神鋼造機のスラスト型摩擦摩耗試験機を紹介する。
当社トライボロジー試験機の歴史
当社の歴史を振り返ると,1950年よりディーゼルエンジン等を活用した走行用と発電用機器,トルクコンバーター等を活用した動力伝達機器,そして試験機という機種メニューで大別され,それぞれが社会的ニーズの変化に伴い機種メニュー自体の形態も変化しながら今日に至っている。以下に,当社が試験機を作りだした経緯を述べる。
故曽田教授(東京大学)のご指導によって,曽田式四球形摩擦試験機(昭和25年)を作ったことが,当社試験機事業の始まりと言われる。曽田教授と当社との関わりについては,曽田教授の恩師である故池田 正二氏が,鉄道関連の研究所―日本機械学会―当社の親会社の要職におられたことが強い縁となり,試験機のルーツができた。また,当社創業社長の土屋 行蔵氏がディーゼルエンジンを開発してきたが,その性能向上のためにも摩擦を減らすということで,たびたび曽田教授に相談していたことも,つながりを深めた。さらに,当社の親会社が戦前に海外メーカーのY社の特許を買って,流体変速機を当時の鉄道省に試作納入していたことも,国鉄がディーゼルエンジンの製造を当社に発注することに,大きく寄与していた。当時の国鉄は,各車輌それぞれに運転手がつくのではなく,数台のディーゼル車両をひとりで運転制御できる総括制御を熱望し,当社のトルクコンバーター技術が,それを可能にする決め手であったことが,元々のディーゼルエンジン技術に加えて当社の評価を絶対的なものにした。これらは,当社のディーゼルエンジン,トルクコンバーター,試験機の技術がそれぞれ別々のものではなく,お互いに絡みあった,関連の上に成り立った技術ルーツであることを如実に物語っている。これらの事実と,ここに収められた試験機の開発の道筋は,機械メーカーが自社の機種メニューを育てていく上で必須の,技術力向上に努めてきたという証拠である。
なお,故曽田教授の論文集からは,神鋼造機との出会いを“奇縁”と表現されているが,戦後の荒廃の時期での土屋氏の経歴や実績を見ると,曽田教授との出会いは“奇縁”ではなく“機縁(定められた縁)”とも考えられる。
当社では,この曽田式四球形摩擦試験機を初めに,以後,曽田教授のご指導の下で,動荷重軸受試験機,グリース性能試験機,高速四球形摩擦試験機,歯車潤滑油試験機等を製作し,分野と販路を拡大とともに生産も増加していった。現在では,上記試験機等をベースにしながら,開発機種は400機種,4,000台を超える実績となり,これらを系統別に分類すると,(1)油性摩擦摩耗試験機,(2)グリース性能試験機,(3)油圧機器性能試験機,(4)軸受(滑り・転がり)試験機,(5)ベルト・シール試験機,(6)転道疲労・歯車試験機,(7)高速回転試験機,(8)クラッチ・ブレーキ試験機,(9)航空機器性能試験機,(10)ミッション系試験機,となる。
当社トライボロジー試験機の紹介
本稿では,最もポピュラーな試験機であるスラスト型摩擦摩耗試験機をご紹介する。当社では,トライボロジー試験機の製作に当たり,故曽田教授より以下のようなアドバイスを頂いている。
『トライボロジーの研究に関する試験機,測定機としてかかわりの深い現象のなかで,最も重要な評価点となるものは摩擦の大小,焼付き限界点の高低,摩擦の大小,疲労はく離寿命(疲労寿命)の長短の4点がまっ先に挙げられよう。しかし前記の評価点の現実をみると,その値はばらつき易くきわめて不安定であるのが普通で,むしろこのトライボロジー関連値の特定しにくさと不安定さのなかにこそトライボロジーの実態があるともいえるのである。
トライボロジー現象にこうしたばらつきや不安定さが本質的に存在または発生し易いことによって,トライボロジー関連試験機や測定機の計画と利用において,摩擦現象にかかわる微妙な誤差原因は徹底的に除去する必要があり,具体的には試験機の剛性増や熱変形除去による片当り防止,固形粒子の混入排除,機械の組み付けすき間の正しい調整管理等は,トライボロジーにかかわる試験研究においてはとくに重要な意味をもつのである。』
この教えの下で,スラスト型摩擦摩耗試験機の多くは,テストピースが単純化されているので,色々な条件で使用されている。しかし,その試験結果が,試験システム依存性が高いか,低いかを見極めるのは重要なポイントとなる。トライボロジー関係の試験機を製作する場合,システム依存に係わる情報をどこまで把握できるかが,今後のトライボロジーの試験結果を見る場合の重要なポイントであると予想する。
「トライボット」の開発
開発の背景は,1993年に曽田式四球形摩擦試験機の構成部品の中で,購入品の一部が製造中止となったことが発端となった。この試験機は,JIS規格の試験法に認定されている試験機であることから,急いで後継機を開発する必要があり,合わせて現代的な装置とすること等を主眼とし,開発を行った。
1994年より,曽田式四球摩擦試験のみならず,他の摩擦摩耗の試験条件もできるよう,過去に納入した摩擦摩耗試験機の仕様をすべて洗い出し,市場調査と標準仕様の確立を行い,開発製作に着手した。試験機完成後,各種試験を行い,販売を開始し,この試験機は現在までに40台超の納入実績を数えており,試験機の名称を「トライボット」と命名した。その内の曽田式四球形摩擦試験機については,「トライボット」を基本に,たとえばシェル式との共用化,荷重を油圧サーボ方式採用,お客様のご意向等を取り入れ,結果的には特注仕様となるが今なお納入してきている。
なお,「トライボット」という名称は,トライボロジーという工学分野名称とパソコンで自動制御・計測を行うロボットという意味から複合させた名称である。
トライボット |
四球 |
ピン×ディスク |
リング×ディスク |
試験片例
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「トライボット」最近の仕様動向
(1)回転……静摩擦から動摩擦への移行期の低速あるいは高速回転,揺動
(2)荷重とトルク……低~高荷重の広範囲で発生→トルク計測
(3)試料油潤滑……オイルバス,オイル循環
(4)雰囲気……ドライ,真空,高温,低温,湿度,ガソリン軽油,等
以上のように,試験機に対する要求も非常に過酷となってきているが,トライボットをベースにして,都度設計製作に挑戦している。
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