ガスタービンにおける設備診断の現状と課題 | コンディションモニタリングBOX | ジュンツウネット21

ガスタービンにおける設備診断の現状と課題 では(株)IHIの納入した,ガスタービンコージェネレーション発電設備サイトを対象とした,遠隔監視方法とその活用例などを紹介し,その現状と課題を論じる。

株式会社IHI 小林 英夫  2007/11

はじめに

ガスタービンを用いたコージェネレーション発電設備は,その総合効率の高さおよび近年のCO2排出規制,NOxの低減など社会的な環境保護の観点からも普及が進んできた。しかし,近年の原油高騰の影響でその普及にもかげりが見え,特に経済性を重視した運用方法,排出余熱の有効利用,化石燃料から天然ガス化およびバイオ燃料の検討など,様々な工夫が要求されている。

このような状況下では,より一層の整備費の低減と安定運用確保が重要な課題となっており,ここで取り上げる設備診断,予防保全などもその目的達成のための主要な技術として,コージェネレーション設備メーカー,運用メーカーなどが取り組んでいる。

本稿では,(株)IHIの納入した発電設備サイトを対象とした,遠隔監視方法とその活用例などを紹介し,その現状と課題を論じる。

1. ガスタービンコージェネレーション発電

ガスタービンコージェネ発電装置のシステム構成例を図1に,設置例およびガスタービンの写真を図2に示す(IM270発電設備の例)。主要機器は,ガスタービン,減速機,発電機,排熱ボイラーおよびガス圧縮機であり,それら各々の操作機器と状態監視計器類で成り立っている。

ガスタービンコージェネレーション

図1 ガスタービンコージェネレーション
コージェネプラント全景/ガスタービン設置写真
コージェネプラント全景
IM270ガスタービン/ガスタービン設置写真
IM270ガスタービン
図2 ガスタービン設置写真

ガスタービンの動作は,おおよそ次の3つの状態に区別して考えることができ,故障はこの内のどれかの中で発生する。

(1)始動時:始動時は様々な補機機器類が順次起動し,ガスタービンのスタータが起動して回転が始まり,燃料噴射,着火確認を経て加速し,自立回転数に到達判断後,発電機と電力系統網との同期投入となる。

(2)定常運用時:発電同期により電力系統網と接続された後,負荷を上げて定常運用に入る。この時点で排熱ボイラーが炊き上がり蒸気を発生し,この蒸気は工場プロセス用,あるいは蒸気タービンなどの駆動用,もしくは発電出力増加のため,ガスタービンへの蒸気噴射が開始されるなど,様々な用途がある。

(3)停止:ガスタービン出力を減少させ,電力系統網と切り離した後,冷却運転に入り,燃料をカットして停止に至る。この間も補機類が順次停止していく。

このような動作のうち各ユーザーの運用は,毎日あるいは,週ごとの起動/停止,もしくは24時間連続運用など様々である。

いずれの運用形態でも,設備の故障は即,工場操業,採算性に影響を与える。故障停止の場合,電力会社との契約により補給電力の供給を受けられるが,ペナルティー料金がかかる。また,工場蒸気の停止は独自にバックアップボイラーを用意するなどの体制がないと操業損失を与えてしまう。

以上のような状況下では,複数台のコージェネレーション設備,バックアップ制御,予備補機なども考慮されるが,何より故障時の即応体制および故障予防保全整備の充実が望まれている。

2. ガスタービン発電設備の遠隔監視の概要

(株)IHIでは,航空機ジェットエンジン製造の他に,その技術の流れを汲んだ,自社開発のIM270(2MW~蒸気噴射で2.5MW),ロールスロイス社の航空転用型ガスタービンIM400(4MW~蒸気噴射で6MW),さらにGE社の各種航空転用型LM1600(10MW)~LM6000(47MW)などのガスタービンを原動機とした,コージェネレーション設備および非常用発電装置他,一部ポンプ駆動用など多様な設備を設計,製作,納入しており,それらのメンテナンスも引き受けている。

