数は移動テーブルが等速で移動している際の任意の2点間の摩擦力の平均値から求められる。荷重変換器により検出されるのは摩擦力(単位:N)だが,下記の式により簡単に摩擦係数に変換ができる。
図3 |
4. 傾斜法と直線摺動式測定法の比較
傾斜法を利用して測定した静摩擦係数と直線摺動で荷重変換器を利用して測定した静摩擦係数を比較する(図4)。今回はメッキ処理されたサンプル6種を例にとって説明することとする。測定結果をまとめたグラフを見ると明らかに荷重変換器で測定した静摩擦係数の方が高く出ていることがわかる。傾向としては電気ニッケルメッキと無電解ニッケルメッキを除くと試料間の相対的な順列の傾向は測定のバラつきを考慮すれば似ていると言える。
図4 |
次に傾斜法で求めた静摩擦係数と直線摺動式で荷重変換器を利用して測定した動摩擦係数を比較する(図5)。グラフの傾向が静摩擦係数の時と比較して違っていることが分かる。傾斜法で求めた静摩擦係数の順列と直線摺動で求めた動摩擦係数にはきれいな対応が取れないことが分かる。さらに直線摺動式で測定した静摩擦係数と動摩擦係数を比較する(図6)と,グラフからも分かるように傾向が一致しないことが分かる。
図5 |
図6 |
5. まとめ
静摩擦係数に関しては,測定方法の違いにより測定値の値のずれはあるものの傾向は比較的に一致していると言える。値のズレは荷重変換器の応答性やデータを取り込む速度などでも変わるため一致しないものと考えられる。また,静摩擦係数は測定値にばらつきが出やすく繰り返しの測定回数を多く取る必要があることが分かる。静摩擦係数測定においては,試料を設置する際の状態がわずかにずれたり設置した位置に微小な凹凸や傷があるだけでも測定値が変わってしまうと考えられる。動摩擦係数は測定方法によらず静摩擦係数とは傾向が異なることが分かる。したがって,静摩擦係数測定で動摩擦測定の代わりを行うような測定は奨められないことが分かる。動摩擦係数は静摩擦係数と違い移動距離を設定して測定するため,接触部の不均一性が相殺されやすく比較的にばらつきの少ない安定した測定値が得られるのが特徴である。
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