協和界面科学で製造販売する,摩擦摩耗解析装置を紹介する.
1.はじめに
当社は,「ぬれ」,「表面張力」,「分散」,「接着」など,表面・界面の現象を解析・評価する装置を製造販売している.2017年に創業70周年を迎えるが,今日まで国内唯一の界面科学分野専門の測定器メーカーとして,界面制御による付加価値創出に貢献することを目指してきた.
昨今は,コーティングプロセスで発生する様々な問題に対して,界面科学の視点でお客様を支援することに注力している.そこでコーティングプロセスを以下の3つに区分し,各プロセスにおけるテーマやプロセス間の関連性から必要な評価技術を提案している.
- 液体/固体の加工(素材混練・基材前処理)
- 液体の安定供給と塗布
- 塗膜の品質評価
摩擦摩耗解析装置は,3の塗膜品質評価向けの装置である.摩擦摩耗の状態を評価し,原因を界面科学的に考察し,上流プロセスへフィードバックすることで,上流プロセスの改善にもつながる.
例えば摩擦摩耗の原因が,顔料とビヒクルとのぬれ性,また,顔料の凝集による表面粗さや積層膜間の剥離が原因であれば,顔料の分散性や,積層膜間の密着性を改善することで塗膜の摩擦摩耗性の品質向上につながる.
これは,コーティングプロセスの最適化に向けた善循環につながると言える.そのためにも摩擦摩耗の特性を正確に評価することは重要である.
2.自動摩擦摩耗解析装置「TSf-502」
自動摩擦摩耗解析装置「TSf-502(写真1)」は,対象とする固体試料表面と相手材の摩擦係数を測ることで,摩擦摩耗性,引掻き性,滑り性などを評価する装置である.
写真1 全自動摩擦摩耗解析装置「TSf-502」 |
測定原理を図1に示す.試料上の相手材に垂直荷重Wを加え,これを動かないようにした状態でステージを移動させると相手材と試料間に摩擦力Fが生じる.このとき摩擦係数 μ=F/W で算出する.
図1 摩擦係数算出の原理 |
原理は非常に簡単であるが,摩擦の検出機構はデータの品質に影響を与える.
今回はTSf-502の特長である,正確な摩擦力検出のための独自の天秤機構および評価の幅を広げる新しい動作機能と目的別測定ルーチンについて紹介する.
3.クランク形状2軸天秤による摩擦力検出機構
実際の摩擦力検出機構は図1の測定原理図に対し,図2のような天秤を使った構造になっている.図は市場に出ている摩擦摩耗解析装置の天秤機構の一例であるが,天秤支点の右側でバランス分銅によって天秤の水平をとり,この状態で相手材を摺動面に触れさせてから,荷重をかけてステージを移動させロードセルに伝わる摩擦力を検出する.
図2 従来の天秤による摩擦力検出機構 |
しかしながら図2の天秤機構は,天秤支点と摺動面の高さが違うため,摺動面から支点に対してトルクが発生する.このため,力の垂直成分が垂直荷重にプラスマイナスされる結果,往路と復路で摩擦力に違いが生じる.
具体的には,往路では相手材が摺動面に食い込むために摩擦係数が大きくなり,復路では相手材が摺動面から浮くような挙動をとるために摩擦係数が小さくなり,図3のようになる.
図3 摺動方向の違いによる摩擦係数データへの影響 |
これについては往復のデータを平均化すれば良いと言う問題ではなく,破壊されるはずのない表面が天秤機構の影響で破壊されたのであれば,本来のあるべき結果とは異なってしまう.
これに対しTSf-502 の新開発のクランク形状2軸天秤は,図4のように天秤支点と摺動面が同じ高さになるように設計されているため,摺動方向に関係なく測定データは同じとなる(図5).
図4 新発想のTSf-502の摩擦力検出機構 |
図5 摺動方向に左右されない摩擦係数データ |
4.2軸天秤のメリット
2軸天秤(図4)は,検出用アームと荷重用アームが独立しているため,摺動時における荷重の慣性や外力の影響を受け難くなっており,正確な摩擦波形を得やすい構造となっている.
図6に2軸天秤と1軸天秤の検出感度の違いを示した.
図6 2軸天秤と1軸天秤の荷重による固有振動の違い |
これは,両方の天秤に1000g と100g の2種類の荷重をかけ,一定の衝撃を与えた時の電圧値の変化を示したものである.両者の違いが分かりやすいように,震動の振れ方を上下に分けて表現した.
これを見ると,1軸天秤は荷重の大きさによって固有振動が変化するが,2軸では変化は見られない.さらには,2軸の方が慣性の影響が少なく,検出感度が良好であることがわかる.
5.独自の動作機能
TSf-502では,他にはない独特の動作機能を採用している.これにより試料の実使用環境に近い摺動を再現したり,より試料特性を引き出すような測定が可能となる.
(1)自動天秤ピックアップ機能
一般的なバウデン式の摩擦試験機は,往復摺動によって試験を行う.ところが,摩擦の現場においては片道摺動も存在するが,これを往復摺動で評価するのは,実使用環境と異なる条件で試験することとなる.
自動天秤ピックアップ機能は,往路の摺動後に天秤が自動でピックアップし,復路は摺動せずにステージ位置が原点復帰する機能である(図7).