これらの制御装置およびプラント運用制御装置,監視装置などは,(株)IHIの独自の開発製品であり,ハードウエア,ソフトウエアともに社内設計,製作を行っている。

これらすべての監視計器データ,操作状態および操作,イベント記録などが監視システムに取り込まれる。その項目数はアナログ,デジタル合わせて約1,000以上にも達する。

これらのデータを最速10msec~200msecごとに取り込んで監視しており,1秒ごとに蓄積データとして蓄えている。

2.1 遠隔監視システムの構成とデータ処理

弊社の遠隔監視システム(愛称:あいモニター)は1995年に実用化されて以来,多くのユーザーに導入していただいている。

当時はダイヤルアップ電話回線による遠隔監視システムとして構成し,2003年からはインターネットを使用,また社内ネットワークと融合した遠隔監視システムを開発し,現在に至っている。インターネット構成の導入により,利便性,経済性,通信速度,信頼性,セキュリティが格段に向上している。

2.2 遠隔監視システム構成

図3に,遠隔監視システムの全体構成を示す。この監視システムは,次のi )~iii)のパートで構成されている。

遠隔監視システム

図3 遠隔監視システム

i )サイト(現場)の通信機器
 現場に設置される機器は,サイト通信装置,ルータおよびADSLモデムで構成されている。サイト通信装置はGT制御装置からの種々のデータを取得して,インターネットを介してIHIデータサーバに送信,ルータはインターネットからの不当なアクセス,攻撃,妨害を除去するなど,セキュリティを確保する役目を担っている。

ii)インターネット
 インターネットインフラストラクチャーは,プロバイダ業者が提供するものであれば特に制限はない。従来のダイヤルアップ電話回線では,データ通信費がかかっていたが,DSL,常時接続などの普及により今や全世界での適用が低価格で実現可能となっている。

基本的には,プロバイダ業者とのインターネット契約は,お客様にて実施いただいている。

iii)遠隔監視サーバと技術者端末
 IHI側のシステムは,主に遠隔監視サーバ,および技術者端末から成り立つ。

遠隔監視サーバには,各サイトから送信されてきたデータが格納されている。これらのデータを監視,解析に使用する端末が技術者端末であり,社内ネットワークに接続されており,現在は設計部門,カスタマーサポート部門およびサービス関連会社にそれぞれ設置して,設計から現場に最も近い部門まで情報を共有して作業の協力体制を敷いている。

社内ネットワークのセキュリティは,専門部門により管理されており,お客様の貴重なデータの機密保持を確保している。

2.3 遠隔監視システムの特徴

この設計コンセプトは単に運転データをモニターするだけではなく,制御ロジックや入出力信号リスト,属性ファイルなども参照できるようにし,また現場で観察している画面イメージの情報も遠隔にて再現した。さらに短期トレンド,長期トレンド,トリップ時のトレンドなども監視できるようにし,故障発生時には遠隔監視側の技術者端末に警報を発報する仕組みが組み込まれている。このため社内の技術者端末では,サイトと同じ情報を同じ画面で現場のオペレータや作業員と同じ情報を見ながら,故障などのデータ解析,アドバイスの提供を行えることである。

この基本的な機能のうえに,異常発生時の警告,ならびにメール発信による通知機能,また運用データなど情報の蓄積から,運用傾向分析,管理限界との相関など様々な解析ツールを有し,付加価値的な機能を有している。

図4に技術者端末の待ち受け画面,図5にサイト情報画面,図6にリアルタイムモニタリング画面を示す。

技術者端末 待ち受け画面

図4 技術者端末 待ち受け画面
サイト情報画面

図5 サイト情報画面
リアルタイムモニタリング画面

図6 リアルタイムモニタリング画面

3. 故障診断・予防保全への活用

従来,故障発生時にこの遠隔監視システムにより,ホームオフィスにて故障時のデータを解析し,故障分析,対応指示など迅速かつ正確な対応を実現してきた。さらに蓄積された故障事例およびユーザの長期データの解析などから故障予知,予防診断への対応にも力を発揮してきている。

