アドバンス理工が製造・販売する共振ずり測定装置(型式:RSM-1)の測定原理について説明する。
固・液界面の特性を調べる有力な手段とは
固体表面に挟まれた液体は,表面間距離がナノメートルレベル(分子サイズの数倍程度)以下まで減少すると,閉じ込めおよび界面の効果により,規則構造の形成や粘度の劇的な上昇などバルクとは大きく異なる特性を示すことが知られ,束縛液体と呼ばれる。このような特性の変化が観測される距離は,液体分子間および液体分子-固体表面間の相互作用に強く依存する。材料やデバイスの微細化,高機能化が求められる中で,このような界面の効果を理解し,制御することはますます重要になってきている。具体的には,機能材料の設計,マイクロマシンなどの微小流路における液体の流れ,摩擦・潤滑,トラクションオイルによる動力伝達,固体表面の化学修飾,微粒子集積・配列制御などがあげられる。
このような固-液界面の特性を研究する有力な方法の1つとして,表面力・ずり測定ができる共振ずり測定装置が挙げられる。図1の左図に共振ずり測定装置の写真を示す。図1の中央の模式図より,ツインパスによる距離測定部と共振ずり測定部で構成されている。以下では,(1)ツインパス法による距離測定,(2)表面力測定,(3)共振ずり測定に分けて測定原理について説明する。
図1 第1世代の共振ずり測定装置(左),共振ずり測定装置の模式図(中央),第2世代の共振ずり測定装置(右) |
ツインパス法による距離測定の原理*1
従来の表面力・ずり測定装置は,表面間距離の決定に透過型多重干渉法である等色次数干渉(FECO)法を用いるために透明な試料基板のみが使用可能であった。
これに対して,本装置で用いるツインパス法は,図1のように反射型の干渉法を用いて距離決定を行うために,不透明基板も測定可能である。
ツインパス干渉法の原理は,レーザ光を回折格子により2つに分け,一方を参照光用ミラーで反射し,もう一方を試料部下面から反射させ,これら2つの反射光の干渉による強度変化を4分割フォトダイオードにより検出する。この干渉光強度変化から得られる位相変化により,表面間距離の変化を決定できる。このような干渉光強度の観測による距離決定法では,通常は1つの干渉光のみを用いるので,変位の方向が不明になる。本測定方法では,これを補うために4つに分割した回折格子で位相を90°ごとにずらした4つの干渉光を測定に使用することで,リアルタイムで変位量と変位の方向を測定できる。本干渉計では,5μm以上に及ぶ広い範囲で距離分解能1nmの測定を可能にしている。
表面力測定の原理*2
表面力測定は,バネばかり法によって表面間相互作用力の距離依存性を精密に評価できる手法(本装置の場合は距離分解能1nm,力分解能100nN程度)である。円筒形の平滑な基板2枚を直交させて配置し,パルスモータを駆動させて下部の基板を移動させて表面間距離を制御する。パルスモータは差動バネにより1パルスあたりの駆動距離を微小化して用いる。モータの駆動変位量とツインパスユニットによって測定される実際の移動量の差として下部基板に接続されている板バネの変位を求めることで,相互作用力が算出できる。主に試料液体を2枚の基板間に挟むか,全体を液体中に浸漬して測定を行う。
共振ずり測定の原理*3-*10
ずり測定は,平滑な2つの固体表面に挟まれた液膜の厚みをナノメートルオーダで変化させながら,上の表面を平行に振動させて,そのずり応答を観測する測定である。特に栗原らが開発した共振法では,装置上部のずりユニットの機械的な共振応答を利用し,共振周波数と応答強度から挟んだ液体の特性による変化を評価する。共振周波数は上下表面のカップリング,応答強度は系の粘性を反映する。本手法には共振周波数における大きな応答を利用するため,感度が高くノイズにも強いという特徴がある。
測定方式としては,周波数スキャン方式とフーリエ変換方式*6の2種類がある。前者は周波数ωを変化させてそれぞれ応答を1点ずつ測定し,共振周波数と応答強度を得る。
一方,フーリエ変換方式は,共振ピーク近傍の1つの周波数ωで表面のずり駆動させて停止後の応答の減衰を測定し,これをフーリエ変換することで同様のデータを得る手法である。後者は前者よりも迅速に測定が可能だが,測定の正確さは前者の方が勝る。このようにして得られた共振カーブから,試料部の粘性変化や摩擦・潤滑特性が評価できる。
第1世代から第2世代へのモデルチェンジ
第1世代モデル(図1・左)から,第2世代のモデル(図1・右)へ,モデルチェンジした。本装置は共振ずり測定部とツインパスによる距離測定部からなる(図1・中央)が,第1世代では,ツインパスによる距離測定部がステージに懸垂していることと,ステージを3本の足で支える構造であったために微弱な振動に対しても不安定な構造であった。第2世代のモデルでは,これを改善するために底面からの積み上げ方法を採用し,ツインパスによる距離測定部を下部のステージにのせることで耐振性を増す構造にした(図1・右)。この第2世代の重心位置を第1世代のそれと比較すると下側に下がり,全体の振動発生を抑えることに成功した。この結果,この装置のキーとなる技術である距離測定の安定性と,距離分解能が改善し,液体厚みのナノメートルオーダの変化を安定的に連続的に測定することができる成果を得た。
まとめ
共振ずり測定装置(RSM-1)では,表面間距離をナノメートルオーダで変化させて共振ずり・表面力測定を行うことで,液体の構造化,摩擦・潤滑特性,固液界面の特性(表面電荷,溶媒和,吸着特性:例えば吸着高分子の広がりやかたさ)や力の起源の解明など,多くの特性を評価できる。また,従来型の表面力測定装置(SFA)では測定できなかった不透明試料についても,反射型の干渉法であるツインパス法を用いることで測定が可能である。
今後,潤滑剤,塗料・シーラント,化粧品の評価,機械,デバイス,セラミックスの表面評価など幅広い分野での応用が期待できる。
〈参考文献〉
*1 H. Kawai, H. Sakuma, M. Mizukami, T. Abe, Y.Fukao, H. Tajima, and K. Kurihara, Rev. Sci. Instrum., 80(2008) p.043701.
*2 J. N. イスラエルアチヴィリ,表面力と分子間力,朝倉書店
*3 栗原和枝,液晶,6(2002) p.34.
*4 H. Sakuma, K. Otsuki, K. Kurihara, Phys. Rev. Lett.,96(2006) p.046104.
*5 M. Mizukami, K. Kurihara, Rev. Sci. Instrum., 79(2008) p.113705.
*6 H. Sakuma, K. Kurihara, Rev. Sci. Instrum., 80(2009) p.013701.
*7 H. Mizuno, T. Haraszti, M. Mizukami, K. Kurihara, SAE Int. J. Fuels Lubr., 1(2009) p.1517.
*8 M. Mizukami, K. Kusakabe, and K. Kurihara, Prog. Colloid. Polym. Sci., 128(2004) p.105.
*9 K. Ueno, M. Kasuya, M. Mizukami, M. Watanabe, K. Kurihara, Phys. Chem. Chem. Phys. 12(2010) p.4066.
*10 Y. Kayano, H. Sakuma, K. Kurihara, Langmuir, 23(2007) p.8365.
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