図7 自動天秤ピックアップ機能の動作イメージ図 |
(2)停止時間依存測定
例えば,表面粗さが小さくて軟らかく,摩擦面の真実接触面積が大きくなるようなラップフィルムやゴム材料は,相手材との凝着の影響が摩擦抵抗に顕著に現れる.
停止時間依存測定は,材料の持つ凝着特性をより特徴的なものとして評価するときに役立つ機能である.
停止時間依存測定の動作イメージを図8に示す.
図8 停止時間依存測定の動作イメージ図 |
あらかじめ測定回数と回数ごとの停止時間,摺動距離,速度をパラメーターとして入力する.接触子と相手材が指定時間停止状態で接触した後,指定した距離と速度で摺動し,指定した回数の測定が終わるまでこの動作を繰り返す.この測定は1回の片道摺動の中で複数回実施できる.
これで得られる測定結果例を図9に示す.
図9 停止時間依存測定の測定例 |
この結果より,停止時間(摩擦面の接触時間)の増加とともに静・動摩擦係数が上昇していることから,ゴムとガラスの真実接触面積が増えることで凝着が大きくなったと考えられる.
一般的なバウデン式摩擦試験では,一定距離の往復摺動を連続的に行い,摩擦力や摩擦係数の大きさや変化から摩擦特性を評価するが,この方法で凝着特性を見るには,例えば摩擦波形の状態からスティックスリップの有無や波形振動の大きさなどで定性的に判断することになる.これに対して,停止時間依存測定では,摩擦面の接触時間と摩擦抵抗の関係から,より定量的な評価が可能となる.
(3)連続静摩擦測定
材料の基礎物性として,静摩擦係数と動摩擦係数を知りたいとする.バウデン式摩擦試験機では1回の片道測定で得られる静摩擦係数は摺動開始時の1点のみである.
連続静摩擦測定では,あらかじめ測定回数と摺動距離,速度をパラメーターとして入力すると,片道摺動において摺動と停止を繰り返すことにより,1回の測定で複数個の静摩擦係数を得ることができる(図10).測定結果例を図11に示す.
図10 連続静摩擦測定の動作イメージ図 |
図11 連続静摩擦測定の測定例 |
この測定方法では,1回の測定ごとにステージを移動して摺動面を変えることなく,常に新しい面に対して試験を行えることもメリットの1つである.
6.各種依存性測定
「アモントン-クーロンの法則」という摩擦に関する有名な法則がある.これは摩擦力については以下の関係が成り立つと言うものである.
- 見かけの面積に比例しない
- 荷重に比例する.摩擦力/荷重=摩擦係数は(一定)
- 速度に関係なく一定
- 動摩擦力は静摩擦力より小さい
しかしながら,現実的には摩擦の現象は摺動面の表面特性の影響を受け,上記法則が当てはまらないケースが少なくない.そこでTSf-502では,摩擦現象についてある特定の因子の影響を受けることを想定し,以下の依存性が一目でわかる目的別測定ルーチンを用意している.
- 荷重依存測定
- 速度依存測定
- 回数依存測定
- 停止時間依存測定
(1)荷重依存測定
これは荷重によって摩擦係数がどのように影響を受けるかを確認するための測定ルーチンである.
あらかじめ荷重の影響を受けることが予測できる場合は,このルーチンを選択する.測定条件としての荷重を事前に入力しておき,測定画面の指示に従って荷重を変更するだけで荷重依存測定が終了するようになっている.
図12は測定の一例であるが,ここでは荷重を100g~500gまで100gずつ増やしながら摩擦係数を測定した.
図12 荷重100g~500gの摩擦係数データの一例 |
最終的には荷重の摩擦係数への影響が一目でわかるように図13のようなグラフが表示できる.これにより測定データをわざわざ表計算ソフトウェアにコピー&ペーストしてデータ処理をすることなく,その場で荷重の影響を確認することが可能となる.
図13 摩擦係数-荷重依存性データの一例 |
(2)速度依存測定
これは摺動速度によって摩擦係数がどのように影響を受けるかを確認するための測定ルーチンである.
荷重依存測定同様,あらかじめ速度の影響を受けることが予測できる場合はこのルーチンを選択し,測定条件としての速度を事前に入力すると,後は測定画面の指示に従って操作することで速度依存測定が終了する.測定後は図14のような速度依存性のグラフを表示できる.
図14 摩擦係数-速度依存性データの一例 |
(3)回数依存測定
これは摺動回数による摩擦係数の変化を見るためのもので,摩擦面の耐久性の評価に使用できるルーチンである.図15は,ガラス基板にステアリン酸の単分子膜をLB膜作製装置によって積層した積層膜の回数依存性を測定したグラフである.
図15 摩擦係数-回数依存性データの一例 |
これからは,1層と3層の摩擦係数の変曲点を示す回数によって積層膜の破壊の状態が予測できる.
7.おわりに
摩擦摩耗特性は,材料の機械的性質としての印象が強いように思えるが,何等かの表面加工を施す時点で,界面科学的因子が関与してくる.
協和界面科学では,摩擦摩耗のテーマに対しても界面科学の視点で多面的な提案をするよう心がけており,お客様の研究・開発・品質管理にお役立ていただければと強く念願する次第である.
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