故障には,突然予兆なく発生するものとある程度の予兆を見せて発生するものと大別できる。

前者では,故障確率などの統計データを活用しつつ,定期的な点検,交換などにより保全していくことが重要で,遠隔監視,運用傾向だけでは捕らえられないが,多くのサイトでの故障事象の統計処理のためのデータ提供として,本遠隔監視システムを利用している。

一方,予兆を見せて発生するものは,当然遠隔監視による分析で未然に防げるものであり,傾向分析機能と結びつけて故障の未然察知に注力している。傾向分析ソフトでは,数ヵ月から数年にわたるデータ群から,データ同士の相関関係などを掴み,最近の運用評価,事前の故障察知を試みるものである。(画面例=図7

傾向分析ソフト入力画面

図7 傾向分析ソフト入力画面

以下,故障診断,傾向分析例を示す。

3.1 故障診断と故障予防保全の例

i )事例-1 ローラ軸受損傷の兆候(図8
 ボールとローラの2つの軸受構造を持つ1軸式のガスタービンのローラ軸受が損傷した例である。通常はボール軸受の軸振動とローラ側の戻り油温度のモニターで管理していたが,いずれも限界値以内だったが,損傷の約50分前に戻り油温度が30℃ほど上昇,その後15℃程度低下して回っていたことが判明した。以後戻り油温度と給油温度との温度差または,温度上昇率も監視項目に加えることで,軸受損傷のごく初期に兆候を捉えられるようにした。

軸受損傷の兆候

図8 軸受損傷の兆候

ii)事例-2 NOx管理(図9
 ドライ低NOx燃焼器をもったガスタービンで排気ガス中のNOx値が暫増していった例である。これは希薄予混合燃焼といって,空気とガス燃料を空気過剰状態で混合させ,パイロット燃料を火種として比較的低い燃焼温度を保ってNOx発生を抑制している。過去の故障例では,ガスタービン内部の損傷により空気配分が狂って空気不足になり,NOx値が上昇していく経験を持っており,すぐに内部点検が必要な状態と判断されるが,本モニターによりパイロット燃料制御弁の動きが異常で,火種からの燃料が増加してNOxを発生させていることが分かった(メインの燃料流量が減少し続けているが,総燃料流量は減少していないことからパイロット流量が増加と判断)。これにより,燃料制御の調整にて正常状態に戻すことができた。

NOx管理

図9 NOx管理

iii)事例-3 性能劣化傾向とその原因(図10-110-2
 弊社モニターでは,データの蓄積により,過去と最新のデータの比較から現状の運用状態の診断が可能である。この例では発電出力に対する排気温度が上昇傾向にあり,ガスタービンの性能劣化が見える。この原因として圧縮機吐出圧力(CDP)の低下傾向も捉えられており,このことから圧縮機翼の汚れが進んできていると判断される。対応として空気取り入れ口のフィルターを交換,長期的にはより細かいフィルターメッシュに置き換えてもらうことで,性能劣化傾向を抑えることができた。

性能劣化傾向 排気温度

図10-1 性能劣化傾向 排気温度
性能劣化傾向 圧縮機

図10-2 性能劣化傾向 圧縮機

iv)事例-4 振動値の長期監視(図11
 本例では,1年間の軸受軸振動のトレンドを追跡モニターしていて,振動限界値以内であったが,その変化を捉えて事前にガスタービン損傷拡大を抑えた例である。

本ガスタービンは油膜ダンパーを持った構造で,比較的軸振動は高目で,油温,油圧によって振動値が変化するが,その変動幅を超えて上昇した時期を発見し定期点検を1週間ほど早めて点検し,タービン翼の一部の欠損を発見した。これは普段からの状態監視により,小さな変化を捉えて未然に大きな損傷を防いだ例である。

