JFEアドバンテックのAE-210は,検出したAE波を信号処理することで絶縁劣化を検知する診断装置であり,その主な用途は配電設備の電力ケーブル端末部,開閉器などの絶縁性能の劣化検知である。AE-210を用いて診断を行なった事例について紹介する。
1. ポータブル診断器の概要
AE-210は,検出したAE波を信号処理することで絶縁劣化を検知する診断装置であり,その主な用途は配電設備の電力ケーブル端末部,開閉器などの絶縁性能の劣化検知である。図1にAE-210の機器構成を示す。電力ケーブル端末部,開閉部,断路器,変圧器等に専用センサを押し当て,測定スイッチボタンを押すだけで部分放電に伴う信号を計測・解析し,絶縁劣化状態の指標となる結果をスペクトラム表示する装置である。 (*AEとはAcoustic Emissionの略)
図1 AE-210の構成 |
検出原理はAEセンサの受信信号を特殊処理し,部分放電成分のみを抽出,この抽出成分を信号処理しスペクトラム分析にて電源周波数の2倍成分を取り出すことで劣化レベルを定量的に判定することが出来る。
診断の高感度化とともに結果を数値表示することで診断技術の簡素化ならびに的確化を図ることができる。また,診断データを数値管理することにより,継続的な保守のためのデータ管理,設備の異常管理などが可能となる。
主な特長は次のとおりである。
(1) 作業性
- 活線状態での測定に対応
- 安全性を考慮したセンサユニット
- 完全バッテリ駆動
(2) 診断結果視認性
- 信号の周期成分を抽出し,スペクトラム表示
- 放電成分の数値表示
- 専用のパソコンソフトによる報告書作成
2. AE-210による診断事例
AE-210を用いて診断を行なったいくつかの事例について紹介する。
(1)高圧架空ケーブル用接続体
配電線に間欠地絡事象が検知されたため,調査を実施したところ架空ケーブル設備があったため,高圧架空ケーブル用接続体の診断をAE-210を用いて実施した。図2に示すように3相あるうちの黒相のみで特長周期成分が検知され,さらに場所を変えて成分強度を調べた結果,絶縁栓近傍に損傷があることが推測された。
そこで,高圧架空ケーブル用接続体を撤去して原因調査を実施した結果,絶縁詮のEPゴム界面に多数のトラッキング痕が見られ,損傷部位と本装置による診断部位とが一致した。架空線部材は,日射の影響を受けるため熱画像による診断は困難であったが,AE-210で的確な診断が実施できた事例である。
[外観図] |
[分解した絶縁栓] |
[ポータブル診断器で検知された特徴周期成分] |
図2 高圧架空ケーブル用接続体の異常診断例
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(2)都市型装柱用高圧気中開閉器
配電線に間欠的な相間短絡事象の原因となっていた高圧気中開閉器を回収し,AE-210の適用性検証を実施した。なお,部材は撤去後絶縁回復しており,商用電圧下での使用が可能なものであった。
そこで,回収した高圧気中開閉器に商用電圧を印加した状態でAE-210による計測を行なったところ,図3に示すように開閉器裏面及び側面分岐側で顕著な特長周期成分が検知された。AE-210で部分放電によるものと推測されるAEの検知を確認した後,部材を分解して部分放電位置を確認した結果,特長周期成分が検知された場所に近い,区分用ブッシングに炭化導通経路が見られた。
以上のことから,高圧気中開閉器に対してもAE-210による診断が可能であると考えられるため,現在はフィールド検証を進めている。
[外観図] |
[分解調査状況] |
[周期成分計測例] |
図3 高圧気中開閉器の診断事例
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(3)柱上用高圧気中開閉器
