SRV®は,摩擦摩耗試験と電気接触抵抗およびアーク放電を組み合わせた最先端の試験機であり,カーボンニュートラルモビリティのための合成多機能潤滑剤およびフルード配合の方向での技術革新を期待している.
日本総代理店:パーカー熱処理工業株式会社 計測器販売促進Gr. 2022/5
はじめに
リチウムイオン電池や水素燃料を動力源とする電気自動車(EV)は政策立案者が好む主流であり,ハイブリッド車(HEV),プラグインハイブリッド車(PEHV)がそれらに続く.既存の内燃機(ICE)もまだ継続運用されるであろう.EV / HEV / PEHVの潤滑剤とフルードは,耐摩耗性能とドレイン間隔を高いレベルで維持しつつ,インバーターやバッテリーパックを冷却するための液体だけではなく,電気モーターや減速機に注油する時に接触する際のアークおよび静磁界への適合性と併せて摩擦を大幅に低減させる必要がある.EV / HEV / PEHVで現在のトレンドである『e-アクスル』には,一つ以上の減速ギアと一つのディファレンシャルギアが含まれ,すべて一種のギアフルード(約3~4L)で潤滑されている.
電気自動車の潤滑要件は内燃機関車とは大きく異なるため,電気自動車や電動パワートレインへの移行には,新しいクラスの機能化フルードと摩擦摩耗試験機の採用が必要になる.SRV®は,摩擦摩耗試験と電気接触抵抗およびアーク放電を組み合わせた最先端の試験機であり,カーボンニュートラルモビリティのための合成多機能潤滑剤およびフルード配合の方向での技術革新を期待している.
機械的駆動部品の摩擦を削減することは,一次エネルギーの節約,燃料消費の削減,電気自動車の航続距離の延長につながる.OEM(オリジナル製品製造業者)は,使用段階の摩擦とCO2排出量に相関性があるため,摩擦の削減にますますの注意を払っている(GHGプロトコル:スコープ3/カテゴリー11排出量).
電気/電動パワートレインに対し理想的には転がり軸受を多用しているが,SRV®では並進オシレーションと回転運動環境下での摩擦摩耗試験を提供できるので適用が可能である.加えて,ハイブリッド(HEV)車/プラグインハイブリッド(PHEV)車では,トライボメトリック試験マトリックス(試験条件を振ったマトリックス表)を拡張し,充電または自発的な余剰電力供給をするためコールドスタートによってフルロードまたはハイロードに移行するため,より多くの合成潤滑油が求められる.ストップ&ゴーのサイクルは,過剰なブローバイ(吹き抜け)による燃料と水分の希釈だけではなく,酸およびスラッジの形成につながるアグレッシブな運転モードと言えるだろう.
1.SRV®試験機
SRV®試験機(SRV®の語源=独語Schwing-Reib-Verschleiss;英語:oscillation/振動,friction/摩擦,wear/摩耗)は,標準的な形状の試験方法と主にアプリケーション指向の試験で構成される,25を超える国際標準化および検証された試験方法*1を提供する.第5世代のSRV®は,最新のユーザーソフトウェアとさらなる機械的開発を盛り込んだ未来指向の電子コンセプト(フィールドプログラマブルゲートアレイシステム,FPGA)によって,前世代までのSRV®と比較して機能向上が図られている.しかしながら,SRV®試験の原理/原則は,従来モデルと共通している.オシレーション運動は,独自のリニア電磁モーターによって生成され,垂直荷重はギアシャフトスプリングシステムを介して試験片に付与される.二つの圧電センサーで計測された摩擦力は増幅器で直接摩擦係数に変換される.FPGAシステムでは,電気接触抵抗やアコースティックエミッションなどの多くの付帯データ操作に加えて,適切に設計されたファームウェアコンセプトによる柔軟な数値設定と電子制御の調整が可能である.したがって,早さが重視される二次的な試験パラメータは,瞬時にハードウェアで直接演算され,評価ソフトウェアの測定チャネルとして記録される.