振動値の長期監視

図11 振動値の長期監視

v)事例-5 運用形態の監視による提言(図12
 これも長期的な運用データの整理からガスタービンコージェネレーションの有効な活用を提言した例である。

このシステムは,排熱ボイラーから発生する蒸気をガスタービンに噴き込むことにより出力を最大50%アップさせることもできる熱電可変のIHI-FLECSシステムの運用である。この図では横軸にユーザへの送気蒸気量でこれが多いほど,ガスタービンへの蒸気噴射量が減り出力も低下する。このマップの濃い部分の面積が使用可能範囲で,常に上限の線に近い部分での運用が最もメリットが出る能力線であり,まだ余裕のある運用であった。

このように使用範囲のマップ上に現在の運用ポイントを示すことによって,ユーザーがどのように使用しているかが把握でき,これにより運用アドバイスも可能となっている。

運用形態の監視

図12 運用形態の監視

4. 現状の課題と将来展望

4.1 あいモニターの実績

ガスタービンコージェネ設備の普及とともに,弊社あいモニター導入サイトも増加し,故障時の迅速,正確な対応によるサービス向上および故障事例からその予知などに効果が顕れており,その評価として顧客満足度アンケートでもその向上が確認されている。

4.2 ユーザーからの要望

故障予知の徹底であるが,これはデータ蓄積による統計的な管理限界を定めて予兆警報
を鳴らすことなどに取り組んでいる。

一方,予兆なしの突然の故障は,予防保全整備,機器の寿命予想(これも実績に基づくデータから)の地道な積み上げを行っていく。

また,老朽化した設備では,設備診断も受けており,サンプリングにより劣化診断とともに過去の運用,整備記録から総合判断しコストパフォーマンス評価で修理規模内容,時期を検討し,提言している。

4.3 遠隔監視⇒調整⇒遠隔メンテナンス

今後は遠隔メンテナンスの時代に突入していくと考えられ,お客様と供給側のコミュニケーション技術(ICT技術)をどのように活用していくかが鍵となってくる。

運用状態を評価して,メーカーサイドから制御系統などに自動調整をかける,などは技術的には可能であるが,この管理体制,安全性などマネジメント的な課題が残る。

一方では,設備メンテナンス部品,交換機器類のユーザー側,メーカー側双方の在庫情報管理の統合による部品管理,自動供給,さらに顧客データベースの充実,維持管理による,いわば医療カルテ式の定期的な診断開示なども今後のサービス向上の課題として考えられている。

また,設備の更新に関するデータ提供も重要な課題であり,長年の整備,運用データの提供と評価,コストパフォーマンスの検討など評価基準の整備もメーカー側の課題と捉えている。

おわりに

遠隔監視システムは当初,故障時対応の目的から始まり,状態監視,評価さらに故障予兆の発見と進んできている。今後は厳しいコスト環境の中で効率的な整備サービスが求められており,さらにユーザ側の立場に立ったサービスの充実を目指してIT技術をフルに活用して取り組んでいきたい。

 

<参考文献>
*1 原動機発電設備へのIT技術の応用(遠隔監視技術),日本ガスタービン学会誌,2007年11月号


○旭化成エンジニアリング
http://www.asahikasei-eng.com


○インテクノス・ジャパン
http://www.intechno.co.jp


○三洋貿易
http://www.sanyo-si.com/


○JFEアドバンテック
https://www.jfe-advantech.co.jp/


○JFEプラントエンジ
http://www.jfe-planteng.co.jp/


○日鉄ケミカル&マテリアル
https://www.nscm.nipponsteel.com/chemicals/lubricant.html


○テクノサポート
http://www.technosupport.co.jp


○鉄原実業
http://www.tetsugen.com/


○トライボテックス
http://www.tribo.co.jp/


○ナブテスコ
http://www.nabtesco.com


○日本エスケイエフ
http://www.skf.jp


○プラントサービス
http://www.aps-jp.com/


○プラントテクノス
http://www.plant-technos.co.jp/


○ヤマシンフィルタ
http://www.yamashin-filter.co.jp/