絶縁低下を起こした高圧気中開閉器について,本装置で診断を実施した結果,図4に示すような特長周期成分を検知した。内部への浸水点検を実施したが,異常は確認されなかったため,詳細調査を行なったところ,開閉器蓋パッキン部が劣化し,気密が保たれず湿気・結露により絶縁低下を起こして放電事象が発生していたものであることがわかった。これは,微量な水分侵入が起因して発生した部分放電によるAEをAE-210が検知できたことにより異常を発見できた事例といえる。
[外観図] |
[検知した周期成分] |
図4 柱上用気中開閉器の診断事例
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(4)高圧分岐装置
配電線の定期巡視時,サーモグラフィにより発熱測定を実施した。3分岐タイプの高圧分岐装置の1相に,他相より約20℃高い発熱事象が検知されたためAE-210で測定したところ,ジャンクションを中心に,いくつかの測定点で計測を実施した結果,各測定点で図5に示すような特長周期成分が顕著に検知され,特にジャンクション上部で最大値を示した。
本部材は,固着顕著のため開放撤去できず,切断撤去を行なった。内部調査の結果,AE-210による診断結果と同様に通電経路となる接続面周辺に発熱によると思われる溶損や変色が見られ,接触不良による発熱が生じていたと結論された。AE-210により,サーモグラフィの発熱が部分放電によるものと確認でき,撤去判断を誤らなかった事例である。
[熱画像] |
[外観図] |
[AE法周波数スペクトル] |
図5 高圧分岐装置異常検知例
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3. 今後の課題,結論
電力ケーブル端末に使用される絶縁ゴム部材の劣化診断を行なうために,部分放電検知技術としての本装置の適用性を検討し,以下の結論を得た。
(1)絶縁ゴム材料中に発生している部分放電を本装置により感度良く検知可能である。
(2)絶縁ゴム部材自身の劣化のみならず,内部の接続部での接触不良なども,AE-210により検知可能である。
今後の課題としては,多種多様な設備の劣化診断手法を確立するために,フィールドの知見と基礎的な知見とを融合させていくことが重要である。AE-210は,局所的な計測精度に優れるが広範囲を簡便に検査するという点では不適な面もある。例えば,サーモグラフィのような面検査可能な技術と組み合わせることで,より確度の高い診断が可能になると考えられる。
用語注釈
- アコースティック・エミッション:材料の微小な破壊,摩耗等に伴って放出される一種の音。
- 検波処理:波形の輪郭線のみを抽出する処理。
<参考文献>
1.武田,柴田,小田:平成14年電気学会電力・エネルギー部門大会論文集,Vol.B(2002) pp.224-225.
2.武田,小田,渕上:(社)日本非破壊検査協会保守検査特別研究委員会保守検査シンポジウム講演論文集,(2003)pp.103-108.
3.特許第3756473号
4.特許第3756486号
5.電気現場技術VOL.44 No.512 p45-47
解説 コンディションモニタリング
- 設備診断技術の動向と今後の展望
大阪市立大学 大学院 川合 忠雄 - ガスタービンにおける設備診断の現状と課題
IHI 小林 英夫 - 原子力発電プラントにおける設備診断の現状と課題
東芝 渡部 幸夫 - 鉄鋼プラントにおける設備診断の現状と課題
新日本製鐵 村山 恒実 - 化学プラントにおける回転機設備診断機器の有効な活用法
三井化学 三笘 哲郎 - 化学プラントにおける設備診断の現状と課題
昭和エンジニアリング 里永 憲昭,梶原 生一,山路 信之,三重大学 陳山 鵬 - 地震時のエレベーター自動診断・自動復旧システムの開発
三菱電機ビルテクノサービス 西山 秀樹 - 設備診断技術を設備管理にどう活かすか
新日本製鐵 藤井 彰 - 振動診断のメカニズムと特徴,今後の展望
三重大学 大学院 陳山 鵬 - AE診断法とその特徴,今後の展望
THK 吉岡 武雄 - 超音波診断のメカニズムと特徴,今後の展望
高知工科大学 竹内 彰敏 - 音響診断のメカニズムと特徴,今後の展望
広島大学 大学院 中川 紀壽 - 潤滑油測定のメカニズムと特徴,今後の展望
福井大学 大学院 岩井 善郎