SRV®試験機は,独自の駆動ユニットを具備している.リニアアクチュエータの正弦波運動は,変位センサーによって制御され,偏心またはクランクシャフトによって強制されることはない.その動作はクランクシャフトによる強制の影響が皆無のため,SRV®アクチュエータは,トライボコンタクトでの摩擦反応とトライボ酸化を伴った摩擦摩耗試験機のデザインの干渉を受けない.電気接触抵抗測定を組み入れることで,トライボフィルム形成の動力学,その耐摩耗性,耐久性膜の寿命,および耐荷重能力についての洞察が可能になる.潤滑剤の電気接触抵抗は,次の方法で調整可能である.
a.グリースには,導電性粒子を充填することができる(例:黒鉛)
b.導電性が小さい基油
または
c.導電性トライボフィルムの形成
2.D5706ならびにD5707準拠の摩擦摩耗試験への電気接触抵抗値測定の適用
グリースの機能的/トライボ的なプロファイルは,摩擦/摩耗特性(D5707),耐荷重能力または極圧能力(D5706-B)やフレッチング環境下での耐摩耗性(D7594)によって評価できる.D5706およびD7594は,新しいNLGI HPM HL仕様の一部である.摩擦係数の変化と並行して,電気接触抵抗値の観察は凝着摩耗メカニズムを特定するために有効なツールになりえる*2.
2.1 D5706準拠の極圧試験
慣らし運転(Running-inフェイズ)後,焼付き(スカッフィング)が発生するまで,荷重は2分ごとに100Nずつ増加する.
図1は,荷重と摩擦係数の変化に伴う電気接触抵抗値の変化を示している.2種類のグリースは,摩擦係数の変化は少ないながらも,電気接触抵抗値の違いを顕著に示した.
グリース#2の50℃と80℃試験では荷重増加伴い電気接触抵抗値が増加した.トライボフィルムは再構成されるよりも摩耗する方が早いため,高荷重域に達する前に,電気接触抵抗値は継続的に減少しているのが見て取れる.
2.2 D5707準拠の摩擦摩耗試験
2種類のグリースにおいて,50℃・80℃および120℃での摩擦係数の値と継時変化は,類似している(図2).そのため,これらのトライボロジー挙動は同等と評価されただろう.一方,電気的接触抵抗の値は,それぞれ試験温度または動作温度に依存する.両方のグリースともに120℃で低い電気接触抵抗を発生する傾向があるが,グリース#2は50℃と80℃で高い電気接触抵抗を示し,グリース#1は50℃でのみ示している.したがって,電気接触抵抗は摩擦係数よりも温度に敏感なことがわかる.
(1)フレッチング摩耗(図3)
微振動や高周波数での動きは,好まれず「見えない」ものだが,かなりの機能障害や損傷を引き起こす.電気自動車や電動パワートレイン,風力タービンの人気が高まる中,振動や小刻みなストローク下でのグリースによる摩耗保護が注目され,要望が高まっている.
(2)転がり運動時の摩擦摩耗
転がり軸受向けのエネルギー効率の高い(低摩擦)グリースは,可動性における将来の開発方向を象徴している.この新しいSRV®試験機ベースの試験コンセプト(ASTM WK71194)は,純粋な転がり運動での高いヘルツ接触圧力環境下でのグリースの摩擦摩耗挙動を区別できる*3.計測上の課題は,0.001未満の非常に低い摩擦係数である.WK71194の目的は,転がり運動環境下における摩擦に対するグリースの寄与を評価することである.
2021年のSRV®ラウンドロビン試験では,図4に示す両方のグリースが新しいNLGI HPM HL 仕様の50℃および80℃でD7594準拠の摩耗基準を満たしていることがわかったが,HPM HLではこれまでのところ50℃しか必要としていない.
転がり運動では,両方のグリースを摩擦のレベルで区別できる.これは,スライディング環境下のグラフ(図2)では見られなかった挙動である.
グリース#1(NLGI 2)とグリース#2(NLGI 3)は,ベースオイルがそれぞれポリエチレングリコールと鉱油であり,概念上に大きく異なるので,摩擦係数の違いは驚くべきことではない.ポリエチレングリコールが様々な接触抵抗の原因となる,もしくはトライボフィルム形成添加剤としての役割も果たすかどうかは,表面分析と配合物の開示によってのみ明らかにすることができる.
(3)ブレーキオイルで潤滑されたシールリングの摩擦音
内燃機関より発するノイズ(騒音)は着実に減少し,電気自動車やハイブリッド車がバッテリーモードで走行している場合には,ほぼ感知できない.結果として,ブレーキオイルのゴム状シールは,VDC/横滑り防止機構とブレーキマスターシリンダーの作動からの可聴ノイズを見込む必要がある.ゆえに,ラボ試験の需要が生じる.
