食物への異物混入が話題になったので,機械の潤滑油剤を食品機械用潤滑油に切り替えたのですが,一般産業用機械に使われる潤滑油剤の添加剤と食品機械用潤滑油剤に使われる添加剤に違いはあるのですか。あるとすればその違いと安全性を保証するものを教えて下さい。
解説します。
1968年(昭和43年)に米ぬか油精製工程で熱媒体として使用された毒性の極めて強いポリ塩化ビフェニール(PCB)が,米ぬか油に混入する事故が発生しました。そのPCB汚染米ぬか油を摂取したために,PCBに含有されていたダイオキシン類による被害が発生しました。1999年現在,死者306人,認定患者1,871人を含む被害者総数は約14,000人に達しました。この悲惨な事故により,化学製品を規制する「化審法」が1974年(昭和49年)に施行されました。しかし,食品製造業の安全管理面の改善は充分でなく,ご指摘の食品への異物の混入に加えて,O-157菌による食中毒,乳製品の細菌汚染などの問題が頻発しているのは残念なことです。
人の健康と生命に直接かかわる食品製造工場で衛生管理を徹底するのであれば,食品機械用潤滑剤を使用すべきと考えます。米国では食品・医薬局(Food and Drag Administration:FDA)が食品機械に使用される潤滑剤の原料の安全性を審査し,合格した化学物質をFDAリストに記載します。また,近年まで農務省(United State Department of Agriculture:USDA)が食品機械用潤滑剤の規格を開発し,それに基づき,求めに応じて潤滑剤を試験して,合格製品に対し証明書を発行し,合わせてUSDAリストに製造会社名,商品名を記載しておりました。USDAへ試験依頼のために提出する潤滑剤は,FDAで承認された原料だけで製造しなければなりません。しかしUSDAリストには商品名だけで使用された原料の記載がありませんので,どの添加剤が使用されているのかは明らかでありません。
USDAの規格で食品機械用潤滑剤は次の2つに分類されております。
H1:食品に触れる可能性のある潤滑剤
H2:食品に触れないシステム(クローズドシステム)用の潤滑剤
FDAリストには43の化学物質がH1分類の潤滑油用として記載されております。そのうちの若干を表1に列挙します。一般の潤滑油添加剤の多くは,化学構造から判断して食品機械用潤滑剤には適さないと考えます。
表1 H1分類潤滑油用化学物質の例
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1998年にUSDAはH1/H2の見直しと,H1/H2潤滑剤の登録を中止しました。ELGI(欧州グリース協会)/NLGI(米国グリース協会)の共同ワーキンググループはISO(国際標準化機構)に食品機械用潤滑剤の,USDA基準を基にしたISO規格の設定を申し入れており,ISOはその方向で検討を進めております。
一方,米国の非営利組織であるNSF International(国際衛生科学財団,NSF:National Sanitation Foundation)は,かつてUSDAが行っていたH1/H2潤滑剤の認証と登録業務を始めております。わが国には,NSF東京連絡事務所が開設されています。