最近,大型減速機の音が大きくなり,振動も激しくなってきたような気がします。大きな事故にならないうちに処置したと思いますが,重要な個所に使用されているため長期間停止できません。とりあえずの応急処置を教えてください。
解説します。
大型減速機の騒音トラブルについて
主要設備に使われている容量750kWの大型減速機の事例を紹介します。
重要設備であることから,振動計,マシンチェッカー,軸受温度センサにより定期的に点検診断しておりました。振動値が上昇したことから,点検間隔を短縮して傾向を調べておりましたら,2ヵ月後に音響,振動共に上昇し,このままでは大事故になると考え,18時間の休止チャンスを利用して,開放点検しました。軸受外輪の回り止めノックピンが折損し,軸受ハウジングが1~1.2mm摩耗,またギヤ歯面に歯当たり不良による,強いピッチングが発生しており,早急に修理を要する状況でした。しかし,完全修理には2~3ヵ月かかりそうなので,とりあえず応急処置を施すべく検討しました。
まず,ハウジングの摩耗状況は図1に示すように,上下ハウジングとも,回転方向負荷側に,ベアリング幅で楕円状の溝摩耗ができていました。これに対して,肉盛溶接では熱歪と,仕上げ精度に問題があるので,図2に示すように摩耗部全体ではなく,約6mm幅の線肉盛溶接としました。溶接棒は予熱不要,作業性良好,硬度が得られるということで,硬化肉盛用溶接棒を使用しました。
図1 軸受ハウジングの摩耗状況 |
図2 軸受ハウジング摩耗部肉盛状況 |
溶接部手仕上げは楕円摩耗を生かして,摩耗していない面を基準面にし,ベアリングアウターレースの外面に光明丹を塗って,すり合わせしながら棒グラインダーで施工しました。特に真円度および円筒度に注意しました。
ギヤの歯面ピッチングについては歯当たりが強く,ピッチングが発生した面を,サンダーで手仕上げ研磨して,歯当たりが前面にのびるようにしました。
なお,ベアリングアウターレースには回り止めノックピンをしっかり取り付けました。
手回しでギヤの回転状況,ギヤの歯当たり,バックラッシュの確認をし,無負荷運転に入りました。各軸受け部組み込み温度センサにより,軸受温度カーブが一定になるまで約2.5時間運転し,音響,振動とも異常がないことを確認したので,正式に運転を再開しました。この間14時間の設備停止でした。6ヵ月後も温度,音響,振動に異常はありません。ただし,ケーシングなどを準備して,早い時期に完全修理を実施する予定です。
コンディションモニタリングBOX
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コンディションモニタリング機器の紹介
解説 コンディションモニタリング
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