設備診断技術の動向と今後の展望 | コンディションモニタリングBOX | ジュンツウネット21

設備診断技術の動向と今後の展望 では,設備診断・管理技術が重要視される背景,技術革新による設備管理,設備診断に関する研究や技術開発などを解説する。

大阪市立大学 大学院 川合 忠雄  2007/11

 

昨今は様々なところで不十分な設備管理による重大な事故が頻発している。エレベーターやジェットコースターの事故,原子力発電所の地震対策の不備,橋の崩落など,どこでいつ事故に遭うか分からない不安な状況が生まれている。また,メディアでも「21世紀はメンテナンスの時代である」と報じられており,消費者・ユーザーも高性能で安価なものを求める時代から,安心・安全を求める時代に変わってきた。「壊れない機械や設備はない」ので,それを「いかに安全・効率的に使うか」が主流になるのは必然である。

そこで,まずは近年,設備診断・管理技術が重要視されるようになった背景について整理してみる。

1. 設備診断・管理技術が重要視される背景

(1)老朽化

化学,原子力などの大規模プラントは,設備が設置されてから何十年にもわたって稼働するので,その間の劣化や故障に対応するのはこれまでも重要な課題だった。バブル後の低/マイナス成長下では,ライフサイクルの短い生産設備でも当初の設計以上の期間,製造を続ける必要が生じ,更新ではなくメンテナンスで設備を維持する必要が生じた。橋梁や建造物の場合にも,高度成長期に作られたインフラが劣化し,鋼構造物やコンクリート構造物の老朽化が進んでいる。現状では,これらの設備・構造物を単に更新するだけの余裕は少なく,今後も使い続ける,あるいは計画的に少しずつ更新し続ける必要がある。

(2)2007年問題

社会的にも大きな問題になっている2007年問題では,これまで生産現場で設備を維持管理してきた人たちが大量に退社し,それまでのノウハウがうまく引き継がれずに,これまででは考えられなかったトラブルが発生している。特に中小企業では,熟練者の経験をノウハウとして伝承するシステムが十分には機能しておらず,非常に深刻な事態になると予想される。当面の対策としては,退職した人の再雇用で凌いだとしても,2010 年には再度深刻な事態になると言われている。

(3)安全・安心な社会

食の安全をはじめとして,例え非常に古い設備(例えばストーブ)だったとしても,消費者やユーザーが安全・安心を強く求めるようになってきた。以前は,高性能で安価な製品であればOKであったものが,多少高くても安全なものがよいと変化してきたのである。改正された消費生活用製品安全法では,死亡事故や火災など重大事故を知ったメーカーや輸入業者は,10日以内に報告することが義務付けられた。従来から実施されていた製造物責任法に加えてメーカーの責任がより重くなり,早急な対応を求められるようになった。さらに,エキスポランドの事故のように,法的には義務づけられていた設備のメンテナンスが行われていなかったことは,安全・安心を確保するためには単に法を整備するだけでは達成できず,実際に設備を管理する人の認識も高める必要があることを示したと言える。

以上のように,今後,設備診断・管理の対象となる機器や設備は非常に広範なものとなる一方で,それを管理する技術者が減少するために,技術者のレベルアップを図っていくことが重要になると考えられる。しかし,精神論だけでそれを達成することは非常に困難なので,維持管理するための技術の革新が必須になる。幸いなことに,以下のような最近の技術革新のおかげで,様々な技術を設備管理に利用できるようになってきた。

2. 技術革新による設備管理

(1)インターネット技術

従来,コンピュータはWindowsのようなOS上で様々な機能を実現してきたが,最近はGoogleに代表されるようにWebブラウザをOSと見立てて,ブラウザさえ利用できればインターネット経由で各種のソフトを利用できるようになってきた。近い将来,OSが何であれインターネットに接続されていれば,どんな処理でも可能になると予想される。セキュリティの問題を解決する必要があるが,このような時代には設備・機械がどこにあっても,インターネットを介してどこからでも診断・管理が可能になる(ユビキタス社会)。