EPDMサンプルの前処理と慣らし運転の後,評価は15の異なる動作点で始まり,15の動作点のそれぞれについて少なくとも10の全負荷サイクルの摩擦係数μ(t)を記録する.2mmのストロークの環境下で,10N / 15N / 20N / 30N / 40N / 50Nの荷重における動作点は,それぞれ2Hz / 3Hz / 4Hz / 5Hz / 6Hzである.これらには,オイルの温度と含水量も含まれる.スティックスリップによって発生する可聴ノイズの場合,摩擦信号の変化は強い振動を示す(図5を参照).
基準は,摩擦信号の上部包絡線(Upper Envelope)と下部包絡線(Lower Envelope)の間の表面積の算術平均σ(Δ)平均となる.
図6は,マッピング形式でのテスト結果例を示している*4.オイル1は,摩擦またはスティックスリップによって誘発されるノイズを生成する傾向があり,温度上昇に伴い減少し,オイル2と明確に区別できる.マッピングから,オイル2はすべての動作条件下でノイズを生成しないことが予想できる.DIN51834 *5,パート5の目的は,15N / 20N / 25Nの荷重のセットを減らして,フィールドに関連する幅広い試験条件を通して,実際の動作におけるノイズ傾向の包括的なマッピングを取得することである.DIN51834-5の試験方法は,他の作動油や潤滑油および様々なエラストマーにも適用できる.
<参考文献>
1.M. Woydt and A. Schneider:Application oriented tribological test concepts, Lube Magazine, No.159, October 2020, p.22-27
2.G. Patzer and M. Woydt:New methodologies indicating adhesive wear in load step tests on the translatory oscillation tribometer, LUBRICANTS 2021, Vol.9, Issue 10, 101, (open access), https://doi.org/10.3390/lubricants9100101
3.A. Schneider:Rolling grease test adapter offers new testing opportunities, Lubes and Greases EMEA, April 2018, 32-39
4.M. Hilden:Development of NOise & WEar standard tests for brake fluids, Proceedings of Annual Conference of Gesellschaft für Tribologie e.V. (www.gft-ev.de), September 2021, p.49 / 1-49 / 13, ISBN 978-3-9817451-6-0
5.DIN 51834, part 5:“Quantification of the frictioninduced noise development of brake fluids in EPDM-steel contacts”
お問合せ(要望事項と送付先を入力してください。)
トライボロジー試験機の紹介
- 高速往復動摩擦試験機TE77
三洋貿易 - FZG歯車試験機とその概要
三洋貿易 - PCS Instruments社製MTMミニトラクション試験機
島貿易 - スラスト型摩擦摩耗試験機「トライボット」
神鋼造機 - HEIDONトライボロジー試験機
新東科学 - HEIDON荷重変動型摩耗試験機「HHS2000」の特性
新東科学 - 摩擦摩耗試験システムTYPE:HHS2000S
新東科学 - SRV(R)4(振動摩擦摩耗)試験機
パーカー熱処理工業 - 薄膜分析測定器,SRV(R)4(振動摩擦摩耗)試験機
パーカー熱処理工業 - SRV(R)5振動摩擦摩耗試験機 アプリケーションベースの振動摩擦摩耗支援の業界標準
パーカー熱処理工業 - ネットゼロモビリティ向け潤滑剤ならびにフルードの開発促進に寄与可能な摩擦摩耗試験機SRV(R)
パーカー熱処理工業 - 共振ずり測定装置RSM-1
アドバンス理工 - トライボロジーを開拓する共振ずり測定装置(型式:RSM-1)
アドバンス理工 - トライボロジー試験機 低速滑り摩擦試験機(LVFA)/SAE #2試験機/シンクロナイザリング単体試験装置
オートマックス - 自動摩擦摩耗解析装置「TS-501」
協和界面科学 - 独自の摩擦力検出機構と動作機能を採用した多機能摩擦摩耗解析装置
協和界面科学 - 自動摩擦摩耗解析装置TSf-503
協和界面科学 - 速度変動摩擦測定機μV1000
トリニティーラボ - 静・動摩擦測定機「TL201Tt」 潤滑剤摺動特性とタック性評価
トリニティーラボ - 摩擦摩耗試験サービス
日立パワーソリューションズ