現在スタンドアローンのコンピュータで使われているデータ処理ソフト(例えばGPLの統計処理ソフトR)もネットワークに対応しつつある。

(2)ワイヤレス通信

ワイヤレスネットワーク通信規格が発展し,現在までに様々な形態の通信機器が開発されてきた。小型・近距離の通信ではRFIDがポピュラーで,製品のトレーサビリティを確保するために使われるようになった。保存できる情報量が増えれば,管理対象機器の使用履歴をRFIDに保存することも可能になる。IEEE 802.11の規格はb/a/gからnへと移行し,今後ますます高速化していくだろう。

一方で,低速ではあるが消費電力が少なく安価なアドホックネットワークとしてセンサーネットワークが用いられるようになってきた。センサーネットワークを用いることにより,ある範囲にわたって分散するデータを収集することが可能となり,対象の全体的な状態を把握することができる。センサーネットワークの有効な利用方法については現在模索されている段階であるが,設備の診断をする上で重要な技術になっていくものと予想される。

(3)組み込み型コンピュータ機器

携帯電話に代表されるような情報端末機器には,小型/低消費電力/高性能な情報処理装置が組み込まれている。これらは単にCPUが小さくなっただけではなく,A/Dコンバータなどの周辺機能も組み込まれ,ひとつのデバイスでいろいろな機能を持っている。また,開発の汎用性や効率のアップを目指し,DSPやPLDのように従来ハードウェアで実現していた機能をソフトウェアで実現するように変わってきた。各種センサーの小型化と相まって,今後これらの情報機器がすべての機械や設備に組み込まれるようになるのも決して夢ではない。

一方,診断に用いる機器の汎用性を確保するために規格の統一や診断を担当する技術者のレベルを認証するシステムづくりも進んできた。

例として,通信のプロトコルとして,PLCではSCADAなど,マシニングセンターではオープンNCの規格化が挙げられる。計測ではNI 社のPXI,プロセス監視ではOPC(OLE for Process Control)が策定され,各社の装置を相互に利用する環境が整えられてきた。また,診断を担当する技術者を認証し,国際的にも通用するシステムも整えられてきた。ISO機械状態監視診断技術者(振動)はすでに2004年にスタートし,2008年からは同(トライボロジー)もスタートする。

3. 設備診断に関する研究や技術開発

 現在,設備診断に関する研究や技術開発は特に以下の項目について集中的に行われている。

(1)計測

対象の機器・設備の状態を把握するためにはセンサーの開発が欠かせない。近年は材料にセンシング素子(光ファイバーなど)を組み込んだインテリジェントマテリアルが開発され,構造部材そのものが“痛み”を感知できるようになってきた。半導体プロセスを利用したMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイスとして,圧力センサーや加速度センサーなどの各種センサーが開発され,小型化と信頼性向上に大きく寄与している。加速度センサーとAEセンサーを一体化したセンサーも開発され,同一のセンサーで同一個所の性質の異なる信号を同時に計測し,診断に役立てる研究も行われている。また,センサー素子とデータ処理プロセッサーを同一パッケージに組み込み,計測したデータをデバイス内で処理し,結果を情報処理装置に渡すものも開発されてきた。特に対象を画像で計測する場合には,カメラ素子から情報処理デバイスへ伝達される情報量が非常に大きく,そのままでは高速な処理ができないが,上記の複合化されたデバイス(例えば三菱電機製の人工網膜LSI)を用いることにより,対象物の動きなどの特徴を瞬時に計測することができる。画像処理は設備診断分野でも非常に有効な情報処理手段であるので,今後これらのデバイスを用いた診断が普及していくと考えられる。

(2)診断

センサーで取得した情報を処理し,対象の機器・設備の状態を診断する手法も数多く開発されてきた。診断手法は,統計的手法とモデルベース手法に大きく分けられる。統計的手法では,従来から行われてきた多変量解析に加え,自己組織化マップやSVM(サポートベクトルマシン)などのニューラルネットワークを用いた手法が多数提案されている。これらの手法では,対象の情報が十分に得られない場合でも,すでに得られている統計的な情報に基づいて対象の状態を判断できるので非常に有効な手段である。

一方で,診断の精度が事前に得られている情報に依存するという欠点もある。

モデルベース手法では,対象を数式などのモデルで記述し,対象の振る舞いとモデルの振る舞いを比較することによって,対象がどのような状態にあるかを診断する。あるいは得られたデータに基づいてモデルのパラメータを同定することにより,対象の状態を診断する。この手法では,対象を精度良くモデル化することができれば,対象のどの部分がどの程度損傷しているかを定量的に診断できる。

一方で,対象が複雑な場合にはモデル化自体が困難,あるいはモデルの検証をするために必要なデータを得ることができないという問題がある。

計測・診断のプロセス

図1 計測・診断のプロセス

4. ツールの開発や設備管理を見直す動き

上記の研究は,従来の延長/発展上の研究・開発であるが,これらの研究に加え,最近では診断を支援するためのツールの開発や経営的な観点から設備管理を見直す動きが出てきた。従来から行われてきた設備診断では,診断を行う技術者が計測・処理して得られたデータを自分自身の過去の経験に基づいて判断し,どこでどのような故障が生じているかを判定する必要があった。このプロセスを自動化あるいは支援するシステムが開発されると経験の浅い技術者でも的確に設備の診断ができるようになる。適用可能な技術の例としては,製造工程の不具合をデータベースに蓄積し,意味ネットワークを利用して設計の工程でも容易に利用可能とするVisual Meister(オムロン製)で挙げられる。経営における戦略的な観点から保全を見直す動きとしては,MOSMS(Maintenance Optimum Strategic Management System)がプラントメンテナンス協会から提案されている。この考えでは,経営的な観点から策定した保全戦略に基づき,保全を実行するとともに保全に関わる人材の育成までをカバーしている。

今後,保全を非生産部門として経費削減の対象とするのではなく,生産活動にとって戦略的に非常に重要な部門として再認識されていくものと予想される。

5. 設備管理技術の今後

以上,非常に大まかに設備診断に関係するこれまでの動きを概観した。図2に設備管理技術の今後をまとめてみたが,実際にはすでに多くの機能が実装されつつある。

設備管理技術の今後
図2 設備管理技術の今後

全体のイメージとしては,対象の機器に分散的に装着されたインテリジェント化・小型化され通信機能を持った計測デバイス/ユニットから,種々のセンサー情報(温度,加速度,振動など)がネットワークを介してサーバー(サポートセンター)に集められ,それらの情報をフュージョン/インテグレーションすることによって対象の機器の状態を診断することになる。また,過去の情報に基づいて現在起こっている異常がどのようなものであり,どのような対処を取ればよいかを診断システムが管理者の支援をする。異常が確認できた場合には,現在のメンテナンス計画を見直し,経営的な判断を含め,短期,長期的な計画を策定/修正することになる。

上記のように設備診断技術の今後の動向を眺めてみたときに,これらの技術を単に一分野の研究者・技術者で開発することは不可能である。また,直接設備管理に携わっている研究者・技術者だけで開発することも困難である。設備診断に対するニーズや重要性を多くの人に知ってもらい,デバイスからソフトの開発までを一丸になって進めることが重要である。そのためには他分野の研究者と情報を共有することも重要になる。日本では多くの場合に学会や分野の垣根が高く,情報の共有や協業が進まない。

筆者は,これまで日本機械学会,日本設備管理学会,日本トライボロジー学会の各研究会をつないで,合同の研究会やシンポジウムを企画してきたが,設備診断という非常に多くの分野にまたがる技術を開発するために,今後ますます多方面にわたるネットワーク作りに邁進したいと考えている。少しでもご関心をお持ちの方はぜひ設備診断ネットワークに加わっていただき,安全・安心なものづくり,設備の運用に貢献していただきたい。読者の方々のご参加,ご協力をお待ちしている。


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